第8話 実戦経験を積もう
「『氷の矢よ! 我が敵を貫け! アイスアロー』!!」
私の放った魔法が的のど真ん中を貫く。
前回の魔法の失敗から二週間、お父様につきっきりで訓練を付けて貰った事で私は魔力の精密な制御が出来るようになった。
具体的には一般人レベルの出力を把握するという意味で。
そしてお父様からお墨付きを貰った所でついに攻撃魔法を教えて貰ったのだ。
「うむ、魔力だけでなく魔法の制御も上手くなったな」
お父様が良く頑張ったなと頭を撫でてくれる。
「お父様の指導のお陰です!」
「はははっ、嬉しい事を言ってくれる」
お父様の撫でる力が増し、私の髪がグシャグシャになる。
「わわわっ!?」
「おお、すまぬ」
すぐに壁際に控えていたカーリーが私の髪を直してくれる。
魔法の訓練中だから離れた場所で待機してもらっているから、用事が出来るたびにいちいち来てもらうのはちょっと申し訳ないな。
でも安全の為には仕方ない。
「ともあれこれだけ魔法の制御が出来るようになったのなら、次は実戦訓練だな」
「実戦訓練ですか?」
お父様が鷹揚に頷く。
「うむ。いつまでも動かない的ではこれ以上の成長は見込めんからな。実際に魔物と戦ってもらう事にする」
「魔物と!?」
遂に魔物と戦う時が来たか! あの日の魔物の大群から既にひと月近く経っていた。
もう心配はないと分かってはいるけれど、それでも自分の無力を悔やんだのはそう前の事じゃない。
でも今は違う。今の私は攻撃魔法を使えるようになった。
まだまだ使える魔法は弱いけれど、それでも戦う力を手に入れたのだ!
その魔法を実戦で使う事が出来る!
これは興奮するよ!
「準備もある為、実戦訓練は数日後になるだろう」
「分かりましたお父様!」
◆
それから数日後、私は町の外へとやって来た。
ただし今回の訓練に参加するのはお父様ではなく、お父様の部下の騎士達だ。
お父様も付いてこようとしたんだけど、お兄様とジョンソンから領主がついて行ってどうすると止められてしまった。
まぁ言われるのも仕方ないよね。領主で侯爵なんだもん。
超VIPだし、護衛が沢山必要だよね。
「リコアリア様、基本的に我々は手を出しません。リコアリア様の魔法だけで戦ってください」
「分かりました」
そうだよね。これは私の訓練なんだから、騎士達に戦ってもらっては本末転倒だ。
私は一行の先頭に立つと、周囲を見回して魔物を探す。
「リコアリア様、あちらにスライムが居ます」
そう言って騎士が離れた場所を指さす。
成る程、手は出さないけど口は出すんだね。
騎士の指差した場所を見ると、そこには水色のプニプニしたゼリー状の物体が動いていた。
「あれがスライム……」
スライムはゲル状の液体というよりはちゃんとまとまった形をしている。
丸くて柔らかいグミって感じのプルプル感だね。
スライムは私達に気付いたのか、転がりながら近づいてくる。
「賢い魔物は数の不利を察すると逃げますが、スライムは最も低位の魔物なので数の不利を理解できません」
なるほど、ゲームに出て来るスライムが主人公パーティにたった1匹で挑んでくる時があるのはそう言う事だったのか。いや流石に関係ないと思うけど。
ともあれ魔物がこっちに向かってきているのは確かだ。
私は呪文を唱えて魔物を攻撃する。
「『氷の矢よ! 我が敵を貫け! アイスアロー』!!」
放たれた魔法はスライムに直撃すると、その体を氷漬けにする。
おお! スライムがカチンコチンに! ちょっと感動!
「お見事ですリコアリア様」
騎士達が褒めてくれたんだけど、ふと私は凍らせたスライムのことが気になった。
「あの、あれって氷が解けたらまた動き出すんですか?」
そう、私の魔法は凍らせる魔法だから、氷が解けたらまた魔物が暴れまわるんじゃないかと心配になったのだ。
「ご安心を。あれをご覧ください」
騎士の言葉を受けてスライムに視線を戻すと、丁度氷漬けになったスライムがパキンと砕け散った。
「え?」
「スライムは死ぬと体を保てなくなって溶けるように死にます。今回は氷漬けだったので、氷が砕けた訳です。このように氷の魔法で氷漬けになった魔物が氷が解けた事で復活する事は滅多にありません」
「滅多にっていう事は無いわけじゃないと言う事ですよね?」
「はい。ですが生き残っても重度の凍傷になってまともに動けなくなることが大半です。またより上位の魔法には凍らせた相手を砕くといった、相手を確実に殺傷する効果があります。相手に止めを刺しきれない状況は属性の問題よりも威力の弱さが大半ですね」
そうなんだ。魔法の攻撃方法よりも威力の方が重要なんだね。
「とはいえ明らかに倒したと思っても実は死んだふりをしている事もあります。そういった擬態に騙されないよう、倒した敵の魔力や生命力を判断する術を学ぶべきでしょう」
おおう、そんな方法があるんだね。
「ですがそう言った技術はもう少し成長してからですね。今はまだ実戦で魔法を使う感覚を学ぶことに専念いたしましょう」
「分かりました」
話が一段落した所で私はスライム討伐を続ける。
「というかさっきからスライムしか出てきませんね。このあたりってスライムしかいないんですか?」
そうなんだよね。さっきからスライムしかいないの? ってくらいスライムとしか闘っていない。
「いえ、本来ならこのあたりにはもっと多くの魔物がいるのですが、今は騎士団(と侯爵閣下)によってめぼしい魔物が討伐されております」
「成る程、そうだったんですね」
なんか一瞬声が小さくなった気がしたけど気のせいかな?
ともあれ、それならそれでスライムをひたすらに倒すだけだ。
と思ったら何か大きいのが現れた。
「ゴブッ!!」
緑色の肌、邪悪な顔。どう見ても真っ当な人間ではありません。
「ゴブリンですね」
ゴブリン来ましたー! ゲーム序盤の定番悪役だね!
スライムに慣れてきたし、今度はゴブリンを倒すよ!
「『氷の矢よ! 我が敵を……つ、貫け! アイスアロー』!!」
「ゴブブッ!」
私はゴブリンに向かって魔法を放ったんだけど、ゴブリンに避けられてしまった。
っていうか人の形をした相手に攻撃するって凄くやりづらい!
「このっ! 『氷の矢よ! 我が敵を貫け! アイスアロー』!!」
けれどまたしてもゴブリンに攻撃を回避されてしまった。
なんでー!?
「リコアリア様、これが知恵のある魔物と無い魔物の違いです。ゴブリンはそこまで賢い魔物ではありませんが、敵の攻撃を避けようとする知恵があります」
つまりゴブリンは私の攻撃を回避しようと考えているから攻撃が当たらないってこと?
じゃあ敵に攻撃を当てるにはどうすれば……
私はゴブリンに狙いを定めては魔法を放つんだけど、ゴブリンは何度やっても攻撃を回避してくる。
そしてそのたびにゴブリンが近づいてくる。
「リコアリア様、敵が向かう先を読んでそこに攻撃を置くのです」
攻撃を置く!? どうやって!?
その方法が分からず、私はゴブリンを狙っては攻撃を回避されるというパターンを繰り返してしまう。
そして遂にゴブリンが私を射程に収め、武器を手に飛び掛かって来た。
「き、きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
にっちもさっちもいかなくなった私は、とにかく魔力を込めて魔法を連射する。
ババババババッ!! という激しい音と共にゴブリンが穴だらけになる。
「や、やった!!」
なんとか間一髪でゴブリンを倒す事が出来た私は、安堵でへたり込む。
本当に危なかったぁー。
「リ、リコアリア様……」
騎士達の声に振り返ると、そこには腰の剣に手をやったまま固まる騎士達の姿が。
「い、今の魔法は一体?」
「え?」
「あの様な魔法は見た事がありません……」
「……」
し、しまったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
つい慌てて魔力に物を言わせて魔法を連射しちゃったぁぁぁぁぁ!!
「え、えーっと今のは……その……」
何か、何か騎士達を誤魔化すいいアイデアはないの!?
「い、今のは……そう! 散弾です!!」
「「「「散弾?」」」」
一体それは何だと騎士達が目を丸くする。
「さ、散弾というのは、威力を下げる代わりに大量の魔法を同時に放って敵に攻撃を当てやすくする魔法技術ですよ!」
よし! これならどうだ! 確か地球の狩人が使ってるショットガンって散弾で、こんな理屈で攻撃を当てやすくしてた筈! 違ってもどうせ知ってる人なんていないし、ゴリ押すよ!
「なんと! その様な魔法の使い方が!?」
「わざと魔法の威力を下げる事で、少ない魔力で大量の魔法を発動させるとは、これは盲点だった」
上手くいくか心配だったけど、何とか騎士達は誤魔化されてくれた。
「さすがは侯爵閣下のご息女! その若さで見事な魔法技術です!」
よし! 良い感じだ! 前世の地球知識万歳!!
「これは私達騎士の戦闘にも活かせますよ!」
……え?
「「「「素晴らしいですリコアリア様!!」」」」
「い、いえ。それ程でも……」
ヤ、ヤバい事になった! このままだと魔力でゴリ押したとバレちゃう!!
◆
「『アイスアロー』!!」
ゴブリンを倒した私は、その後も魔法の訓練を続けていた。
ただし今やっているのは散弾魔法の訓練だ。
さっきのでまかせ散弾魔法を本当に出来るようにしないと!!
魔力の多さに頼らずに出来るようにならないと、後でやり方を教えてくれって言われたら大変なことになっちゃう!!
だから今のうちに練習して再現できるようにしておかないと!
「『アイスアローッ』!!」
奇しくも自身のこの行動がお父様が毎夜行っている魔法鍛錬の理由と同じである事に、私はまだ気づいていないのだった。
パパ「娘の魔法を再現する為にー!」
リコ「自分の出まかせを本当にするためにー!」
ゴブリン「似たもの親子だわー」
スライム「でも迷惑極まりなしー」
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凄く喜んでやる気が漲ります。