第7話 魔法の修行始めます!
魔法修行始まります。
「さて、魔物の群れの襲撃の事後処理も終わった事だし、そろそろ本格的な魔法の訓練を行うとしようか」
遂に来た! これまではお父様が事後処理で忙しかったから後回しになってたけど、ようやく魔法の修行が始められる!
「さて、リコアリアの魔法訓練だが、お前は何を学びたい?」
「え?」
あれ? 私が習う魔法はお父様達と相談して自分の身を守れるようなチョイスにするんじゃなかったの?
「先の結界の件でお前が使える魔法は強力な防御魔法だと世間に知れわたった。ほかの属性も使えるとしても主となるのは防御魔法だろうともな。なのでしばらくはその勘違いを利用することにする。基本使える魔法の件については肯定も否定もしない。だがお前を連れ出そうという動きがあった時にはこの噂を利用して、娘は領地を守る要に育てる為、外に出すつもりも嫁に出すつもりもないと外に宣伝するつもりだ。こう言ってはなんだが、防御魔法の使い手を強引に手に入れようとする者はいないからな」
成程、皆の勘違いを利用するのか。
これならお父様が事実関係をはっきり宣言するまで私が使える魔法は防御魔法であるという認識になる。
シュレディンガーの防御魔法という訳だね!
ただ、嫁に出すつもりがないと言った瞬間のお父様の目が輝いていた様な気がするのは気のせいだろうか?
「そういう訳で時間的な猶予も出来た事だからな、リコアリアには好きな魔法を学んでほしいと私は考えている」
「本当に、良いんですか……!?」
ここにきて私は自分で選んでいいと言われた事に戸惑ってしまった。
前世の私は親によってやりたくない事をやらされ、才能があると周りに太鼓判を押されてもお前の役には立たないとやらせてもらえなかった。
そんな私が好きな魔法を学んで良いなんて……
「普通は本人にもっとも適した魔法を学ばせるものだが、お前は特別だからな。だったらやりたい事を学んだ方が、意欲も出ると言うものだろう」
「っ!!」
おおっ!! 我が親ながらなんてイケメン! いやイケ親!!
後光が差して見えるよ!!
「うーん」
そうなると何を習おう。
やっぱり便利な転移魔法かな? 前世はこの世界に比べると格段に交通の便が良かったけど、それでもやっぱり一瞬で移動するアレとかソレが欲しいと思った事は一度や二度じゃない。
もしくは回復魔法かな?
何かあった時自分で自分を治療できるし、なにより回復魔法の使い手は食いっぱぐれる事がないと使用人達が言っていた。
多分前世の医者と床屋は食いっぱぐれないっていうのと同じなんだろうね。
……でもやっぱりなんか違うな。
私が覚えたいのは……
「決めましたお父様!」
私は自分が習いたい魔法をお父様に伝える。
「私攻撃魔法が使ってみたいです!」
そう、攻撃魔法だ。
別に誰かを傷つけたいわけじゃない。
でも魔法の花形と言えば攻撃魔法だと思う。
だって攻撃魔法が一番派手で見た目が魔法っぽいじゃない。
どうせ使うなら見栄えが良いもののほうが使ってて楽しいし!
まぁ更に言えば、どうせ最後は全部の属性の魔法を覚えるんだし、最初くらい趣味に走ってもいいかなって。
あっ、でも攻撃魔法を覚える事が出来れば、いざという時皆の為に戦えるからってのもあるんだよ。
ほ、ホントだよ!
「そうか、攻撃魔法を選ぶか。うむ、貴族らしい選択だな」
どうやら攻撃魔法を覚えるのは貴族としてテンプレな選択だったらしい。
好戦的なヤツと思われなかったのは良しとしよう。
「でだ! 使う攻撃魔法の属性はどうする!?」
そんな事を考えていたら突然お父様の声のトーンが上がった。
やたらと嬉しそうな気がするのは何故だろう?
「やはり私としては一番汎用性の高い氷の攻撃魔法などが……」
「「ちょっとまったぁぁぁぁぁぁ!!」」
と、そこでストップが入り誰かが部屋に入ってきた。
「ダリルお兄様!? ムリエお姉様!?」
そう、部屋に飛び込んできたのは、ダリルお兄様とムリエお姉様の二人だった。
「父上! さすがにそれは卑怯ですよ!」
「そうよ! リコに魔法を教える役目を独占するなんてズルいわ!」
「ちっ!」
ちょっ!? お父様今舌打ちした!?
ダリルお兄様とムリエお姉様の抗議を受けたお父様があからさまに舌打ちをするのを見てしまった。
「リコ! 風魔法がお勧めだよ! 風魔法は目に見えないから攻撃する時に有利だし、声を遠くに届けたり風に乗って長距離をジャンプしたりと色々応用が利いて便利だよ!」
「そうなんですね!」
へぇ、風って目立たないイメージだったけど、使い勝手が良さそうだなぁ。
「待てダリル。お前には騎士団の副団長としての役割があるだろう。それを疎かにして次期当主は務まらんぞ」
「うっ、それは……」
そうなのだ。ダリルお兄様はまだ若いけど、優秀な騎士である事から騎士団の副団長に任命されていた。
といってもダリルお兄様は次期当主なので、人を使う事を覚える為に副団長に選ばれた所が大きいみたいだった。
あと侯爵領は結構広いみたいで、騎士団長をサポートする副団長は複数人必要だったからその内の一つを任されたみたい。
まぁ次期当主を下っ端として働かせるわけにもいかないしね。
本人が親の七光りは嫌だと思ったとしても、下の者の気苦労を考えると七光りも必要なことなんだろうね。
「じゃあ私と訓練しましょ! 私の炎属性の攻撃魔法は見た目も綺麗だし何より威力が強いわ! 伊達に属性最強の攻撃力と言われてはいないわよ!」
ムリエお姉様はシンプルに見栄えと威力でアピールしてきた。
確かにゲームでも最初の攻撃魔法は炎が多いよね。
ただこれにはお父様が待ったをかけた。
「最初に炎の魔法を教えるのは危険すぎる。火傷や火事の危険が高すぎる。お前も初めての魔法でやらかした事は覚えているだろう」
「うぐっ!」
どうやらムリエお姉様は過去になにかやらかしたらしい。
「という訳で、リコアリアに教えるなら周囲への被害が少ない氷魔法が良いだろう。何かあったら私が制御できるしな」
「「ぐぬぬっ!!」」
心の底から悔しそうなお兄様達と、心の底から優越感に満ちた顔を見せるお父様。
ちょっ、三人とも身内どうしなんだからもうちょっと和やかにですね……
なんでうちの家族はこう大人げないんだろう……
ともあれそんなバトルを繰り広げつつも、私の魔法訓練が始まった。
「魔力の扱い方については魔法石で理解しただろう。今回は呪文を唱えて魔法を制御してもらう。私の唱える呪文をリコアリアも唱えながら魔力を魔法に流し込むのだ」
「魔力を魔法に流し込む?」
どうやってやるんだそれ?
私が首を傾げていると、お父様が苦笑しながら説明をやり直してくれる。
「リコアリア、目の前に氷の塊があると思いなさい。そしてその氷の塊に魔力を流し込むのだ」
なかなかふわっとした説明だけど、知識ゼロに比べれば大分マシだ。
「『穏やかなる水の流れよ、一時流れを止め結晶となれ! アイスピラー!!』」
するとお父様の前に 小さな氷の柱が生まれる。
「こんな感じだ。やってみなさい」
「はい! 『穏やかなる水の流れよ、一時流れを止め結晶となれ! アイスピラー!!』」
お父様の真似をして脳内イメージの氷に魔力を流し込む。
最初にちいさな氷の欠片が生まれる。すると氷は瞬く間に大きくなっていった。
「あとはこれを小さな柱に……って、あれ?」
私の生み出した氷は一瞬でお父様の作った氷の柱よりも大きくなってしまった。
しかも氷柱はぐんぐん大きくなっていって、あっという間に屋敷よりも大きくなっていった。
「リコアリア! 魔力を注ぐのを止めるのだ!」
「ど、どうやってーっ!?」
「何っ!?」
ま、魔力を注ぐのを止めろと言われても、どうやったら魔力が止まるのかが全然分からないんですけど!?
こ、これかなりやばいんじゃないの!?
このままだと周囲に被害が出るんじゃ!?
その時だった。
にっちもさっちもいかなくなって混乱していた私を誰かが強く抱きしめたんだ。
「え?」
「大丈夫だリコアリア」
「お父様!?」
そう、わたしを抱きしめたのはお父様だった。
「安心しなさい。おまえの魔法は私が制御する。お前は体の力を抜いて、魔法から手を放すつもりで魔力を止めなさい」
「か、体から力を抜いて、魔力から手を放す……」
お父様に言われるままに、私は体の力を抜いて行く。
幸い、お父様に抱きしめられている事が、上手く脱力に繋がっていった。
そして自分という蛇口を締める気持ちで魔力の放出を止める。
冷静になったおかげで、何とか私は魔力の制御を取り戻していた。
おかげでようやく氷の柱の成長は止まった。
「ふぅ、何とか止まったぁ……」
「良く頑張ったなリコアリア」
お父様が私の頭を優しく撫でる。
初めての魔法は失敗しちゃったけど、それでも最悪の事態は回避できたからまぁ結果オーライかな。
「けど、これどうしよう……」
私は目の前の巨大な氷の柱、いや氷の搭を見て冷や汗が止まらなくなるのを感じる。
不味い、これは本当に不味い。
さすがにこんな目立つタワーを作っちゃったらごまかしがきかないよ!!
スカイツリーならぬアイスツリーなんちゃって、ってそれどころじゃないわ!
どどどどうしよう!
「安心なさいリコアリア」
と、再びお父様の手が私の頭を優しく撫でる。
「お父様……」
「私に任せなさい」
◆ユーラヴェン侯爵◆
「という訳で先ほどの巨大な氷の柱はユーラヴェン侯爵様の魔法訓練によるものである。侯爵様はいつ魔物の群れが町を襲っても大丈夫なように日夜鍛錬をなさっておられるのだ!」
「「「「おおーっ!!」」」」
リコアリアの魔法の件は、私の魔法訓練のものだと言う事にしておいた。
私の魔法ならアレをやったと言ってもおかしくはないからな。
「さすがは侯爵様だ!」
「ああ、あの魔法ならどんな魔物でもカチンコチンだぜ!」
領民の反応は良好だ。
これならアレを行ったのはリコアリアだとはだれも思わないだろう。
あとは……
◆
夜、誰もが眠りについたころ、町から離れた人気のない場所で私は一人魔物と戦っていた。
「ぬぅうん!!『大地を白く染め上げる者よ! 汝、氷の女王の眷族よ! 我が宮殿に白き彫像の群れを討ち立てよ! フリーザーストーム!!』」
私の放った上位氷結魔法が魔物を纏めて氷漬けにする。
「はぁはぁ……くっ! まだだ!」
私は次の獲物を求めて夜の平原を移動する。
「侯爵閣下! いい加減一人で魔物と戦うのはおやめください!」
我が侯爵軍のフィリプ騎士団長が私を制止する。
やれやれ、侯爵という立場がある為、最低限の数の部下達を引き連れねば外に出る事も出来ないのはこういう時厄介だな。
「すまんなフィリプ。だが、私自身がもっと強くなる必要があるのだ」
「それならば我等騎士団に強くなれとご命じください! 我等はその為の騎士団。主を前線で戦わせるわけにはまいりません!」
「はっはっはっ、だから離れた位置から魔法で攻撃しているではないか」
「閣下! 言葉遊びはおやめください! 何故御身がそこまでされるのですか!」
フィリプが怒るのも無理はない。
そもそも侯爵が直々に戦うなど、そうそうない事。
いかに戦う事が貴族の務めとはいえ、実際は遠方から魔法を放つだけで役目を全うしたとされる事もあるくらいだ。
だが私の場合はそれではだめなのだ。
「決まっている。民の為だ!」
私はきっぱりと言い切った。
「先の大侵攻では危うく町を犠牲にするところだった。だが貴族として、領主として、民の帰る場所を失わせるわけにはいかん! 何より、それはお前達家臣の帰る場所でもあるのだからな」
「「「「閣下……っ!!」」」」
家臣達が感極まった声をあげる。
「承知いたしました。閣下がそこまで先の戦いを思い悩んでおられたとは! なればわたくしもヤボな事は申しませぬ! 心行くまで鍛錬にお励みください!」
「うむ、そうさせてもらう」
よし、これで口うるさいフィリプは誤魔化せた。
後は鍛錬に専念するだけだ。
リコアリアの作りだしたアレを再現する為にも!!
そう、またいつ魔物の大群が現れるか分からない。
あれを私のやった事と言った以上、万が一の時には皆が私にアレをやってくれと頼んでくるだろう!
その時の為にもなんとしてもアレを再現しなければ!
「アレが必要になる時が来る前にぃぃぃぃぃぃっ!!」
こうして、私の必死の特訓は続くのだった。
パパ「うおおおお! 娘にかっこつけたツケがぁぁぁぁぁ!!」
騎士達「さすが侯爵様! 我らの為あんなに必死で訓練をなされておられる!!」
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凄く喜んでやる気が漲ります。