第6話 侯爵の悩み、戦いの裏側
今回はパパである公爵のシーンです。
私の名前はジュラル・テル・ユーラヴェン。
バリディエ王国に仕える侯爵家の当主だ。
私には三人の子供が要る。
長男のダリル、長女のムリエール、そして末娘のリコアリアだ。
ダリルはまだ未熟だが、私の後継者として騎士団で日々鍛錬を積んでいる。
風魔法と身体強化魔法は騎士団の指揮官として非常に有用な力だ。
長女のムリエールは淑女としてはどうにも落ち着きがないが、炎魔法の才能は国内随一で男児でないのが悔やまれると騎士団の魔法部隊が嘆いていたほどだ。
父としてはもう少し花嫁修業を頑張ってほしいのだが、まぁそれは置いておこう。
最後に末娘のリコアリアだ。
肉親のひいき目を差し置いても可愛い。まさに天使。
妻の忘れ形見と言う事を差し置いても愛おしい。
兄と姉に似ず、幼いながらも我が儘を言わない手のかからない良い子だ。
ただそれ故に父としてはもう少し子供らしい我が儘を言ってよいのではないかと心配になる。
同じ事を子供達や使用人達も察したのか、皆あの子には甘かった。
歩く雷と呼ばれた私の父ですら、リコアリアに接する時だけはまるで別人のように甘くなるのだ。
正直言ってあの光景の1/10で良いから私にも甘くして欲しかった。いやそうじゃない。
そんなリコアリアだが、祝福の儀で凄まじい才能を秘めている事が分かった。
この事実が明らかになれば、間違いなく多くの者が娘を求めるだろう。
幸いその事実を知っているボルテド神官長はリコアリアを気遣って情報の秘匿に協力すると言ってくれた。
本当にありがたい事だ。
ただ問題もある。リコアリアの才能をどうやって伸ばすかだ。
全ての魔法の才能があるのは素晴らしい事だが、それを伸ばす為の師は慎重に選ばなければならない。
特に機密に関してはなおさらだ。
それをどうしようかと悩んでいたら、魔物の大群が町を襲った。
魔物は人を襲う。当然人がたくさんいる町など格好の標的だ。
ただ魔物にも知恵のあるものはおり、人が多くいる場所を襲えば返り討ちに遭うと理解している。
それ故にこうして群れをつくって襲ってくるのだ。
正直な話、魔物の群れが町を襲撃する事は割と頻繁にある出来事である。
なので我々も魔物を迎撃する備えは怠っていなかった。
町を守る防壁、訓練の行き届いた騎士団、そして結界による防衛。
これらの備えのお陰で我々は魔物の襲撃を防いできた。
しかし今回はいつもと違った。
魔物の数が多すぎるのだ。
しかも個々の魔物も普段よりも強かった。
その原因はすぐに分かった。魔物達を扇動する群れのボスがいつもの魔物達よりも格上だったのだ。
魔物の群れの強さと規模はボスの強さで変わる。
弱い魔物には弱い魔物しか従わないからだ。
そうした事情から防衛戦は激戦となった。
最初こそは我々の魔法で魔物の数を減らせていたが、ひっきりなしに追加される敵の援軍に我々の魔力が持たなかった。
戦いの序盤は結界のお陰で休む余力があったのだが、戦いが長引いた事で遂に結界の魔力が尽きてしまった。
おかげで我々を守る物は防壁だけとなってしまい、魔物の侵入を阻むために碌に休む事も出来なくなってしまった。
こういう時は群れを統率するボスを倒すに限るのだが、奴はよほどずる賢いらしく、丁度こちらの魔法が届かない場所に待機し、多くの仲間に囲まれて近づく気配もなかった。
どうやら序盤の戦いでこちらの魔法の射程を見極められていたらしかった。
やむを得ず、私は娘のムリエールをはじめとした騎士団に所属していない人間に協力を求めた。
「燃え上がれ焔の精霊よ! 全てを灰燼へと還せ!! フレイムセメタリ―ッ!!」
ムリエールの炎の魔法が多くの魔物を焼き尽くす。
「よし、魔物が減ったこの隙にボスを討伐するのだ!」
だが気が付けば魔物のボスの姿は何処にも見えなくなっていた。
どうやらどこかに隠れてこちらの様子をうかがっているらしい。
まさか我々の戦力を全て引き出すのが目的だったのか……?
ムリエール達のお陰でなんとか戦線を立て直したが、ボスが見つからない状況では全ての魔物を倒す以外に方法はなく、結局は数の優位に押し戻されてしまった。
くっ、おかしい! いかに高位の存在とはいえ、魔物がここまで賢いものなのか?
刻一刻と状況が悪くなってきた事で、私はある決断を迫られる事となる。
すなわち町を放棄しての撤退だ。
しかし一刻を争うこの状況で悩んでいる時間は無い。
私は民を連れての撤退を決断した。
この町を捨て他の町と合流する事で改めて魔物の群れに挑むのだ。
その為の旗印として、私の後継者であるダリルを逃す事を決める。
けれど私はここに残って殿を務める事を決意した。
この役割は誰かがやらねばならぬ。
訓練をしたこともない民を逃すのだ。どうしても安全な場所まで避難するには時間がかかる。
殿となった者達は間違いなく死ぬだろう。
ならば必ず死ぬと分かっている戦場で士気を保つためには私の様な地位ある者の存在が必要だろう。
幸い、ダリルは良く育ってくれた。
まだ甘い部分があるが、この戦いを生き抜けば成長してくれる事だろう。
リコアリアもまだ幼いので一緒に逃がしてやらねば。
ただムリエールには貴重な戦力として共に戦ってもらわないといけなかった。
「まーかせて! こんな時の為に私は魔法の訓練を頑張ったのよ!」
ダリルに内密であの娘に頼んだら、この様に二つ返事で受け入れてくれた。
とはいえ、頼りない父親で申し訳ないと心から詫びずにはいられなかった。
許せ、これが貴族の義務なのだ。
ただそこで想定外の出来事が起きた。
覚悟を決めた私が最後の戦いに挑もうとしたその時、驚くべき出来事が起きた。
突然背後から膨大な魔力の奔流を感じたのだ。
だが恐ろしいまでに膨大な魔力の高まりに反して、そこから感じたのはとても暖かなものだった。
そして迫って来た魔力の奔流が私達の体を通り過ぎたかと思うと、次の瞬間魔物達が嵐に巻き込まれたかのように吹き飛んでいった。
「なっ!?」
その衝撃的な光景から間もなく、再び結界が展開されたのだ。
「消失したはずの結界が!?」
私達は困惑した。一度切れれば再発動に何日もかかる筈の結界が突然復活したのだから。
けれどこのおかげで私達はようやく体を休める事が出来たのは本当にありがたかった。
だれもがもう限界だったのだ。
そしてこの状況が愛しいリコアリアのおかげでもたらされたと聞いた私達は、居てもたってもいられずリコアリアの元へと向かったのだった。
そんな奇跡のような出来事のお陰で、私は無事町を守りきる事が出来た。
まったくわが娘ながら誇らしい! あの子には何か褒美をあげないとな!
普段は遠慮ばかりする子だが、今回ばかりは嫌だと言っても甘やかすぞ!!
更に今回の件が民に知られた事で、娘が守護姫と呼ばれるようになった。
父としてとても誇らしい事だ。もっと褒め称えるのだ。
娘の才能の一端が民に知られてしまったが、これは寧ろ良い事かもしれないと私は判断した。
まず結界という防御魔法だったのが良い。
結界魔法は拠点防衛のための魔法である為、術者は一つ所に留まるのが普通だからだ。
なにしろ結界に使われる大型の魔法石は魔力を使い切った後は何人もの魔法使いが数日をかけて魔力を注がねばならない代物だ。
それをわずかな時間で満たすことが出来る人材とくればどこの町でも自分達の町に定住して欲しいと願うだろう。
また幼い娘が自分達を守る為に力を振るってくれたと知り、民のリコアリアに対する好感が高まったのも大きい。
自分達を直接守ってくれたリコアリアは民の味方だという認識が生まれた。
実際には魔法石に魔力を注いだだけだが、それでもリコアリアを強引に奪い取ろうとすれば、民は怒りリコアリアを奪われまいと拳を振り上げるだろう。
何しろ自分達の安全に直接かかわる事態だ。
こう言ってはリコアリアに失礼だが、誰だって魔物の前で武具を奪われたくはない。
そしてこれが一番重要だが、リコアリアが事を起こす現場は目撃されていない為、困った時は知らぬ存ぜぬで押し通せるのだ。
何か勘違いしてはいませんか? とな!
はははははっ!! 可愛い娘をそう簡単に手放してたまるものか!
あの子が嫁入りするまでは、いや大人になっても絶対に手放さんぞ!!
パパ「娘可愛いペロペロ」
兄「アカン、婚期が遅れる奴だ。それはそれとして妹可愛いペロペロ」
魔物「どっちもアカン()」
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凄く喜んでやる気が漲ります。