第4話 魔物の襲撃と守護の結界
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祝福の儀を終えて数日後、私はお父様と共に再び神殿へとやって来た。
「リコアリア様の魔法の件ですが、本来なら時間をかけて座学で魔法の危険性などを教えるべきなのですが、リコアリア様の膨大な魔力を考えると、なるべく早く実践を行った方がよいでしょう」
「うむ、そうだな」
ボルテド神官長の言葉に、お父様も同意だと頷く。
「そうなんですか?」
「リコアリア様は膨大な魔力を身の内に宿していらっしゃいます。ですが幼い体に多すぎる魔力は体の負担になるのです」
へぇ、そうだったんだ。
「ですので、なるべく早く魔法の訓練を始めて魔力を体外に放出する術を覚える必要があります」
成程、ガス抜きってわけだ。
「そうだな。では早速明日から魔法の訓練を行わせる事にしよう」
おおっ! 遂に魔法の練習が出来るんだね!
と期待に胸を膨らませたその時だった。
突然神官長の部屋のドアがドンドンと激しく叩かれる。
「神官長!!」
「何事ですか。大事なお客様が来ているのですよ」
神官長はやって来た人を窘めながらドアを開ける。
するとそこにいたのは若い神官だった。
「それが! 大変なんです!! 魔物の大群が町に向かってきています!!」
「魔物の大群!?」
何それ!? なんかもの凄いヤバそうなんだけど!?
「神官長、話の途中だが失礼する。すぐに軍の指揮をとらねばならぬ」
お父様はすぐに立ち上がるとボルテド神官長にそう告げた。
「ええ、我々もすぐに結界を張らせます。リコアリア様は迎えの方が来るまで教会で保護いたしましょう」
二人は慌てることなくテキパキと魔物の大群に対する対応を行ってゆく。
「お願いします。リコアリア、後で迎えを寄越すからここで良い子にしていなさい」
「あのっ、お父様、魔物の大群って大丈夫なんですか?」
私が説明を求めると、お父様は困った顔で笑いながら私の頭を撫でる。
「心配はいらない。良くあることだ。すぐに終わらせるから安心なさい」
そう言ってお父様はボルテド神官長の部屋を出ていってしまった。
「あの、ボルテド神官長、先ほど魔物の大群と言っていましたが、大丈夫なのですか?」
お父様が行ってしまったので、私はボルテド神官長に事情を聞く事にする。
「ほっほっほっ、ご安心めされよ。すぐに町を守る結界を張りますからな」
「結界……ですか?」
「左様、邪悪な魔物達から町を守る魔法の壁です」
「魔法の壁!?」
不謹慎だとは分かっているんだけど、つい魔法と聞いて胸がときめいてしまう。
「おおそうだ。折角ですから、結界を発動する所を見ていきますか?」
「え? 良いんですか?」
「ええ、構いませんとも。それにリコアリア様の資質を考えれば、一度見ておくのも良いかと」
私はボルテド神官長に連れられ、教会の中を歩いてゆく。
「リコアリア様、この町は、いえこの世界の人間が住む場所はたびたび魔物の群れに襲われるのです」
「たびたびですか!?」
ええ!? そんなに襲われてたの!? もしかしてこの世界って結構ヤバイの!?
「リコアリア様が知らぬのも無理はありません。大人になれば自然と知る事ですから、子供達を不安がらせないためにも幼い頃は余計な事を教えない様にしていたのですよ」
成程、私達の事を考えての事か。
外国で戦争が起きていても、わざわざ小さい子にその事を教えたりしないのと同じ感じなんだろうな。
「ここが結界の間ですぞ」
ボルテド神官長につれてこられたのは、円形の広い部屋だった。
部屋の中央には祝福の儀を行った部屋に置いてあった宝玉よりもさらに大きな宝玉が置かれている。
「神官長、皆準備が出来ております」
中で作業をしていた神官がボルテド神官長を確認してやってくる。
「うむ。リコアリア様、そこで見ていてくだされ」
「はい」
私はボルテド神官長に言われるままに部屋の隅に移動して作業を見守る。
「では始めようか。『大いなる盾の神ガードナーよ、民を守る守護の力を我等に授けたまえシティープロテクション』!!」
ボルテド神官長が呪文を唱えると、中央に設置されていた巨大な宝玉が輝き何かが体を通り過ぎたのを感じる。
何が起きたのかと身構えていると、ボルテド神官長がこちらを向いて告げた。
「終わりましたぞ」
「え? もうですか?」
ええと、もっとこう、呪文を維持する為に頑張るのかと思ってた。
「ほっほっほっ、一度魔法を発動させれば、この魔法石に込められた魔力で数日は結界を維持する事が出来るのですよ」
成程、アレは電池みたいなものだったんだね。
「さて、それでは外の様子を見に行きましょうか」
「外に出るんですか!?」
魔物が襲ってきてるのに大丈夫なの!?
「いやいや、教会のてっぺんにある物見の搭に上るのですよ。さすがにリコアリア様を外に連れて行くわけにはいきませぬ」
あはは、なーんだ。ホッとしたような残念な様な微妙な気持ちだ。
「ささ、行きましょうか」
私は再びボルテド神官長に連れられ、今度は神殿の上へと昇ってゆく。
そして神殿で最も高い位置にある物見の搭へと出ると、一気に視界が広がった。
「うわぁ!!」
高さは10階建てビルの屋上くらいの高さだろうか。町を一望して更にその外まで見る事が出来る程だ。
「これが私のユーラヴェンの町……」
物見の搭から見た町は一階建ての小さな家が沢山ひしめき合っていて、その中を大きな道路と小さな道路が血管の様に無数に広がっていた。
そして町の外周は周囲の家の何倍も高い壁によってぐるりと覆われていた。
「リコアリア様、あちらをご覧ください」
ボルテド神官長に促されて視線を向けると、遠い向こうからまるで蟻の大群の様な何かがこちらに向かってきているのが見えた。
「あれは?」
「あれが魔物の群れです」
「あれが!?」
魔物の群れって、多くても数十匹とかそんな数だと思ってたけど、あれ百や二百じゃ利かないよね!?
「魔物の数はゆうに千を超えておりますな」
「せ、千を越えてって、大丈夫なんですか!?」
多っ!? 歴史を習ってると千って結構少なく感じるけど、実際に見るとかなりの数だよ!?
「まだ見えぬ後続を考えるとそれ以上の数になるでしょうな」
「なるでしょうなって……」
さすがにコレは不味いんじゃないかと私が困惑していると、ボルテド神官長はにこやかな笑みを浮かべる。
「なーんて、大丈夫ですぞ。その為の結界魔法ですからな」
「え?」
突然おどけた様子を見せるボルテド神官長に私は戸惑ってしまう。
「まぁ見ててくだされ。ほれ先頭の魔物が結界に触れますぞ」
ボルテド神官長に言われるままに魔物の群れの先頭を見ると、いかにも恐ろしげな怪物の姿が見える。
ひぃー、あんなのとお父様達は戦うの!?
魔物はどんどん町に近づいて行き、その先にある半透明の壁に触れる。
って、壁? 何アレ?
あれは何かと聞こうと思ったら、壁に触れた魔物が弾き飛ばされた。
「え!?」
先頭の魔物だけじゃない。後続の魔物達が壁にぶつかる度に弾き飛ばされている。
「あれが結界の力ですぞ。あの結界のおかげで邪悪な者は町に入れなくなるのです」
な、成程。だからボルテド神官長は平然とした顔をしてたんだ。
「おお、リコアリア様、父君の出陣ですぞ」
「お父様?」
見れば町を守る防壁の扉が開き、そこから何百人もの騎士達が外へと飛び出す。
そして次々と魔法や矢が放たれ、魔物達が打倒されてゆく。
特に氷の魔法が凄い。ここからでも分かるほど巨大な氷を作りだし、魔物達を纏めて氷漬けに
していたのだ。
「凄い!!」
凄まじい威力の魔法に思わず興奮してしまう。
「ほっほっほっ、アレがリコアリア様のお父上の魔法ですぞ」
「あれがお父様の!?」
凄い! お父様が戦うところは初めて見たけど、あれは絶対すごいよ!
だって他にも魔法らしいものが飛んでいるところが見えるけど、お父様の魔法だけ群を抜いて凄いもん!!
「はぁー」
私も魔法の修行をすればあんな風に凄い魔法が使えるのかな?
あっ、あっちじゃ魔物が突然纏めて吹き飛んだ! あれも魔法なのかな!?
「リコアリア様」
私が戦いに夢中になっていると、ボルテド神官長が話しかけてくる。
「魔物は人を襲う存在です。それ故に人間は魔物に襲われない様に郷を作り、壁を作って身を守るのです。ですが、人里が大きくなるとこのように魔物もまた群れをつくって人里を襲ってくるのです」
「じゃあ町は大きくし過ぎない方が良いんですか?」
「いえ、規模こそ違えど小さな町でも魔物は群れになって襲ってきます。とはいえ人が一人で暮らすのは危険極まりありませんし、それでは人そのものが絶えてしまいます。それ故、強い魔法を使える者が多い貴族は、戦う事が義務とされているのです」
「義務ですか?」
「その通りです。貴族は魔物から民を守るが故に多くの特権を得ているのです」
成程、前世の地球の貴族の義務がこの世界だと魔物と戦う事になってるって訳か。
「とはいえ、リコアリア様は女子ですので、貴族の義務を守る必要はございませんが」
ああ、男子限定なんだ。多分男の子は継ぐからかな。
「ですが、一度はリコアリア様にこの光景を見て頂きたいと思っておりました。自分達貴族の特権がどのようにして守られているのか。そして貴女様のお父様お兄様がかような危険に身を晒し日夜民を守っているのだと」
そうか、ボルテド神官長は、私に貴族としての矜持を持ってほしいからここに連れてきたんだね。
「さて、それではそろそろ下に戻りましょう。戦いも数日は続くでしょうし、ここは風が強いですからな」
そう言われた事で初めてボルテド神官長が自分の体を盾にして私を風から守ってくれていた事に気付いた。
「ボルテド神官長、今日は色々と教えて頂きありがとうございました。私がやるべき事が少し分かった気がします」
そう、私の、この人生での父は貴族として立派に働いていた。
そして父親としても私を愛し、守ってくれているんだと。
それは、前世の私が得られなかったものだ。欲しくてたまらなかった、家族を愛する親らしい親の姿。
それが今日、はっきりと感じる事が出来た。
ここに来れた事で、私は大切なことを知る事が出来たよ。
ボルテド神官長には感謝だね。
「ほっほっほっ、そう言っていただけると私としても嬉しいですぞ。そうそう魔法の修行をするのでしたら、神殿で回復魔法や結界魔法などを勉強する事をお勧めしますぞ」
「ええっ!?」
「ほっほっほっ、冗談ですぞ」
もー、なんで最後の最後でオチを付けちゃうかな。
そんな風に他愛ない冗談で笑い合った私は、穏やかな気持ちで迎えの騎士達と共に屋敷へと帰った。
◆
それから数日が経ったのだけれど。
「お父様達、遅いなぁ」
お父様達は未だに戦場から帰ってくる様子はなかった。
結界「ばちーん!」
魔物「あいたぁー!」
魔物「カチンコチーン!」
侯爵「娘とキャッキャウフフする為に早く倒して帰るぞー!」
兄「派手な活躍したいけど、俺風属性だから父上みたいに目立てない―っ!!」
神官長「魔法の修行をする際はぜひ神殿で!」
リコ「駄目だこの大人達……」
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凄く喜んでやる気が漲ります。