第30話 道を作ろう
久々の更新です。
リコアリア魔道具店は順調に営業を続けていた。
魔道具は家電製品みたいなものだから、少ししたら客の入りも落ち着くだろうと思っていたんだけど、そうはならなかった。
と言うのも外からやって来たお客さんが新型結界魔道具を求めてやってきたからだ。
客層は国内の貴族達の第二陣と、商人達、それに国外の貴族達。
転移魔法使いの順番待ちだった貴族、この町に潜ませていた密偵からの情報を遅れて受け取った貴族、そして転移魔法使いに頼む伝手のない中小商人達である。
そんな人達が来るので、まだまだリコアリア魔道具店はお客さんで賑わいそうだ。
とはいえ、大半のお客さんは新型結界魔道具を買いに来る人達ばかりだから、それ以外の商品の売り上げは微妙なんだよね。
売れてない訳じゃないけど、新型結界魔道具に比べるとちょっとね。
まぁ新型結界魔道具が売れすぎてると言うのが正しいところだけど。
「お店に関しては売り上げが下がる様子もないし、暫くは新型結界魔道具を目玉に販売を続ければ大丈夫かな」
何しろギラン侯爵が独占していた結界魔道具は数十年もの間、現役で売り上げを維持していたみたいだし。
お父様も、「リコアリア、魔道具の新規開発というのはそれほどまでに難しいのだよ。それ故に皆技術の秘匿を何よりも重要視するのだ」と言っていたくらいだしね。
そんな訳で暫くは新型結界魔道具を作り続けるだけで良さそうなんだけど、生産速度に関してはお父様から厳しく制限をするように注意された。
というのも……
「優れた魔道具は複雑な構造をしている為に製造には時間がかかるのが常識だ。それゆえ生産があまりに早いと色々と裏を勘繰られる。早く作れと文句を言ってくる者も増えるだろうしな」
成る程確かにそうだ。
「また取引を有利に進める事も考え、完成した魔道具を店に出すのは実際の生産ペースよりも遅めに出すくらいが良いのだ」
とお父様に言われた事で、新型結界魔道具に関しては在庫に余裕を持った状態で店に下ろす事になっていた。
まぁこれにはもう一つ裏があって、新型結界魔道具を求めてやって来た人達が商品が無いからって手ぶらで帰る事が出来ないから、ギリギリまで商品が入荷されるまで町に滞在するようになったんだよね。
これによって宿屋や食堂に客が増えて領内にお金が多く落ちるようになったから、商業ギルドも大喜びなんだとか。
そうなると護衛の傭兵や冒険者もこの町で滞在する時間が多くなって、彼等が生活費を稼ぐために町の外で狩った魔物素材が町に卸されて売り物が増える。
お金を手に入れた冒険者達は売り上げで装備の修理や買い替えを行うから鍛冶職人達にもお金がはいってユーラヴェンの町全体が好景気に沸いていた。
しかもこれはユーラヴェンの町までの途中にある村や町にも恩恵が出ているらしく、領内全体も結構な好景気らしい。
魔道具一個でここまで景気が良くなるんだから、そりゃあギラン侯爵も気が大きくなるってもんだよね。
そして今、その事が関係しているのか私はお父様に呼び出されて執務室へとやってきた。
「お父様、およびですか?」
「来たかリコアリア」
お父様は嬉しそうな顔で私を抱き上げると、膝の上にポスンと乗せる。
うーん、まるで飼い猫状態だね。
「それでお父様、私を呼んだ理由は何ですか?」
「ああ、そうだったな」
お父様は表情を引き締めるとさっそく本題に入る。
「リコアリア、お前の店で取り扱いを保留していたアレを使わせてもらいたいのだ」
突然アレという抽象的な言い方をされた私は一瞬何のことかと首を傾げたのだが、すぐにそれが何のことなのかを察する。
「……え!? アレですか!?」
一体何で!? アレは問題があるから良く考えて使うべきだってお父様も言っていたのに。
「リコアリアは領内の魔物の数が減っている事を知っているか?」
「はい、ダリルお兄様に教えて戴きました」
そう、領内にやってくる人が増えた事でもう一つ良い事があったのだ。
それは新型結界魔道具を求めてやって来た貴族や商人の護衛をしていた冒険者達によって領内の魔物が数多く間引かれた事だ。
これによって街道の安全性が増え、領民が安心して生活できるようになったのである。
「うむ、私はこの件を利用して領内の開発を行おうと思っているのだ」
「領内の開発ですか!?」
おお! 開発!
確かこの世界は魔物の数が多すぎて開発どころか町を防衛するのも大変なんだよね。
でも人が増えすぎると今の町の規模じゃこれ以上の発展が見込めないから、いつかは開発が必要になるらしい。
そんで魔物を警戒しながら必死で開発を行うから、進行は遅いし被害も増えるしお金もかかるんだとか。
だからこそ、魔物の数が減った今にやりたいんだろうね。
「既に開発予定地は決めてある。ただそこまでの距離が長く、少人数での輸送は危険だ。しかし大人数の護衛をつけるのも金がかかる。そこでだ、以前お前から店に並べるべきか相談を受けたあの魔道具を使わせてほしい」
執事のジョンソンが傍に控えているから、お父様は作ったとは言わずに新商品という言い回しをする。
「小型結界魔道具を、領地開発で使いたいのだ」
それはかつて謎の錬金魔法使いニコラが華々しいデビューを飾りつつも、その後は語られる事の無かった魔道具の名前だった。
魔物「知らない間に減っていました」
小型結界魔道具「久々の出番です」
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