第28話 開店リコアリア魔法具店!
6/2に第3話の後半を加筆修正しました。
「遂にこの日がきたかぁ」
二階の窓から通りを眺めると、道路にはたくさんの人でごった返しているのが見える。
「あれが全部私のお店のお客さんなんだ……」
そう、ここは私のお店、魔道具のお店だ。
そして今日はそのお店の開店日。
一応看板のおかげでここが何のお店なのかは、開店前から伝わっている。
でもだからこそ、ここまでたくさん人が集まるとは予想外だった。
だって魔道具って結構なお値段だからね。
皆が店の前でいつ開店するのかと待っていると、お店から店員が姿を現す。
「これよりリコアリア魔法具店を開店いたします!」
「「「「「おおおおおおっ!!」」」」」
開店の声と共に、お店の扉が開かれる。
うん、お店の名前は気にしないでほしい。
私では止められなかったんだ。主に身内が。
ともあれそんなわけでお客さん達が猛烈な勢いでお店に殺到する。
「押さないでください! 順番に! ゆっくり入ってください! 商品の在庫は潤沢ですから!」
一階から店員達の悲鳴が聞こえてくる。
うーん、これは列を作って交代制で入るようにした方がよかったなぁ。
まさか高級品である魔道具の店にこんなにお客が来るとは思わなかったよ。
「お嬢様、あまり身を乗り出すと危のうございます」
メイドのカーリーが私の肩をつかんで、部屋の中へ引き戻す。
「凄い人だね。こんなに来るとは思っていなかった」
「それはもう、お嬢様のお店ですから」
いや、それは関係ないと思うよ。
「おそらくは商人に扮した密偵だろうな」
そう言ったのはダリルお兄様だった。
「密偵ですか?」
「ああ、平民が魔道具を買うにはちと金額がな。買えても安い魔道具くらいだ。そして一度買ったら壊れるまで使い続ける」
確かに。地球でも高価な電化製品は壊れるまで使う人が普通だもんね。
この世界の物価じゃ安い魔道具でも平民には高嶺の花だからなおさらだ。
「しかもこの店は侯爵の娘がオーナーをしている店だ。平民が冷やかしで来るにはちと怖いだろう。だから来てるのは一部の金持ち商人と旅の行商人。だが行商人にしても数が多すぎる。間違いなく9割は密偵だろう」
「9割ですか!?」
さすがにそれは多すぎでは?
「ユーラヴェン領は今、新型結界魔道具の件で注目の的だからな。そこら中から密偵が来ている。そこに侯爵の娘が店を開くんだから偵察に来るのは当然だ」
成程、タイミングの問題もあったのか。
「それにこのお店は噂の新型結界魔道具も取り扱っていますからね」
「そういうことだ」
そう、新型結界魔道具こそ、私のお店の一番の売りだ。
現状、新型結界魔道具を取り扱っていたのはユーラヴェンの町の神殿のみ。とてもじゃないが需要と供給のバランスは取れていなかった。
そこに新たに窓口が増えるのだから、お客さんが殺到するのは当然のことと言えた。
「しかし、よくもまぁこんな店を開くことができたもんだ。どうやって魔道具職人とのコネなんて作ったんだ?」
「たまたま神殿でお会いしまして」
私が魔道具を作れることはダリルお兄様にも内緒だ。
なので魔道具に関しては謎の錬金魔法使いニコラから買っている設定で通すことにしている。
「おそらく買い物の最中に店員としてもぐりこんだ密偵からこっそり情報を受け取ったりもしているんだろうな。ウチとしちゃあ外から来る密偵を見つけやすくて助かるよ」
成程、買い物をしてるふりをしながらこっそり密書を受け取るのはありだろうね。
まぁウチの店の情報はあって無きがごとしだろうけど。
「まぁどちらにせよ、買ってもらえるなら誰がお客さんでも問題ありませんね」
「そうだな。他領の金をウチに落としてくれるならありがたく買ってもらおう」
「ところでお兄様、ちょっと気になることが」
「なんだいリコ?」
と、そこで私はさっきから気になっていたある疑問をダリルお兄様にぶつけてみる事にした。
「その、なんで鎧を着ているんですか?」
そう、なぜかお兄様はフル装備でお店に来ていたのだ。
「はははははっ、まぁ気にするな」
いや凄い気になるんですけど。
もしかして、仕事をさぼってきたんじゃ……
◆
幸い、商人に扮した密偵達は景気よく商品を買いあさってくれていた。
そんな彼らが何を話しているか気になったので、バックヤードからこっそり聞き耳を立ててみる。
「おお、新型結界魔道具だけかと思っていたら、こんな魔道具まで売っているのか!?」
「戦闘用の武具から生活用の魔道具まで品ぞろえも悪くない」
「多すぎず少なすぎず、新型結界魔道具以外特別目立つものは……こ、これは!?」
と、そこで密偵の一人が奇妙な反応を見せた。
「これは浄水の魔道具じゃないか!?」
何故かその密偵は浄水の魔道具にやたらと反応していた。
そしてその声にほかの密偵達も動揺の声をあげる。
なんだろう? あれはお父様から制作の許可をもらったというかむしろ作れって言われた魔道具だから、ほかの貴族と競合することはないと思うんだけど……
ほかにもいくつかの魔道具を見た密偵達が変な反応をしていた。
そうしてしばらくすると、品切れする商品が出始めた。
「申し訳ありません! 新型結界魔道具は売り切れです!」
「盾の魔道具も売り切れです!」
「早駆けの靴の魔道具はもうすぐ品切れになります!」
売り切れの声が聞こえてきた事で、密偵達が慌てて買い物に専念しだす。
そしてそう時間もかけないうちに、全ての商品が売り切れた。
「申し訳ありません! 全ての商品が売り切れました! 今日はもう店じまいです!」
「そ、そんな! 店に入ったばかりなのに!?」
商品が無くなった事で、一部のお客が騒ぎ出す。
「お、おい! 新型結界魔道具はいつ再入荷するんだ!?」
「も、申し訳ありません。魔道具職人次第なので、明確な入荷の時はわかりません」
「なんだそりゃ! 馬鹿にしてるのか!」
あっ、不味い、これは騒ぎになるかも。
けれどその時だった。
お兄様がするりと店の内に入っていった。
「騒ぐな! 商品はもうないのだ! 日を改めてくるがよい!」
突然のお兄様の登場に店内がざわめく。
「騎士? 何で騎士がこんなところに?」
「馬鹿! あの方はダリル様だ! ユーラヴェン侯爵様のご子息だ!」
「ユーラヴェン侯爵様の!?」
お兄様の正体を知った密偵達が慌てて膝をついて頭を下げる。
ただ何人かは不自然に綺麗な礼をしたせいで明らかに貴族関係者だってバレちゃってるけど、慌てて気づいていないんだろうなぁ。
「よい、公式な謁見ではない。固くなるな」
いや、固くなるなってのは無理でしょ。だって侯爵様の息子だよ。しかも後継者。
「もう一度言う。商品は既にない。ならば騒いでも意味はなかろう。おとなしく帰るがよい」
「「「「「わ、分かりましたーっ!!」」」」」
密偵達は慌てて立ち上がると回れ右して逃げるように去って行ったのだった。
「ほえー」
あまりにもあっさりと帰って行ったので、私は拍子抜けしてしまった。
するとダリルお兄様がこちらに振り向いてニカッと笑みを浮かべる。
「なっ、この格好で来てよかっただろう」
「え!?」
もしかしてダリルお兄様はこの状況を見越して一目で騎士とわかる格好をしてきたの!?
「リコ、完売おめでとう。凄いな!」
「あ、ありがとうございますお兄様。お兄様のおかげでトラブルを回避できました」
「はっはっはっ、お兄様だからな! それじゃあ帰るか! 初日で全て売り切れたと知ったら父上も驚くぞ!」
「はい!」
こうして私のお店の初営業は大盛況で終わったのだった。
ただ、私のお店に置かれていたいくつかの魔道具が原因で、ちょっとした騒動が起こるとは、この時の私には知る由もないのだった。
兄「ふふーん(久しぶりに兄らしいことが出来た!)」
姉「うらやましい!(ぐぎぎ!)」
リコ「ムリエお姉様、本音と建前が逆です……」
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凄く喜んでやる気が漲ります。