第27話 雇う? 雇わない?
「この者達は駄目だ」
商業ギルドから紹介された人材を魔道具の店の従業員にしようと思ったら、お父様からまさかのダメ出しをされた。
「だ、ダメってどういうことですか?」
一体どういうことなのかとお父様に問うと、お父様は真剣なまなざしで私を見つめ返す。
「この者達は、他の領地を治める貴族からの密偵だ」
「え、ええ!?」
貴族の密偵!? この人達が!?
「更に言えば、リコアリアの下に送られてきたリストの全員がそうだ」
「ええーっ!?」
全員!? 全員が貴族の密偵!? あの分厚いリストの全員が!?
「ど、どういうことですかお父様!?」
「まずこのリアスの町から来たと言う男だが、滅びた町から来たと言う時点で怪しい。恐らくは見た目の似ている男が死者の名を騙っているのだろう」
「騙って!?」
死んだ人に成り代わったって事!?
「密偵が良く使う手だ。そしてこの男は西地区の商会の妾の子だが、その妾が隣領地の密偵本人だ」
「なっ!?」
こっちはお妾さんが密偵!? つまりハニートラップ的な!?
「この男は酒場で密偵に丸め込まれ自分の仕事に関わる情報を漏らしている。本人は大した話ではないと思っているようだが、実際にはこういった話から領内の需要や領主が内密に考えている事が推測されてしまう危険がある」
今度は本人は密偵じゃないけど情報駄々洩れって事!?
お父様、いつの間に調べていたの!?
「さらに言うと、商工会の中にも金で領内の情報を漏らしたり、密偵の頼みに融通を利かせる者は居る。金さえ手に入れば不正を厭わない者も少なくないのだ」
「そんな……」
商工会の中は殆ど真っ黒って事ぉー!?
「リコアリア、私が人材が少ないと言った理由が分かったか?」
お父様が私を試すように問いかけてくるけど、ここまで言われて分からないわけがない。
「……領内の人間であっても、本当に信頼できる人材は少ないから、ですね?」
「その通りだ」
うああ、お父様が人材不足を嘆いた理由が分かったよ。
ただ優秀な人材が少ないだけじゃなくて、そこに更に信用できる人間かどうかも考慮しなきゃいけなかったなんて!
前世で言えば、産業スパイみたいな人が滅茶苦茶多いのか。
ううむ、まさかここまで領民のモラルが低いとは。
いや、寧ろ前世の現代教育のモラルが高すぎたのかもしれない。
何しろ向こうでも数百年前は戦争や村同士の争いとかで平気で略奪とかしてたらしいもんなぁ。
はぁ、教育って大事だなぁ。
でもそうなるとどうしたものか。信用できない人だと商品の横流しとか技術の漏洩とか怖いもんね。
「……ん?」
ふと私はそこにひっかかりを覚える。
「どうしたリコアリア?」
待てよ、これ私が前世の感覚で考え過ぎてないか? もっと貴族の強権とか利用できるんじゃ……それに私の力なら……
「お父様、私やっぱりこの人達を雇おうと思います」
「何!? 本気か!?」
うん、この様子だとお父様も気づいていないみたいだ。
「お父様、私のお店に他の貴族の密偵が入り込んだ場合、どんな問題が起きると思いますか?」
「む? そうだな……高価な魔道具である以上、数を誤魔化して横流しをする者がいるだろう。もしくは売り上げの改竄だな」
「それについては商品を用意するのは私なので、納品する品の数を間違える事はありません。そして高価な魔道具なので、店内にはサンプルの品を一つ置いておき、実際の商品は受け取りの時まで店の奥にしまっておけば盗難される事もありません。そうなると商品の数が合わない場合、盗んだのは従業員と言う事になります。更に商品を守る警備兵も雇っておけば言い逃れは出来ません」
「ふむ、確かにそうだが、そこからどうやって犯人を見つけ出す?」
「簡単です。侯爵家のお店から商品を盗んだのですから、全員の給料から商品代金を天引きすれば良いのです」
「何ぃ!?」
私のアイデアにお父様が目を丸くする。
「し、しかしそれでは真面目に働いていた店員達が不満を抱くだろう!?」
「そこは事前に契約書に盛り込んで口頭でも説明しておけばよいだけかと。向こうは密偵ですから、不利な待遇でも申し込まない訳にはいきません。分かっていてなお了承したのなら、責任は本人のものです」
「なんとまぁ……」
「お父様、他に問題はありますか?」
「そ、そうだな。後はやはり商品そのものの製造法や仕入れ先だな」
「それに関しても、製造法は私の無詠唱魔法ですから、情報の漏らしようがありません。仕入れに関しても転移魔法で運んでくるので、どこで誰から仕入れているのかを調べる事も出来ません」
「むぅ、そう言われれば確かに」
「つまるところ、他領の貴族の密偵達は、存在しない魔道具の極秘の製造法と仕入れ先が判明するまで真面目に働いてくれると言う事です。仮に問題を起こしたとしても、彼等を紹介した商工会のメンツに泥を塗ることなるので、密偵を雇っていた貴族がユーラヴェン領に干渉する窓口を一つ失う事になります」
「密偵を心配する必要は全くないと言う事か」
「はい」
ふふふっ、そうなのだ。
こんな滅茶苦茶な契約内容であってもスパイだからまずはウチに潜入する為に契約せざるを得ない。
そして後から彼等が文句を言ってきても私は町の支配者である貴族の娘だから町内の他の権力者の横やりやしがらみを気にする必要もない。
万が一彼等が私の悪評を広めようとしても大丈夫なように、魔道具店の従業員に相応しい高給を用意してやろう。
こんな給料もらっておきながら文句を言うのはお門違いだろって周りから突っ込まれる額だ。
ルールは厳しいけど、悪ささえしなければ待遇の良い職場を提供する。
これは寧ろホワイト経営者ではないだろうか?
「言われてみればそうだな。どうやら私は一般的な状況で物を考えて密偵を警戒していたようだ。リコアリアの運営法なら、盗まれる機密もない……か」
そう、相手が密偵であるということさえ受け入れれば、それ以外はただの有用な人材なのだ!
「ではお父様!」
「うむ、魔道具の店の経営を認めよう」
やったー! これでお店を開けるぞー!
リコ「ふへへ、優秀な密偵を送り込んでくれた貴族さん達ありがとー!」
パパ「娘が立派な小悪魔に育ってくれてパパちょっと心配」
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凄く喜んでやる気が漲ります。




