第25話 お店を散策しましょう
結界魔道具の売り上げで得たお金の使い道を探る為、私は町へとやって来た。
ただしいつものリコアリアとしてではなく変身魔道具を使って新しい姿に変身してだ。
今回は三つ目の姿に変身し、名前はミレニアと名乗る事にした。
「うーん、やっぱり食べ物屋が多いね」
ユーラヴェンの町が大きいから、町の住人だけでなく旅人を相手にする料理屋も多かった。
食材を売るお店、食堂、屋台と様々だ。
「……それにしても良い匂いがするなぁ」
間食がバレると叱られるんだけど……今日は色々歩いて回るからお腹が減るのも仕方がないよね!
という訳で……
「すいませーん、串焼き一本ください!」
「はいよー! 銅貨一枚ね!」
「はい!」
私は銅貨を差し出して串焼きを受け取る。
貴族の私が銅貨を持っていて不思議?
だがそれには理由があるのです。
ボルテド神殿長から受け取った新型結界魔道具の売り上げは、仲介料と税金を支払った後の金額なので、必然的に端数が出て細かいお金が混ざるんだよね。
今回はその端数のお金を使って買い物をしているわけだ。
「うん、美味しい」
何の肉かわかんないけど、豚肉っぽい触感と味で美味しい。
貴族の上品な料理もおいしいけど、元魂が庶民としてはこういうジャンクな食事も大好きなのだ。
寧ろ前世の平民だった魂に合うと言っても過言ではない。
……うん、今後はチョコチョコ食べに来ようかな。
さて、気を取り直して次のエリアだ。
「この辺りは雑貨屋が多いね。あとは武具やポーションを売るお店か」
生活必需品じゃなく、冒険者や衛兵隊が必要とする品を売ってる通りかな。
でもこれはこれで需要が高そうだよね。
特にポーションとか、戦闘に使えそうな魔道具が売れそう。
うーん、色々候補が多くて迷うね。
ただ、貴族である私が普通のお店を営業してもどうなのかなって言うのはあるんだよね。
例えば地球の知識を使ってお店を作る?
この世界にはない料理の知識は色々と使えそうではある。
もしくは科学知識も良いだろう。
でもそうした品が人気になれば、いつか真似をされるだろう。
何しろお店を経営するのは私でも、実際に商品を作るのは従業員達だ。
どれだけ口を酸っぱくして秘密を守らせても、いつかは情報が漏れてしまう。
それまでの間に売りぬくというのも選択肢の一つだけどね。
でも可能なら長く秘密を守ってお店を経営したいなぁ。
それこそギラン侯爵家しか作れなかった結界魔道具みたいな……
「あっ、そうか」
そこで私は思いついた。
「別に結界魔道具だけじゃなくていいじゃない」
そうなのだ。私がギラン侯爵家にしか作れない結界魔道具を作ることが出来たのは、無詠唱魔法によって秘密の製造法を無視する事が出来たからだ。
それはすなわち、無詠唱魔法があれば結界魔道具以外の魔道具でも世間の常識を超えた品が作れると言う事に他ならない。
「そうと分かれば!」
やるべきことが見えた私は、ある物が売っているお店に向かうのだった。
◆
「魔道具の店を経営したい?」
屋敷に帰って来た私は、お父様に自分の店を持ちたいと言う相談を持ち掛けた。
「はい。無詠唱魔法を使えば、結界魔道具のような作り方が秘匿されている魔道具を作ることが出来ます。これなら製造法を外部に知られる危険もありませんし、高価な魔道具なら製造できる数が少なくても十分な利益を確保できます」
仕入れについては謎の錬金魔法使いニコラから仕入れていると言う事にすれば大丈夫だろう。
結界魔道具に関してはボルテド神殿長の顔を立てて教会との取引を継続という事にしてね。
「ふむ、確かにそれは使えるかもしれんな。新型結界魔道具の利益を貯め込み続けるのも経済には良くない」
ああ、やっぱりお父様も同じことを考えていたんだ。
「こちらが売れ筋の魔道具と製造方法が秘匿されていてライバルの居ない魔道具のリストです」
私は魔道具を取り扱うお店で調べた人気商品のリストをお父様に差し出す。
特に製造方法が秘匿されている魔道具は、ライバルがいない事からギラン侯爵の結界魔道具と同じように利益を独占されている。
これらの品は人気の商品に比べれば需要は少ないが、ライバルが殆どいないので継続的な利益が見込めるのだ。
「ふむ、だがこれとこれとこれは駄目だな」
「え?」
けれどリストを確認したお父様がいくつかの品の名前にバツを付ける。
「これはラービン伯爵家の主力商品だ、そしてこれはマルスト子爵家が独占している。マルスト子爵の後ろにはシルタック侯爵が居るからな。手を出して恨まれたくない」
成る程、貴族の利権が既に絡んでる品があるのか。
これは正直考えてなかったなぁ。
「とまぁこんなところか。この魔道具はウチの派閥と敵対している貴族だから問題ない。これは複数の貴族と商人が競合している品だからこちらも問題ない」
結果お父様から許可が出たのは、敵対派閥の扱う品と、派閥関係なく扱っている製造法が広く知られている魔道具だった。
「分かりました。ではこれらの品を開発してお店の主力商品にしますね!」
よーし! お父様もお店を出す事には賛成してくれたし、あとは商品を用意するだけだね!
「しかしリコアリアよ。店を建てるのは良いが、店員はどうするつもりだ?」
「え?」
「高価な魔道具を扱う店だ。信頼できる人間でないと雇う訳にはいかんだろう」
「そ、それはお父様に相談できたらと……」
「優秀な人材は領地経営に必要だからな。私も常に探している状態だ。悪いが部下を貸してやる事は出来んぞ」
「そ、そんなぁー!」
漸く思いついた魔道具店計画は、まさかの人材難によってスタート前から暗礁に乗り上げてしまったのだった。
リコ「じ、人材難……」
パパ「この世界は町から町への移動も大変だからな。領主邸のある町に居る人材だけでやりくりしないといけないんだ」
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凄く喜んでやる気が漲ります。