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第23話 ギラン侯爵の結末

結界魔道具編完結です。


おもしろい、続きが読みたいと思ってくださいましたら、ページ下にある感想、ブックマーク、評価をしていただけると、ああ、この作品は読者の方達に喜ばれて望まれているんだなと伝わり、作者の執筆意欲にダイレクトにつながります。

◆ギラン侯爵◆


 工房にはキャンセルされた結界魔道具の山が溢れかえっていた。


「ば、馬鹿な……栄光あるギラン侯爵家の結界魔道具が売れない……だと?」


 もはや性能で劣る当家の結界魔道具には価値がないと、商人達にすら見向きもされないありさまだった。 


「大変です旦那様!」


 あまりの事に眩暈がしていると、部下がノックもせずに飛び込んできた。


「何事だ騒々しい!」


「大変なのです! 突然当家と取引をしていた商人達から、商品が品薄になったからと代金の値上げを要求されました!」


 なんだそんな事か。


「なら支払ってやればよいではないか」


「数が尋常ではないのです! 食糧、雑貨、嗜好品、武具、その他ありとあらゆる品が値上がりして全ての代金を合計するととんでもない金額になります!」


「なんだと!? 何故そんなことになるのだ!? 不況や飢饉が起きたという噂など聞いたことがないぞ!?」


「おそらくですが、今まで結界魔道具の購入権を利用して強引に要求を呑ませてきた貴族達から、圧力がかかったのだと思います」


「何っ!?」


 た、確かに私、いや当家は結界魔道具の独占を利用して多くの貴族達に対して様々な便宜を図らせては来たが、まさか今回の事件で私を見限ったというのか!?

 そしてこれまでの恨みを晴らすかのように様々な圧力をかけてきただと!?


「このままではギラン侯爵家の家計は火の車です!」


 その言葉は、瞬く間に事実となった。

 

 我がギラン侯爵領は土地が痩せているため作物の収入が乏しい。

 鉱山もあるにはあったが、錬金魔道具開発のために急ピッチで採掘を繰り返した事で鉱床は枯れ、今では外部から素材を輸入しているほどだ。


 それでもかつては錬金魔道具の開発で賑わっていたのだが、先祖が結界魔道具を開発してからは大した儲けにならない魔道具の開発予算は大きくカットしてしまった。


 今までは錬金魔道具の売り上げに浮かれてその事に気づかなかった私だったが、借金返済のために税収の書類をひっくり返した事でようやく我がギラン侯爵領はその土地の広さに比べ、驚くほど収入が少なくなっていたことに気づいたのだった。


「まさかこれ程までに税収が低かったとは……」


 更に結界魔道具のおかげで豪遊してきた私や家族に質素な生活などできるはずもなく、財産はみるみる間に減っていく。


 だが結界魔道具以外にめぼしい産業の無かった当家に借金を返すアテがある筈もなく、金目の物はほとんど売り払い、もはやまともに金になるのは代々受け継いできた土地だけになってしまった。


「だが貴族が土地を売るなどこれ以上ない恥だ」


 土地を売って社交界で笑いものになる貴族は何人も見てきた。


「いやだ、あんな惨めな姿にはなりたくない!」


 しかも土地を売れば売るほど収益も減るから借金の返済が遠のく。

 それを繰り返せばいつか売る土地がなくなってしまうだろう。

 だが最悪なのはその先だ。


「守るべき土地を失ったと知られたら国王陛下のお怒りを受け、爵位を没収されて平民に落とされてしまうではないか!」


 結界魔道具の改良をしようにも、他の貴族家からの圧力と借金のせいで予算を用意する事すらできん!

 くぅっ、こんな事になるのなら、他の魔道具開発にももっと予算を回しておけば良かった!

 結界魔道具の発明以前に開発された魔道具の利益は多少あるが、その金額は結界魔道具に比べたら微々たるものだ!


「そうだ! 税を上げるのだ! 税を上げて借金を返済するのだ!」


「旦那様、恐れながら税を上げても領民達には差し出せるものがありません。長年の鉱山採掘が原因で水も土も汚れ、作物は最低限しか収穫できない状態です。この状況で税を上げたら民は死に絶えるか他領に逃亡するでしょう。そうなれば来年からは最低限の収入すら入らなくなります」


「なんだと!? そんな話は聞いておらんぞ!」


 なんという事だ。税を上げることもできないほど領内は荒廃していたのか!?

 先祖は何をしておったのだ!


「うぐぐ、このまま土地を売るしかないのか? この私が?」


 そんな馬鹿な話があってよいものか! 私はギラン侯爵だぞ!

 だがどう考えをまとめても、良いアイデアは浮かばない。

 刻一刻と借金支払いの時間が近づいてくる。


「いったいどうすればよいのだ……」


 ああ、結界魔道具させ売れれば……


 そんな時だった。部下から突然の来客の知らせがあったのだ。


「旦那様、先触れの手紙が送られてきました」


「何? 先触れだと?」


 先触れとは貴族家に来る前に送る事前連絡だ。

 これを行うかどうかで貴族としての礼節を持っているかが分かり、また取次ぎを望む商人も貴族社会を知る多少はマシな平民であるかが分かる。

 

 だがいったい誰だ? 借金返済の催促なら先触れなどよこさない筈?

 まさかまた金儲けを装った詐欺師か?


「ユーラヴェン侯爵様の使いと名乗っております」


「ユーラヴェン侯爵だと!?」


 ユーラヴェン侯爵が一体何の用だ!?

 彼はすでに当家のものではない結界魔道具を手に入れた筈!?

 だが先触れがあったのなら、同じ高位貴族として受け入れないわけにはいかない。


「わ、分かった。2日後に来てくれと返事を出せ」


「はっ!」


 相手の要求が分からない以上、まずは慎重に対応する必要がある。

 くっ、侯爵家である私が他人に気を使わないといけないなど、何たる屈辱!


 ◆


「ようこそギラン侯爵家へ」


 先触れがあった日から必死に屋敷内に残っていた使えそうな品と部下の家の美術品をかき集め、何とか入口から応接室までの装飾を飾りたてることが出来た。

 だがそれでもかつての我が家の栄光から比べたら質も悪く安っぽい装飾ばかりで情けなくなる。


「初めましてギラン侯爵様。私はユーラヴェン侯爵の……」


 さて、ユーラヴェン侯爵は何故今更やって来たのか。

 やはり娘を要求された件を根に持っての事か!?

 私が戦々恐々としていると、ユーラヴェン侯爵の部下は驚くべき言葉を口にした。


「我が主はギラン侯爵家の有する結界魔道具の製造法を欲しています」


「……何?」


 当家の結界魔道具の製造法だと!?

 こいつは何を言っている!?


「実は先ごろギラン侯爵家より購入した結界魔道具が壊れた事で、危うく結界なしで魔物の群れの襲撃を受けるところだったのです。幸い別の錬金魔法使いより新たな結界魔道具を購入出来たため事なきを得ましたが、やはり緊急時に設備の補修が出来ないことは危険だと我が主は悟られました」


 そ、それは当家が他家を脅迫、いや要求を飲ませるためにわざと意図的に壊せるように作っているからだが、この状況でそれを口にするわけにはいかない。

 しかしこれはチャンスだ。当家の結界魔道具を欲しているというのなら、相応の見返りを要求できるはず!


「馬鹿な! 結界魔道具は当家の宝だぞ! その製造法を教えろなど、無礼にも程があろう!」


 もちろん製造法を教えるわけにはいかん!

 だが借金まみれの現状でただ客を追い返すわけにもいかん。

 ならばまずは強気で対応した後で、修理が可能な我が工房の錬金魔法使いを常駐させるという条件を出すとしよう。

 これなら当家の技術を売ることなく、しかし結界魔道具の整備の大変さを強調して交渉が行いやすくなるだろう。  


「さようですか。では私共は帰らせていただきます」


 だがユーラヴェン侯爵家の使いは私が激昂するとあっさりと手のひらを返した。

 って、それではこちらが交渉する余地すらないではないか!?


「な、何!? 当家の技術が欲しいのではなかったのか!?」


 どういう事だ!? わざわざその為に来たのであろう!?


「仰る通りです。ですが旦那様は無理をする必要はない。断られたのならすぐに諦めて新型結界魔法具を作り上げたニコラ様と交渉すればよいと仰っておられました」


「なっ!」


 またしてもあの小娘か! 忌々しい!!

 どうする!? 結界魔道具の情報を教えるなどあってはならぬことだが……今やその情報には何の価値も無くなってしまったのも事実だ。


「ま、待ってくれ! 製造法を教えることはできないが、整備のできる錬金魔法使いをそちらの町に常駐させよう! それならいつでも修理が可能だぞ!」


「いえ、我が主は製造法以外は一切交渉する必要はないと仰いました。私の独断でそれ以外の提案を飲んでは主に叱責されてしまいます」


「っ!!」


 くぅ! この無能め! 自分の意志で交渉する頭がないのか!

 だがそんな事を口にするわけにもいかん。

 言葉にしてしまったが最後、交渉は完全に破談となってしまうからだ。


 どうする! プライドを売って土地を守り貴族として生き延びるか、それともプライドを選んで土地を売り払い爵位を没収されるか……


 しかしそうこう悩んでいる間にもユーラヴェン家の使者は交渉の場から遠ざかっていき、遂に部屋の扉に手をかけた。

 それを見た私は断腸の思いで決断をする。


「わ、分かった……結界魔道具の技術を提供しよう」


 こうして私は最後に残った財産を売り払うことで、かろうじて土地だけは売らずに済んだのだった。


 ◆


 という訳でお父様はギラン侯爵家の結界魔道具の製造法の権利を買い取った。


「リコアリアの結界魔道具はリコアリアにしか作れないからな。いざという時のためにギラン侯爵の有する結界魔道具の技術は必要だろう。それにこの技術を解析すれば、これまで以上の性能を有した結界魔道具の開発も夢ではない」


 さすがお父様。弱ったギラン侯爵から(本人は)価値がなくなったと思っている技術を買いたたくなんて抜け目がない。

 利益と意趣返しが同時にできてホクホクだろうね。


 こうして結界魔道具に関する騒動は解決したのだけれど……


「なぁなぁ、聞いたかお前?」


「結界の錬金姫だろ? ギラン侯爵家が独占していた結界魔道具をはるかに超える性能の魔道具を開発したって聞いたぜ」


「ああ、おかげでこれまで以上に安全に魔物の襲撃に対処できるようになったって騎士団も喜んでるらしいぜ」


「すげぇな。その錬金姫もこの国の魔法使いなんだろ?」


「守護姫に転移の姫、そして今度は錬金姫か。凄ぇ魔法使いばっかじゃねぇか。それも全員が幼い女の子っていうんだから驚きだよな!」


「しかも全員物凄く可愛いってんだから、一度会ってみたいみたいもんだな!」


「おいおい、ロリコンかよお前」


「ちっげーよ! 凄くて可愛いなら見てみたいじゃねーか」


「違いねぇ!」


「「ははははははっ!!」」


 ……この国の人達は噂になった相手に姫ってつけないといけないルールでもあるの?

町民A「ところで男だったら王子になるのかな?」

町民B「いや王子は不敬だって怒られちまわねぇ?」

町民A「じゃあ男でも姫?」

町民B「おっさんでも姫?」

町民A「この話はやめよう」


おもしろい、続きが読みたいと思ってくださいましたら、感想、ブックマーク、評価をしていただけると嬉しいです。


凄く喜んでやる気が漲ります。

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[良い点] 結局意図的に壊れるようになってることが発覚したら王に報告するにかな? 庇う必要ないし
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