第21話 謎の結界売りの少女
更新です。
◆門番◆
俺達はユーラヴェンの町の入口を担当する門番だ。
町に入ってくる商隊に犯罪者がいないか、ご禁制の品を隠し持っていないかを調べたり、魔物が町に近づいてこないか警戒するのが仕事だ。
まぁ町に近づく魔物は防壁の上の物見台が警戒してるし、商隊も命がけだから毎日来るわけじゃない。そういう意味では魔物の襲撃でもない限り暇な部署さ。
ただ、今日はちょっと違った。
というのも、再び魔物の群れが町に近づいてくるという報告があったからだ。
魔物の群れは前回以上の数らしく、いくら結界の魔道具があるとはいえ油断はできない。
いや結界の魔道具といえば……
「なぁ、お前はあの噂を聞いたか?」
と、そこで隣にいた同僚が話しかけてくる。
「何の話だ?」
「アレだよ、結界の魔道具が壊れたって噂だよ」
これだ。その噂は俺も町で聞いた。
「上は何も言わんし、ただの噂じゃないのか?」
というかそうでないと困る。
何しろ今まさにこの町へ向かって魔物の群れが迫ってきているのだから。
「けど神殿の司祭達が慌ててたのを見たって酒場で噂になってるぜ」
確かにそれも聞いた。
だがそれを認めたら、俺達は結界の魔道具なしで魔物と戦わないといけないことになる。
「だとしても俺達がすることは変わらんだろ」
聞いた話じゃ町を守る結界の魔道具は非常に希少で、手に入れるには大金が必要なだけじゃなく何年も待たないといけないらしい。
だからどうあがいても今からじゃ新しい結界の魔道具は間に合わんってことだ。
だったら縁起の悪い話は信じないに越したことはない。たとえそれが真実だとしても。
「まぁそうなんだけど……ん?」
とそこで同僚が妙な声を上げた。
「どうした?」
「おい、見ろよアレ」
同僚が指差す方向を見ると、何やら小さな人影が町に近づいていた。
あれは、子供か?
「なんで子供が一人で? 親とはぐれたのか?」
魔物に家族を襲われた商人の子だろうか? だがそれにしては足取りがしっかりしているような……
「おい見ろ!」
そんなことを考えていたら、また同僚が声をあげる。
いやちゃんと気づいてるって。
「わかってるよ、子供がいるってんだろ」
「違う! その後ろだ!」
だが同僚はそうじゃないと子供の後ろを指差す。
「後ろ……!?」
そこに見えたのは、何匹もの魔物の姿だった。
「魔物か!」
俺はすぐに子供に向けて逃げろと声を上げる。
「おーい! 逃げろ! 後ろから魔物が迫ってきてるぞ!」
だが声が届かないのか、子供はこちらの声に反応するそぶりすら見せなかった。
「ダメだ! 聞こえてない!」
くそっ、こうなったら助けに行くしかない!
「子供が魔物に追われている! 騎馬隊を出してくれ! 俺達は先に向かう!」
「分かった!」
俺は詰所いる他の同僚達に声をかけると、すぐに子供を助けに走り出した。
「おーい! おーい!」
「後ろだー! 後ろを見ろー!」
近づいた俺と同僚が大声を上げると、ようやく子供はこちらに気付く。
そして後ろを振り向いてやっと魔物の存在に気づいてくれたのだが、なぜか子供は逃げるそぶりも見せずに自分の鞄を漁りだした。
「何をしてる! 早く逃げろーっ!」
そんなことをしている間に魔物が子供に追いつく。
「ダメだ! 間に合わん!」
魔物が腕を振りかぶる。
子供はいまだ逃げる気配がない。
そして魔物が腕を振り下ろしたその時だった。
「えっ!?」
突然魔物が吹き飛んだ。
いや違う……何かに弾かれた?
「何が起きたんだ!?」
見れば子供の周囲に半円状の魔力の壁が見えた。
「あれは……結界か!?」
魔物の襲撃の時に発動する、町を守る結界に似ている。
ということはあの子供が鞄をいじっていたのは結界を発動させるためだったのか。
結界の発動に驚いた俺達だったが、さらに驚くべきことが起きた。
子供は結界の中から魔法を放ち、魔物を攻撃しだしたんだ。
「なんだありゃ!? 結界の中から攻撃しているぞ!?」
馬鹿な! 結界は魔物を通さないだけじゃなく、こちらの攻撃も通さないはず。
結界は魔物の侵入を防ぐためと俺達が休息をとるためのものだから、内部から攻撃するなんて機能無い筈だ。
だが事実目の前には結界の内部から魔物を攻撃している子供の姿があった。
そして魔物の方も攻撃が全く通じないだけでなく、逆に一方的に攻撃される事に困惑しているようだった。
さらに俺達が近づいてくる事に気付きこのままでは危険と判断したのだろう、すぐに撤退していった。
「おい、大丈夫か!?」
ようやく子供の下へたどり着いた俺達は、安否を確認するために声をかける。
まぁ今の光景を見ていれば、聞くまでもないが。
「はい。問題ありません」
フードを外したその姿は、小さな女の子だった。
こんな小さな娘が一人でここまで来たのか……
「なぁ、今の結界はお嬢ちゃんがやったのか?」
「いえ、私ではありません。私ではなく、この結界の魔道具のおかげです」
そう言ってお嬢ちゃんが取り出したのは、小さな宝玉だった。
◆ボルテド神殿長◆
「なるほど、あなたはその結界の魔道具を売りにこの町に来たのですね」
その日私は衛兵隊より結界の魔道具を売りたいという子供がやって来たと連絡を受けました。
正直言って何の冗談だろうと思いました。
何しろ結界の魔道具はギラン侯爵家しか製造に成功していません。
しかも子供が売りに来たと言われれば何の冗談だろうと思うのは当然でしょう。
しかし衛兵隊がわざわざ話を通しに来た事、そしてたった一人で魔物が蠢く町の外から来たと言われては冗談と切り捨てることもできません。
そうした理由もあって私は少女と面会することを選択したのです。
「はい。その通りです」
ニコラと名乗った少女の手のひらには、小さな箱状の魔道具が乗せられていました。
衛兵たちの話によればこの魔道具で魔物の襲撃から身を守っていたのだとか。
なるほど確かに小型の結界魔道具ならば、ギラン侯爵家以外の錬金魔法使いも開発に成功したと聞いています。
ですが、これでは……
「衛兵達から話は聞いています。確かに結界の魔道具を開発されたことは大したことですが、我々が欲しているのはこういった小型の魔道具ではなく……」
そう、我々が求めているのは町を囲うほどの大型の魔道具。
ですが大型の魔道具は未だギラン侯爵家しか完成させた者が居ないほどの難物。
残念ですがこの話は無駄に終わりそうですね。
いえ、この場合子供に期待したのが間違いだったというべきですか。
「はい、ですが正しくはこの魔道具ではなく、もう一つの結界の魔道具です」
けれどニコラさんが売りたい物は別のものだというではないですか。
「もう一つですか?」
「ええ、これです」
そう言ってニコラさんが取り出したのは私の良く知る結界の魔道具の核に酷似した宝玉でした。
「これはまた見事な宝玉だ。これがあなたの開発した結界の魔道具なのですか?」
「はい。私の作り上げた町を守ることのできる大型結界の魔道具です」
「大型結界の魔道具ですって!?」
まさか本当に期待した大型の結界魔道具が出てくるとは思いませんでした。
しかし、これほどの素材を使っていることを考えると、ただの詐欺とは思えないのもまた事実。
仮にこれが言葉通りの品ではなくとも、小型の魔道具よりも広い範囲を守ってくれる可能性は高い。
だとすれば町の被害は諦め、町の人達をこの結界の内部に避難させれば命だけは守ることが出来るでしょう。
「こ、これはギラン侯爵家で使われている結界の魔道具と同じものなのですか?」
私は慎重に言葉を選んで結界魔道具の性能について問います。
「効果は似ていますが、ギラン侯爵家の結界魔道具とは違いますよ。この結界は範囲はギラン侯爵家の結界と同じだけでなく、結界の内部から一方的に魔物を攻撃することが出来ます」
「な、なんですって!?」
規模はそのままに結界の中から一方的に攻撃ができる!?
「そんな結界があれば、魔物の群れとの戦いが変わりますよ!?」
「いかがでしょう。お安くはできませんが、値段に見合う品ですよ」
「うーむ、確かにそれが本当なら魅力的な話なのですが……」
ニコラさんの言葉に私は逡巡します。
何しろ結界魔道具は非常に高価な品です。
これで詐欺だったら目も当てられません。
そのように私が迷っているのが分かったのでしょう。ニコラさんが驚きの提案をしてきました。
「ではこうしましょう。次の魔物の襲撃の際にはこの魔道具を無料で貸し出しましょう」
「良いのですか!?」
まさか貸し出して貰えるとは思わず、私は自分の耳を疑ってしまいました。
「ええ。私は見た通りの子供ですからね。神官長様が信じられないのも無理はありません。なので実際に使い心地を試して貰えばよろしいかと。なにしろ結界魔道具はこれから先も何度も使いますからね」
「た、確かに実際に使って試せるならこちらとしても願ってもないことです」
成程そういうことですか。
確かに試用ができるのならこれ程ありがたいことはありません。
何しろ今は非常事態です。この魔道具が使い物になるのなら、これ程ありがたいことはありません。
「そして。お気に召したなら買っていただくということで」
妙に都合の良い展開に腑に落ちないものを感じましたが、結界の魔道具を借りることが出来たのは素直にありがたいことです。
けれどなぜ子供一人でこれを売りに来たのでしょう。
仮にこの子が魔道具を作った本人だとしても、親か師匠が売りに来たほうが信用が得られたでしょうに。
……ん? 親? 魔道具? 子供?
その時私の脳裏にある考えが思い浮かびました。
「ま、まさか……」
「どうされましたか神殿長様?」
「い、いえ、何でもありません」
そう、何でもないのです。
私はこの少女の正体になど気づいておりません。
ええ、気づいておりませんとも!
◆
数日後、魔物の群れの襲撃が発生した。
群れの数は前回の襲撃の二倍近い数で、まさに絶望的な数だった。
……今までだったら。
「うぉぉ! すげぇ! 本当に結界の中から魔物が攻撃できるぞ!」
「しかも魔物だけじゃなく敵の攻撃すら結界がはじくぞ!」
しかし新型の結界魔道具によって、兵達の士気は高かった。
結界は魔物の侵入を阻むだけでなく、魔物が放った魔法を含むあらゆる攻撃をはじく。
けれど兵士達の攻撃は結界を張った状態でも魔物に届く。
「凄ぇ結界だなこりゃ!」
「ははははっ! こいつはいいや!」
魔物を気にすることなく攻撃だけに専念できる戦いはこれまでとは比較にならないほど効率よく進んだ。
その結果、魔物との戦いは一方的な勝利で終わったのだった。
翌日、ニコラの姿に変身した私が神殿に向かうと、ボルテド神官長だけでなくお父様、いやユーラヴェン侯爵の姿があった。
「君が件の錬金魔法使いか。話は聞いているぞ」
「初めましてユーラヴェン侯爵様。ニコラと申します」
お父様は謎の転移魔法使いアリスの時のように、私のことを初めて会う人間としてふるまう。
「おお、ニコラさん! あれは素晴らしい結界でしたよ。ぜひ買い取らせて頂きたい!」
「うむ、おかげで町だけではなく兵達の被害も最小限で済んだ。感謝する。私としてもこの魔道具には非常に満足している。予備も含めて複数購入したい」
ボルテド神官長が感極まった様子で私の両手を握ってぶんぶんと振り回す。
「は、はい、お買い上げありがとうございます」
こうして、私の作った魔道具は神殿に無事買い取られ、ムリエお姉様の嫁入りの件は白紙となったのだった。
ふふん、ざまぁみろギラン侯爵!
パパ「戦いで被害ゼロってマジで凄いのだよ。そしてギラン侯爵ざまぁみろ」
神官長「ところでこの件って地味に権力の構図が変わると思うのですよね私。それはもう地形が変わるレベルで」
おもしろい、続きが読みたいと思ってくださいましたら、感想、ブックマーク、評価をしていただけると嬉しいです。
凄く喜んでやる気が漲ります。




