第2話 祝福の儀
本日二度目の更新でーす!
「リコアリア、そろそろお前の誕生日だな」
珍しく家族が全員そろって夕食を食べていると、お父様がそんな事を口にする。
「あっ、そうですね」
そう言えばそうだった。私の中身は高校生を越えてもう成人だから、今更誕生日ではしゃいだりしないんだよね。
けど珍しいな。いつも通りなら私を驚かせるために誕生日は当日までサプライズの筈なのに。
「お前も7歳だ。今年は教会に祝福を受けに行くぞ」
「祝福?」
「小さな子供が無事に育っている事を神様に報告してお礼を言いに行く儀式の事よ」
と、ムリエお姉様が教えてくれた。
成る程、七五三みたいなものなんだろう。
「と言う事は、リコも遂に魔法デビューか!」
そこでダリルお兄様が聞き捨てならない言葉を口にした。
「それってどういう意味ですか!?」
「はははっ、魔法と聞いてこれだ」
「落ち着きなさいリコアリア。祝福の儀には神への報告だけでなく、もう一つの意味があるのだ」
もう一つの意味、それってもしかして!
「それはね! 貴女に適性のある魔法の属性を教えて貰えるのよ!」
「ムリエール! 私のセリフを取るんじゃない!!」
「ごめんなさーい。だって私がリコに教えてあげたかったんだもの!」
「私が! 私が教えてやろうと七年間我慢していたというのに!!」
よほど楽しみにしていたのか、お父様が心底悔しそうに震えている。
「リコアリア、祝福の儀でお前の属性が分かるが、そもそも属性とはなんだ?」
悔しがっているお父様に代わり、ダリル兄様が私に質問を投げかけてくる。
「はい。魔法は六つの属性があります。攻撃、錬金、防御、回復、転移、強化の六つです」
「そうだ。そして人は誰しも自分の属性を持っている。魔法が使える使えないに関わらずな。そして俺達ユーラヴェン家は攻撃魔法を使える人間を多く輩出する名家だ。恐らくはお前も何かしらの攻撃魔法を覚えるだろう」
そう、お父様は氷の攻撃魔法、ダリル兄様は風の攻撃魔法と強化の魔法、そしてムリエお姉さまは火の攻撃魔法が得意だった。
私は一体どんな魔法が使えるんだろう。
「楽しみだな……」
◆
その日は朝からにぎやかだった。
「誕生日おめでとうリコアリア!」
誕生日を迎えた私を家族が祝ってくれる。
「ありがとうございますお父様!」
「おめでとうリコ!」
「ありがとうございますダリルお兄様!」
「おめでとうリコ! そのドレスも素敵よ!」
「ありがとうございますムリエお姉様!」
私が着ていたのは、ムリエお姉様が今日の日の為に用意してくれたドレスだ。
今日はこれを着て祝福の儀に挑む。
「本当に似合っている。今ごろシェリエも喜んでいる事だろう」
お父様が涙ぐみながら亡きお母様の名を呼ぶ。
お母様は私が幼い頃に亡くなっているんだよね。
だからそういう意味でも私は家族に溺愛されていた。
お母様の忘れ形見として。
更に祝ってくれたのは家族だけではなかった。
「おめでとうございますお嬢様」
「とても可愛らしゅうございますわお嬢様」
使用人達もまた、私の誕生日を祝ってくれていた。
彼等に見送られながら馬車に乗った私は、お父様と一緒に教会に向かう。
ダリルお兄様とムリエお姉様は残念ながらお留守番だ。
祝福の儀の会場に入れるのは子供だけだから。
「私はここまでだが、一人で大丈夫か?」
教会に到着すると、私達は家族が待機するホールまで案内される。
そこでお父様と別れ、私は一人で祝福を受けるのだ。
「はい! 大丈夫です!」
「リコアリア様、こちらへ」
神官に促されホールの奥の部屋へ入る。
そこは儀式をするとは思えない程シンプルで、何の装飾もない部屋だった。
そしてその部屋の中央には、穏やかな笑みを浮かべたお爺さんが一人。
恰好からして、儀式を担当する司祭様かな?
「お久しぶりですなリコアリア様」
「え? あのえーっと」
突然お久しぶりと言われて困惑してしまう。
だって私はこのお爺さんと出会った記憶がないのだから。
「ほっほっほっ、覚えていないのも無理はありません。私と会ったのはリコアリア様が生まれて間もないころでしたからな」
「す、すみません」
って、そんな昔の事なら覚えてなくて当然だよ!
あの頃はまだ視力がちゃんと発達していなかったからか、至近距離でないと人の見分けが出来なかったもんね。
「お気になさらず。私はこの教会の神官長を務めるボルテドと申します」
なんとボルテドと名乗ったお爺さんは神官長だった。
っていうかそれってここの一番偉い人じゃない!?
「は、初めましてボルテド神官長様!」
慌てて挨拶を返すと、ボルテド神官長はにこやかな笑みを浮かべて私の頭を撫でる。
「ほっほっほっ、そんな堅苦しい呼び方をせずとも……お爺ちゃんでも良いのですぞ」
「え!?」
突然のお爺ちゃん呼びの催促に困惑してしまう。
「い、いえ。それは流石に本物のお爺様に申し訳ないので」
一緒に暮らしてはいないけど、お爺様はまだ生きてるしね。
「それは残念」
心なしか本気で残念そうなボルテド神官長。
もしかして本当にそう呼んで欲しかったのかな?
「ではそろそろ祝福の儀を始めますとしますか」
「よろしくお願いします!」
遂に魔法をいや祝福の儀が始まるのかと、私は思わず興奮してしまう。
「ほっほっほっ、そう緊張なさらずともよいですよ。何せ私は貴女のお兄様やお姉様を担当した超腕利きの神官長ですからな」
え!? 自分でそれを言っちゃうの!?
「では始めますぞ。リコアリア様、女神サラシャティ様に元気に育った事の感謝の祈りを捧げるのです」
「はい!」
神官長は先ほどまでの緩い雰囲気から一転、まるで別人のように厳かな空気になって祝詞を唱え始める。
私も言われた通り女神様に祈りを捧げる。
女神様、おかげさまで前世の毒親から逃れ、今では幸せに暮らしております。本当にありがとうございます。
そして出来れば今度の人生では魔法を沢山使える人生を送りたいです。
≪良いわよ≫
「え?」
ふと見知らぬ、けれどとても優しく懐かしい声が聞こえた気がした。
「いと慈悲深き女神サラシャティよ、新たな愛し子に加護を……」
困惑していた私だったけれど、そこでボルテド神官長の祝詞が終わりを迎える。
見ればボルテド神官長の手がほんのりと柔らかい光を放っていた。
そしてボルテド神官長の光る手が私の頭上にかざされる。
「慈悲深き女神よ、愛し子の身に宿したる星の輝きを教えたまえ」
どうやらこれが私の属性を調べる為の儀式みたいだ。
「こ、これは!?」
すると突然ボルテド神官長が驚きの声を上げた。
「え!? どうしたんですか!?」
けれどボルテド神官長は、困惑した声をあげるばかりで、私の声が聞こえていないかのようだ。
「こ、これはまた……」
「あ、あの……」
もう一度声をかけると、ボルテド神官長が漸く私の呼びかけに気付く。
「お、おお、これは失礼しました。リコアリア様、貴女の属性が判明しました」
「はい!」
おお! 遂に私の属性が明らかになるんだね!
一体何属性の魔法なのかな? やっぱりお父様達と同じ攻撃魔法なのかな? カーリーのような回復魔法も良いなぁ。
「リコアリア様。貴女の属性は全属性、全ての魔法への適性があります」
「成る程全属性です……か?」
おお! 全属性! 全ての魔法への適性があるって事は、全部の魔法に適性があるって事なんだね……! んん?
「って、全属性ぃーっ!?」
驚いたことに、私の魔法適性は全ての魔法だった。
そしてこれが、私の人生を大きく変える事になる文字通りの転機だったのである。
おじいちゃん神官長「なんか凄いのが出た!」
パパ「ハラハラ、娘が心配。あと娘の祝福デビューが見たかった」
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凄く喜んでやる気が漲ります。