第19話 結界の魔道具
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今日は結界用の魔法石に魔力を込めに神殿にやってきた。
……んだけど、どうにも神殿内の様子がおかしい。
一般の信者や下級司祭は普通なんだけど、上位の司祭達が妙に浮足立っている。
というか殺気だっている?
そんな状況のなか、私は神官長の部屋へと案内された。
「ようこそお越しくださいましたリコアリア様。ただ今日は少々都合が悪い為、魔法石に魔力を込めるのは後日にしていただきたく……」
「何かあったのですか? 他の司祭様達も慌てていらっしゃいましたし」
「っ!? お気づきでしたか!?」
いつも落ち着いてる上級司祭達が慌てていたらさすがにね。
「……そうですね、リコアリア様にも関係が無いわけではありませんからね」
観念したらしいボルテド神官長がため息を吐きながら事情を話し始める。
それにしても私に関係のある事ってどういう意味だろう?
「実は町を守る結界魔道具が壊れてしまったのです」
「ええ!? それって大変な事なんじゃないですか!?」
予想以上にヤバい情報が飛び出して私は思わず声を上げてしまう。
「その通りなのです。何しろ町を守る為に必要不可欠な魔道具ですから、急いで直さないといけません。ですが、結界魔道具を治すには時間もお金もかかりますので」
「……結界魔道具を直すのは、そんなに大変なのですか?」
どうも神官長の口ぶりだと結界の魔道具は他の魔道具とちょっと違う感じがする。
以前うちに来て魔道具作りを見せてくれたゼノンさんは簡単な魔道具ではあったけれど、すぐに完成させる事が出来た。
まぁ慣れてない見習い職人だと時間がかかるとも言っていたけど。
「結界魔道具は錬金魔法の大家であるギラン侯爵家にしか作れない魔道具なのです。それゆえ、結界魔道具の修理はギラン侯爵家以外には直す事が出来ません」
つまり文字通りの殿様商売って事かー。
「それだけではありません。ギラン侯爵家に依頼を出してもすぐに直して貰えるわけではありません。なにしろ国内だけではなく、近隣の国家からも常にギラン侯爵家に結界魔道具の注文と修理を依頼してきますから、順番待ちになっているのです」
あー、需要と供給が釣り合っていないんだね。
「それゆえ、自分の依頼を優先的に受けてもらおうと賄……心づけを出す者も少なくありませんし、ギラン侯爵家に嫌われないよう気を使わないといけないので、王族と言えどギラン侯爵家をないがしろには出来ません」
おぉう、もうどっちが王様か分かんないな。あと今賄賂って言いそうになったよね。
「あの、結界魔道具ってほかの錬金魔法使いには作れないんですか?」
「ええ。100年ほど前にギラン侯爵家が開発した画期的な魔道具なのです。それまでは防御魔法の使い手達が何十人も交代で必死で結界を張っていたので、どうしても結界を維持できる範囲の問題で町の大きさにも限度があったのです」
なるほど、魔法使いがずっと魔法を使い続けるのは無理だもんね。
交代要員もいるだろうし、戦いが長引くことを考えたら大きな町は無理か。
「しかしギラン侯爵家の開発した結界魔道具によって、戦いは大変楽になりました。いざとなれば結界と防御魔法使いの二つの結界で町を守れますからね。まぁ前回の襲撃ではそれでも持たなかったのですが……」
おおう、前回の戦いって本当にギリギリだったんだね。
「さらに言いますと、錬金魔法の魔道具は普通に魔法を使う時よりも効果や必要な魔力が多くなるのですが、ギラン侯爵の開発された結界魔道具は魔力消費はともかく魔物の侵入を阻むだけの強度を発揮してくれるありがたい品なのです」
うーん、町の防衛になくてはならない魔道具になってるんだね。
そう考えると凄い魔道具だなぁ。
「では神殿がギラン侯爵家に修理の依頼を出したら直してもらうのにどのくらいかかるのですか?」
「そうですな、結界魔道具に関しては町を治める貴族も運命共同体です。それ故ユーラヴェン侯爵様がどれだけ予算の都合を付けてくれるかですね。幸いユーラヴェン侯爵とギラン侯爵は仲が悪いわけではありませんから」
もう完全に賄賂の金額が重要な感じなんだなぁ。
まぁそれだけはっきりと殿様商売ができるのなら、強気で押せるのもわかるけどさ。
けど、賄賂を支払ってもギラン侯爵の気持ちひとつでいつやってもらえるかが変わるとか、この世界もなかなか闇が深いね。
「じゃあ今魔物の群れが攻めて来たらどうなるんですか?」
だからこそ、この状況で魔物の群れが攻めて来たらかなりやばいよね。
「……幸い、ついこの間魔物の群れが攻めてきたばかりですから、しばらくは大丈夫でしょう。魔物の襲撃には波がありますからね。またこうした時のために町を守る為の防壁があるのです」
成程、今すぐどうこうなるって訳じゃないんだ。まぁ気休めの匂いがプンプンするけど。
「そういう訳ですので、現状では魔力石に魔力を込めてもらっても使いどころがないのです」
「分かりました。では今日の所は帰る事にします」
「それと、この事はくれぐれもご内密に」
「はい、わかっています」
そんな訳で折角神殿に来た私だったけど、何もせずに帰ることになるのだった。
◆
とはいえ、いざという時の結界が無い事が不安な事には変わりない。
私はその辺りどうなのかお父様に聞いてみる事にした。
「お父様、失礼しま……す?」
お父様の執務室に入ると、そこにはなぜかムリエお姉さまの姿が。
「……」
「……」
って、暗っ! なんかすごく暗い! いったい何があったの!?
「むっ、リコアリアか。悪いが今はムリエと……」
「いえ、いいんですお父様。私も理解していますから」
何? 何の話?
けれどその事を聞く前にムリエお姉様は部屋を飛び出していってしまった。
「あ、あの……」
「ああ、すまなかったな。何の用だ?」
今の話を聞こうにも、お父様も何事もなかったかのように振る舞って答える気がないのが伝わってきた。
うーん、いったい何があったのかすごく気になるけど、今は本来の目的を優先するかな。
「お父様、結界魔道具が壊れたと聞きました」
「っ!? いつから聞いていたのだ!?」
結界魔道具について聞くと、お父様が妙な驚き方をする。
「いつから、とはどういう意味ですか? 私は神官長から聞いたのですが」
「あ、ああ、そういうことか。そういえば今日は神殿に行く日だったな」
お父様はやたらとぎくしゃくした様子で納得の声をあげる。
気になる、この反応すごく気になる。
そしてさっきのムリエお姉さまの様子。はたしてこれは偶然だろうか?
うん、さすがに偶然とは思えないね。
なのでカマをかけてみよう。
「結界魔道具をどうにかするためにお姉さまが必要というのは本当なんですね」
「やはり聞いていたのか!?」
お父様が目を丸くして驚きの声をあげる。
やっぱそうだったんだ。
「いえ、知りませんでした。ちょっとカマをかけてみただけです」
「なっ!?」
ふっふっふっ、してやられましたねお父様。
「……まったく、誰に似たのやら」
「私にとって一番身近な大人であるお父様だと思います」
「……そうか」
あれ? 皮肉を言ったつもりなのになんで嬉しそうなんです?
「それで、結界魔道具とムリエお姉さまに何の関係があるんですか?」
正直そこがよく分からない。
ムリエお姉さまの魔法属性は火だから、結界とは関係ないだろうし。
「まさかギラン侯爵家がムリエお姉様を嫁によこせと言っているとかそんなことは……」
って、いくらなんでもそれはベタ過ぎるか。
「その通りだ」
「……え?」
「ギラン侯爵家は魔道具を早く直してほしいなら、ムリエを息子の嫁に出せと言ってきた。あそこの息子はムリエールを殊更に気に入っていたからな」
「は、はぁー!? 本気ですかお父様!? まさかそれを受けるつもりですか!?」
いやいやいやいや、いくらなんでもそれはないでしょう!
確かにこの世界は貴族社会で政略結婚も仕方なしなところはあるけど、だからと言って魔道具のために娘を嫁に出すとかあるの!?
「もちろん私もそんな事で娘を売るようなまねはしたくない! だが……」
と、そこでお父様が苦々しい顔で言葉を切る。
「魔物の群れが迫ってきているのだ」
「……え?」
今なんて?
「それも前回とは比べ物にならないほど大量の魔物が、我がユーラヴェン領に向かってきているのだ!!」
「な、なんですってぇぇぇぇぇぇぇ!?」
のっぴきならない事態が、私達の目の前に迫っていた。
パパ「娘は私に似た。ふふふ……甘美な響きだ」
リコ「今それどころじゃないですよね!?」
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凄く喜んでやる気が漲ります。