第18話 錬金術を学ぼう
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無属性魔法を覚えた事で、私は色々な魔法が使えるようになった。
使えるようになったのは攻撃、防御、回復、転移、強化の魔法だ。
ただ最後の一つ、錬金魔法だけは良く分からなかったんだよね。
他の魔法はゲームや漫画でイメージもすぐ湧くんだけど、錬金術の魔法っていうのは何をするんだろう?
友達の家で見た錬金術のゲームだと、魔法でナニカすると言うよりは、貴重なアイテムを鍋に突っ込んでグルグル混ぜるという感じで魔法を使っている感じはしなかった。
また地球で過去に存在していた錬金術師も、実際は科学者や薬師だったので、やはり魔法で何かするイメージが無い。
という訳で困った時のお父様頼り。
「お父様、錬金魔法とは何をするものなのですか?」
お父様の執務室に行くと、お父様は丁度休憩を取ろうとしていたらしく、ジョンソンに命じて私の分のお茶を用意してくれた。
「錬金魔法とは魔道具を作る魔法だな」
「魔道具を作る魔法ですか?」
魔道具と言われ、私はお父様から貰ったネックレスを思い出す。
「うむ。魔道具とは一見普通の道具だが、その実魔法の力を秘めている不思議な道具だ。一時的に武器に魔法の炎を纏わせたりする事は他の魔法使いにも出来るが、恒久的に物に魔法を込める事が出来るのは錬金魔法だけだ」
成程、錬金魔法っていうのはマジックアイテムを作る魔法だったんだ。
「ふむ、そうだな。ならば実際に錬金魔法の使い手を呼んで実演させてみようか」
「良いんですか!?」
「うむ、これもリコアリアの良い勉強になるだろう」
「ありがとうございますお父様!!」
「はっはっはっはっ」
私が抱き着いて感謝の意を述べると、お父様は笑いながら私の頭をクシャクシャと撫でる。
「ではお話がまとまった所でお仕事の再開をお願い致します旦那様。特に急ぎの書類を」
「……うむ」
おっと、長居し過ぎちゃったみたいだ。
仕事中に悪い事をしちゃったな。
「リコアリア様、錬金魔法の使い手は私が手配いたしますので、手配が出来次第ご連絡致します」
忙しいお父様に代わってジョンソンが錬金魔法の使い手を手配すると約束してくれた。
「よろしくねジョンソン」
「ズルいぞジョンソン!! それは私が……」
「ほっほっほっ、苦情はお仕事が終わってから承ります」
お父様が立ち上がって抗議するものの、ジョンソンはニコリと氷の笑みを浮かべながら良いから仕事をしろと催促する。
「……う、うむ」
……お父様もジョンソンには弱いんだね。
◆
数日後、我が家に錬金魔法の使い手がやって来た。
「お初にお目にかかりますリコアリア様。お……私は武器錬金魔法使いのゼノンとい……申します」
ゼノンと名乗った武器錬金魔法使いは、たどたどしい敬語で私に挨拶をしてくる。
「初めましてゼノンさん。リコアリア・テル・ユーラヴェンです。よろしくお願いしますね」
「は、はい!」
ゼノンさんは緊張を隠す事も出来ずにガチガチで返事をする。
まぁしょうがないよね。突然侯爵令嬢の為に錬金魔法を使えなんて言われたんだから。
しかも周囲には10人近い護衛が控えていて、彼自身も4人の護衛に囲まれている。
ただしそれは彼を守る為じゃなく、私に何かしようとしたら即座に取り押さえる為だ。
正直コレはよろしくない。
貴族的にこれが普通なのかもしれないけれど、これじゃ私が彼を脅しているようにしか見えないからだ。
「ゼノンさん、無理して敬語を使わずとも構いませんよ」
せめて言葉づかいくらいは楽にしてあげようと思ったんだけど、ゼノンさんはすごい勢いで頭をブルブルと振って断ってきた。
「め、めめめ滅相もない! 侯爵令嬢様に無礼な言葉遣いなどできません!」
護衛達から一斉にギロリと命じられたゼノンさんは顔を真っ青にしている。
うーん、これは逆効果だったか。
これはもうさっさと終わらせるのが彼の為かな。
「では、錬金魔法について教えてください」
「は! はひ!! れん、錬金魔法とは、物に錬金術をかけながら加工するぎじゅちゅでしゅ!」
めっちゃ噛んだ。
「しょ、しょれれ!!」
「待ってください。やはり普段通りの話し方でお願いします」
いやさすがにこれは駄目だわ。緊張となれない言葉づかいで説明になってない。
「で、ですが……」
「私は錬金魔法について知りたいのです。なら錬金魔法の使い手である貴方に対し、上から目線で命じるのではなく、師に教えを乞いたいのです」
「お、お嬢様!?」
貴族が平民に頭を下げるなどとんでもないと護衛達が声を上げる。
無論それは分かっている。メンツの問題なんだよね。
「分かっています。貴族である私がゼノンさんに頭を下げる訳にもいきません。ですから代わりに普段通りに話す事を特別に許可します。それをもって貴方の技術への敬意としましょう」
なかなか強引な理屈だが、これならゼノンさんが敬語で喋らなくても済む理由になる。
尚も不満そうな護衛に対しては、強い笑顔で護衛達を黙らせる。良いから私の好きなようにさせろと。
「さ、ゼノンさん、説明の続きを」
「は、はい!」
「敬語はいりませんよ?」
「へい! わかりやした!」
私の許可を得た事で話しやすくなったのか、それ以降ゼノンさんの口調が怪しくなることはなかった。
「あっしら錬金魔法使いは素材を魔法で加工しやす」
「素材を加工? 錬金魔法は魔道具を作る魔法じゃないんですか?」
あれ? お父様の説明と違うような?
「へい、もちろん魔道具として魔法を込める事にも使いやす。ですがあっしら職人としては、素材の加工に使う方が重要ですね。何しろ、鉄よりも硬い素材や下手に扱うと簡単に砕けちまうような素材でも、錬金魔法なら簡単に形を整える事が出来やす。気に入らなけりゃ何度でも形を弄れるのは大きいですぜ」
成程、この辺りは私の無詠唱魔法の感覚に近いね。
私にとって魔力は粘土だけど、彼らにとっては素材が粘土なんだろう。
「成程、分かりました。では続きをお願いします」
「へい。錬金魔法には大きく三つの段階がありやす。素材を加工する加工魔法。素材を仕上げる仕上げ魔法。そして素材に魔法を付与する付与魔法です」
へぇ、三種類もあるんだね。
「仕上げ魔法は焼き入れや表面に色を塗ったり、装飾を施す魔法です。この魔法は絵心も必要な事が多いんで、これ専門の職人もいるくらいです」
成程ね。確かに装飾は彫金師とかの専門なんだろうなぁ。
「そして最後の付与魔法はリコアリア様もおっしゃったとおり、魔法を付与する魔法です。こいつは職人の魔力の多さと精密な魔力操作の技術、そしてなによりセンスが必要なんで、一流の付与魔法使いは他の魔法が下手でも引く手あまたでさぁ」
うん、それも理解できる。魔道具と言えば付与された魔法の性能が一番重要だもんね。
「ここで重要なのは、加工魔法と仕上げ魔法は普通の鍛冶師でも出来る事でさぁ。確かに魔法を使った方が楽に作業ができやすが、それでも職人が魔法を使わずに作った方が良い物が出来る事もすくなくありやせん」
「加工魔法と仕上げ魔法は、あくまでも既存技術の魔法版という事ですね」
「へい、おっしゃるとおりでさ」
となると重要なのは付与魔法って事か。
「ちなみにポーション作りも錬金魔法なんで、やる事は同じでさ」
ああ、そういえばゲームの錬金術師もポーションを作るのがお約束だよね。
「とまぁ長々と話しちまいましたが、これでざっくりとした錬金魔法の説明は終わりですわ。次は実際に錬金魔法を使って物を作りますぜ」
おお! 遂に錬金魔法の実演だね!
これで私も錬金魔法が使えるようになるかも!
部屋の隅に控えていたメイドがテーブルの上に鉄の塊と幾つもの小さな壺を載せる。
「ではいきやす『無限の姿を持つ者よ、我の意に沿いその姿を定めよ、クリエイション』!!」
ゼノンさんが魔法を唱えると、テーブルの上の鉄が意志を持ったかのようにグニャグニャと形を変えていく。
そして瞬く間に小さな盾へと姿を変えた。
「これが加工魔法でさぁ」
「おぉー!」
その見事な変わりように、私は思わず拍手をしてしまう。
私だけでなく護衛やメイド達も、初めて見る加工魔法に興味深げだ。
「本当ならここから細部を調整するんですが、今回は錬金魔法をお見せするのが仕事なんで、このまま仕上げと付与をおこないやす」
そう言ってゼノンさんは次の魔法に取り掛かる。
「『いと美しき手を持つ君よ。その素晴らしき指先で我の心を描きたまえ、フィニシャ』!」
すると今度は盾の表面が動きだし、見事な蔓の模様を作り出す。
そして壺から色とりどりの液体が意志を持っているかのように動きだし、盾をカラフルに彩っていく。
「凄い! まるで芸術品ですね!」
「普段は盾にこんなことしねぇんですが、今回は特別ですよ」
もうこの時点で装飾品として売れそうな出来栄えだ。
「では本命の付与魔法をおこないやす『形与えられた者よ、汝その秘めたる力を解き放ち、その身に輝きを纏え。汝の真名は[光を示せ]なり、エンチャント』!!」
魔法の発動と共に、盾がほのかな光に包まれる。
「ふぅ、これで完成でさぁ。これでこの盾は手に持って『光を示せ』と言えば盾が光る様になりやした」
さっそく試してみようと思ったら、護衛達に止められた。
「まずは我らが試します」
「(盾を作る際に使った材料に毒が付着している可能性もありますので、お嬢様はお触れにならないでください)」
耳元でこっそりと説明してくれるカーリー。
成程、貴族ってそういう事も気にしないといけないんだね。
「光を示せ!」
盾を手に取った護衛がキーワードを唱えると、盾がほのかに光り出す。
「光りましたね!」
「ええ、そうですねお嬢様」
おおー、実際に効果が発動するのを見ると凄いなぁ。
地球で同じように光る盾を作ろうと思ったら、もっと設備も材料も時間もかかるもんなぁ。
「それにしても随分とあっさり完成するものなんですね」
「あっしは慣れてやすし、ただ光るだけですからね。付与魔法になれていない新入りなら手間取りやすし、強力な効果を付与しようとすればもっと手間も魔力もかかりまさぁ」
成程、何事も練習と慣れが大事と。
「ゼノンさん、今日はありがとうございました」
一通りの魔道具作りを見せてもらった私は、ゼノンさんに感謝の言葉を告げる。
「いやいや、あっしも仕事ですから。この程度お安いご用ですよ」
◆
「さて、それじゃあ私もやってみようかな!」
ゼノンさんから錬金魔法の一連の工程を見せてもらった私は、さっそく自分も錬金魔法を使えるように練習をする事にした。
「それで、何を作るのだ?」
と、お父様が聞いてくる。
うん、お父様も一緒なんだ。
転移魔法の件がばれた事で、お父様からは何か新しい事をする時には一言告げる様にと言われていたんだよね。
それに錬金魔法は他の魔法と違って加工する為の材料が必要だから、どのみちお父様に相談しないといけない。
「まずは簡単なナイフから作ろうと思います」
私はテーブルの上に置かれた鉄の塊に手を向け、呪文を唱える。
錬金魔法は考える事も多いから、まずは呪文を補助に使っていく。
慣れれば無詠唱でも出来るようになるだろう。
「『無限の姿を持つ者よ、我の意に沿いその姿を定めよ、クリエイション』!!」
頭の中で前世の地球のナイフをイメージすると、目の前の鉄の塊がそのイメージ通りに変形していく。
「ふむ、随分とシンプルな形状だな」
「あれ?」
何故か出来上がったのは包丁だった。
もうどう見ても包丁。
これはアレだな。私の前世の記憶の中で一番身近な刃物が包丁だったからだろうな。
前世の私は親から良い家に嫁ぐ日の為に、料理の腕を磨けと命令されて頻繁に毎日の料理を作らされていたからね。
しかも今思うと、私の腕が上がっていくにつれ私が食事当番をする日が増えていった気がする。
……うん、やっぱり転生して良かったかも。
ともあれ、物自体は完成した。
なんか持ち手の部分まで鉄で出来ちゃってるけど、これは私の記憶にあった包丁の全体像を再現する事が優先されたからだろうね。
そこらへんは意識してやれば調整は可能だろう。
まぁそれは次の課題として、今度は付与魔法かな。仕上げ魔法は装飾を付けるだけだから、次の機会でいいや。
さて、それじゃあどんな機能を盛り込もうか。
幸い私は魔力だけは多いので、気にせず色々と盛り込んでいくとしよう。
うーん包丁に欲しい機能か。まずは切れ味向上かな。良く切れる包丁の方が良いしね。他には……
私は包丁に盛り込みたい幾つもの機能を纏めると、早速呪文を唱える。
「『形与えられた者よ、汝その秘めたる力を解き放ち、その身に……」
あっ、これ効果を付与する呪文分かんないや。
ゼノンさんは光る付与しか付けてなかったからなぁ。
まぁいいや、ここは無詠唱でイメージを込める事にしよう。
失敗したらやり直すだけだ。
「……エンチャント!』」
イメージをしっかりと思い描きながら、私は付与魔法を発動させる。
これで完成したと思うんだけど、とりあえず試し斬りしてみるかな。
カーリーを呼んでお父様とお茶会をするからという名目でケーキを持ってきてもらう。
そしてカーリーを下がらせたら、作った包丁でケーキを切ってみた。
「あっ、良く考えるとケーキじゃ柔らかすぎて試し斬りにならないかも。もっとこのテーブルみたいに硬い物を切った方が……」
ガコン
と、変な音が鳴った。
「え? 今の音何……?」
すると目の前でテーブルが真っ二つに割れて左右に倒れていく。
「え?」
次いでガシャーンという音と共にテーブルのカップやお皿が地面に落ちて割れた。
「ええ?」
何? どういう事?
「……リコアリア、そのナイフにはどのような付与を施したのだ?」
お父様の淡々とした声が静かになった庭園に響く。
「ええと、硬い食材でも簡単に切れる様に切れ味向上と、研ぐ手間と拭う手間と洗う手間を解消する為切れ味維持、錆び止め、汚れ除去、それに大きな食材でも一気に切れるよう、切ろうと思ったものは刃が届かないサイズでも切れる切断面延長の付与を施しました」
「多すぎだっ!!」
お父様がありえないと叫ぶ。
「え? でもお父様に貰った変身のネックレスは6つの姿に変身できますよ?」
あれは6つの付与がかかっているという事だと思うから、それに比べれば少ないと思うんだけど。
「あれは基本は同じ効果だ。だがお前の付与した効果は全く別の効果だ。難易度が違う」
マジですか……!?
「しかもなんだこの切れ味は、まるで初めからこの断面だったかのような切り口だぞ。こんな凄まじい切れ味を向上させる付与は初めて見たぞ」
えーと、つい前世でかぼちゃを切るのに苦戦した記憶が浮かんできて……それが原因かな?
「このナイフは並大抵の錬金魔法使いでは作れん代物だ。それこそ世界有数の職人が作った品と言っても信じられるぞ」
そ、それほどですか!?
「……リコアリア、この事は秘密いや、ユーラヴェン侯爵家の機密にするぞ」
「……はい」
うん、さすがにこれは内緒にしないとアカン奴だわ。
「だがリコアリアのこの力は貴重だ。なんでもかんでも禁ずるよりは作りたいものを慎重に吟味して許可を出す事にすれば良いだろう」
そんな訳で今後はあらかじめ作るものをお父様と相談する事で、製作許可と材料費が出る事になったのだった。
「所でリコアリア、このナイフに装飾を付ける事は出来るか? 我がユーラヴェン家の家宝に相応しい装飾を付けてほしいのだが」
「何言ってるんですかお父様っ!?」
「はっはっはっ、娘が初めて作ったナイフだぞ。宝物庫に大切に飾らねばな!」
この家、宝物庫なんてあったんだ……いやそうじゃない!
「絶対にやめてくださーい!」
ちなみに目の前の大参事はお父様が伝手で手に入れた魔道具の試し切りと言うことになった。
パパ「娘の作ったナイフ、自慢したいなぁ……(ソワソワ)」
リコ「絶対やめてください」
包丁「もっと色んな物を切らせてくれぁ~」
おもしろい、続きが読みたいと思ってくださいましたら、感想、ブックマーク、評価をしていただけると嬉しいです。
凄く喜んでやる気が漲ります。




