第16話 魔法の勉強と氷の貴公子と……
すみません、ちょっと更新が遅れました。
リズがうちに残る事になった為、彼女も私と一緒に魔法の勉強をする事になった。
「私まで一緒にお勉強をさせてもらえるなんて、本当にありがとうございます」
リズは恐縮しつつもお父様に感謝の言葉を告げる。
「気にしなくて良い。リコアリアも共に学ぶ学友が居た方が良いだろうからな」
ああ成程、私の学習意欲を刺激する為にライバルを用意した訳だ。
実際一人だとダレるだろうしなぁ。
「それと良い機会だから、二人の貴族教育も行う事にした。これはナディル殿も承知してくれたことだ」
そんな訳でリズと一緒の勉強生活が始まった。
勉強を教えてくれるのはダリルお兄様やムリエお姉様に勉強を教えたロットンという先生だ。
なんでも代々ユーラヴェン家に仕える学者の家系らしい。
学ぶのは歴史、語学、数学、礼儀作法、ダンスと盛りだくさんだ。
幸い、数学は前世の地球での積み重ねがあるから大変ではなかった。
歴史と語学は初めて学ぶ内容だけど、こちらも前世で学んだ知識が参考になる。
「リコアリア様は学問の才能があるようですな。特に数学の成績が素晴らしい」
ロットン先生はサクサクと知識を覚える私に満足げな笑みを浮かべる。
「凄いですリコ様! まるで学者様みたいです!」
リズが興奮しながら私を称賛してくれるけど、それは前世の積み重ねがあるから何だよ。
厄介なのは礼儀作法とダンスだ。
こっちは前世じゃ学ばなかったからなぁ。
とほほ、フォークダンスや創作ダンスは役に立ちそうもないよ。
まぁそれでもこの体の運動神経は悪くない。寧ろ良い方だから何とかダンスの先生の指導について行くことが出来た。
「お二人とも姿勢が悪くなっていますよ! どんな時も姿勢は綺麗に淑女らしい笑顔も忘れずに!」
「「はいっ!!」」
ううっ、やっぱ大変だよぉ……
「……はぁ、疲れた」
厄介な礼儀作法とダンスが終わった事でようやく授業は一段落だ。
幸い、次の授業まで余裕があったのでリズとお茶会をしていた。
「お嬢様がた、お茶を飲む際も淑女らしさは忘れないでくださいましね」
と思ったらカーリーが礼儀作法の先生の代理として、私達のマナーを監視していた。
「は~い」
「お嬢様、言葉を伸ばさないでください」
「はい、わかりました」
貴族の教育って面倒だなぁ。
「慣れれば気にならなくなりますよ」
お茶会が終わると待望の魔法の授業だ。
こちらは教師であるお父様のスケジュールがあるので、時間は不規則なんだよね。
だからこそお茶会なんて出来るんだけどね。
「今日は魔力操作の練習を行う」
「魔力操作ですか?」
うーん、聞き覚えのない授業だね。
今日はリザティア様が居るから私の秘密が漏れないようにかな?
「魔力操作は魔法使いにとって必須の技術だ。魔力を自在に操る事が出来るようになれば、魔法の威力、精度、魔力消費の全てが向上する基本にしてもっとも重要な技術だ」
おー、なんかテクニカルな授業だ。
でもこれなら私の秘密がばれなくて済むから納得だね。
「リザティア嬢は転移魔法をつかうからな。魔力の効率的な使い方は特に重要だろう」
おっと、ちゃんとリズの事も考えての授業だった。
「ユ、ユーラヴェン侯爵様直々に魔法の手ほどきをしてくださるなんて、感激です!!」
そんなリズは何故かやたらと興奮していた。
「あのリズ、なんでそんなに興奮しているんですか?」
リズの興奮ぶりが気になった私は、何故そこまで鼻息荒くしているのかと質問する。
「だってリコ様! あの伝説の氷の貴公子に魔法を教えてもらえるなんて一生に一度あるかないかなんですよ!」
「……氷の貴公子?」
え? 何それ? 侯爵直々だからとかじゃなくて?
「あら? リコ様はユーラヴェン侯爵様の二つ名をご存じないのですか?」
お父様の二つ名? 何ソレ? 初耳なんだけど?
「二つ名……というのは何ですか?」
「それはですね……」
「こらこら二人とも、今は魔法の勉強の途中だろう?」
しかしそこでお父様が間に割って入る。
けれど私には分かった。真面目に授業を続ける振りをして、お父様がこの話題を止めたがっている事に。伊達に7年間親子をしていないぜ!
「リズ、構わず教えてください」
「リコアリアッ!?」
こんな面白そうな話、聞かない理由がないでしょう!
「はい! それはですね、10年前に王都で開かれた魔法大会が理由なのです」
案の定リズも乗ってきた。話したくて仕方がなかったのだろう。
そしてお父様もよそ様から預かった女の子を力ずくで黙らせるわけにもいかず、リズが話し出すのを止める事が出来なかった。
「そこでユーラヴェン侯爵様は得意の氷魔法で大活躍し、氷の貴公子の二つ名を賜ったのですよ」
ほうほう、お父様にそんな過去があったんだ。
それにしても氷の貴公子だなんて、当時のお父様は相当に大暴れしたんだろうなぁ。
「そんな二つ名を与えられるなんて、凄いですねお父様!」
けれど当のお父様は苦々しい顔で唸っていた。
「違うのだ。それは私の知り合い達が勝手に広めた呼び名であって、実際はそんな大層なものではないのだよ」
とお父様は言うけれど、魔物の大群と戦っていた時のお父様の活躍を見るかぎりでは、決して大げさとは思えない。
「ご謙遜ですわユーラヴェン侯爵様! 私お父様によく聞かされたんです。試合会場でユーラヴェン侯爵が氷魔法を使えば、試合を見ていた観客のみならず対戦相手までもが見惚れてしまう程だったと!」
おおぅ、対戦相手まで虜にするとか、相当派手な戦い方をしてたんだろうなぁ。
「更に試合が終わればユーラヴェン侯爵様にメロメロになった令嬢やご婦人達がはしたなくも自らアプローチをかけてくるも、奥方様一筋の侯爵様はそんな彼女達をすっぱりと切って捨てて逆に大興奮させたとか!」
「え? 何で断られて興奮するんですか!?」
「極寒の氷の眼差しが堪らなかったそうです!」
ああ、そういう。どうやらお父様の美貌と活躍と塩対応が多くの女性達に歪んだ性癖を刻み付けてしまったらしい。
「お父様のご友人のトルファン子爵やムスリージ伯爵もユーラヴェン侯爵様の戦いぶりを称賛しておりましたよ!!」
「あいつら……」
お父様がことさら苦々しい顔で悪態をつく。
どうやらお父様にも悪友と呼ぶべき人達が居たようである。
それにしても氷の貴公子かぁ……ちょっと気障過ぎる二つ名がおかしくて、こっそり私は笑ってしまったのだった。
「二人とも、いい加減真面目にやらないと勉強はこれまでだぞ!」
「「ごめんなさーい」」
その後も氷の貴公子の話題が続きそうだったのだけれど、お父様が強引に舵を切って修行に戻った。
「魔力操作の基本は体内の魔力を感じとる事と自在に操る事だ。魔法を使う時の魔力の高まりをイメージして体内の魔力を感じ取りなさい」
「「はいっ!!」」
とは言ったものの、意外と意識して魔力を感じるのは難しい。
今までは無意識で出来ていたものを意識的にやると言うのはなかなか骨だ。
「魔法を放つ時の感覚を思い出してみなさい」
練習が難航している私達に、お父様がアドバイスをしてくれる。
ええと、魔法を放つ時のイメージ……
魔法を……
「……『アイスアロー』」
バシュンッッ!!
放つ瞬間をイメージしながら魔法の名前を呟いたら、ホントに出た。
「……え?」
放たれた魔法はそのまま庭園の石畳に直撃して氷漬けにする。
「な、なんで!?」
「リコアリア、本当に魔法を使う必要はないぞ!」
私が魔法を放ったことで、お父様が驚きの声を上げる。
「ち、違いますお父様! 私、呪文を唱えてません!」
「何?」
そうなのだ、今私は呪文を唱えてはいなかった。
あえて唱えたとすれば、呪文の名称くらい。
でも呪文の名称はいうなれば拳銃の引き金だ。
呪文という本体が無ければ魔法が発動する事は無い筈。
「何故か呪文を唱えずに魔法が発動してしまったんです!」
「呪文を唱えずにだと? それはまさか無詠唱魔法か!?」
「無詠唱魔法?」
お父様が目を丸くして驚く。
ってなんぞや?
「無詠唱魔法というのは、熟練の魔法使いが長い時間をかけて習得するものだ。本来リコアリアの歳の子供が使えるものではない!」
え? でも今使えたんだけど。
「もしやリコアリアの才能がよほど氷の魔法と相性が良かったのか? それとも無詠唱そのものがリコアリアと相性が良いのか?」
驚きのあまり、お父様は無詠唱魔法についての考察を始めてしまった。
うーん、無詠唱魔法は難しいって話だけど、だったら何で私に無詠唱魔法が使えたんだろう?
前世があるから? それとも全属性と膨大な魔力が原因だろうか?
「……あっ」
そこで私はある事を思い出す。
「どうしたリコアリア?」
「いえそれが、私もしかしたら以前にも無詠唱魔法を使った事があるかも知れません」
「何!? それは本当か!?」
そして私はお父様にその時の事を説明する。
「以前魔法の練習のために町の外に出た時の事ですが、ゴブリンへの攻撃が全然当たらなくて焦った時
呪文を唱えずに攻撃魔法を放った気がするのです」
「なんと、そんな時から既に無詠唱魔法を使えていたのか……!?」
今になって思い返せば、きっとあれは無詠唱魔法だったんだろうなぁ。
そもそも呪文を唱えていなかった事を忘れていたよ。
「よもや無詠唱の才能まであるとは、さすがはわが娘だな」
いやいや、そこで思考を放棄して親バカを発動させないで下さいよお父様。
しかしバカは私も一緒だった。
ここにもう一人の授業参加者が居る事を忘れていたのだから。
「す、凄いですリコ様!」
「「あっ」」
そう、リズが居たのだ。
「さすがは氷の貴公子の娘ですね! 魔法の達人でも難しい無詠唱魔法を使えるだなんて! まさに氷の令嬢!!」
「こおりのれいじょう!?」
何その恥ずかしい二つ名は!?
「はっはっはっ、良いではないか。いやしかし氷の令嬢か。私とお揃いだな」
「お父様!?」
さっきまで自分の二つ名を嫌そうにしていたのに、私の事となると途端に嬉しそうな顔になっている。
もしかしてさっきのお返しのつもり!?
「これはリコアリア様の二つ名を世に知らしめる必要がありますね!」
「広めなくて良いですから!!」
リズが妙な使命感に燃えあがっている。
つーか、そんな二つ名広められたらたまったもんじゃないよ!?
悪役令嬢かってーの!
「はっはっはっ、リコアリアよ、二つ名というのは本人の意思を無視して広まっていくものだ……私のようにな」
急に影を纏ったお父様が自分もそうだったと無の表情になる。
いやいや、そこで諦めないで欲しい。
「絶対広めないでぇー!」
私の必死の制止もあって、なんとか氷の令嬢の二つ名が世に広まるのは避けられたのだった。
「……でも時間の問題だとおもいますよ?」
リズ「はたしてあと何日でリコ様の二つ名が世に広まるのか」
パパ「うっかりやらかして新しい二つ名が広まるのだろうなぁ」
リコ「広まらないから!」
おもしろい、続きが読みたいと思ってくださいましたら、感想、ブックマーク、評価をしていただけると嬉しいです。
凄く喜んでやる気が漲ります。