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第12話 実践、転移魔法!

 しばらくすると、意識を失っていたリザティア様が目を覚ました。


「お加減はいかがですかリザティア様」


 はじめは何が起きたのか分かっていなかったリザティア様だけれど、すぐに自分がショックで気を失ってしまったのだと気付く。


「え、ええ。もう大丈夫です」


 とても大丈夫そうには見えないが、それでもリザティア様は気丈に振る舞う。


 命がけで救援を依頼しに来たにも拘わらず、リザティア様はそれを断られてしまったというのに。

 前世の記憶を持ち今世と合わせると既に二十年以上生きた私と違い、リザティア様はほんの数年しか経験していない本物の少女だ。


 にも拘わらず彼女は涙をこらえて必死で淑女らしく振舞っていた。

 その痛々しい姿になんとか力を貸してあげたいと思うのだけれど、何も出来る事が思い浮かばない自分が情けない。


「あの、リザティア様、よろしければ中庭でお散歩しませんか?」


 そんな自分に出来たのは、ただ彼女を外へと連れ出す事だけだった。


 ◆


「凄い、こんなに沢山のお花が……」


 中庭にやって来たリザティア様が、庭園に咲き乱れる花々に歓声を上げる。

 良かった。良い気分転換になったみたいだ。


「この庭はお爺様がいつでも綺麗な花が見られるようにと、旬の時期が違う花をそれぞれの区画に植えてあるんです。だからここに来ればいつでも咲き乱れる花々を観賞することが出来るんですよ」


「素敵ですね!」


 リザティア様は庭園の花を見つめながら穏やかな笑みを浮かべる。


「伯爵領に残っているお母様も美しいお花が大好きなんです……お母様にも見てもらいたかったですわ」


 リザティア様の目から一筋の涙がこぼれる。


「……はぅっ」


 駄目じゃん! 気分転換どころか故郷の事を思い出しちゃったよ!

 えーっとえーっと、何か良いかんじに話を逸らせる話題は……


「えっと、その……そ、そう! リザティア様は転移魔法が使えるんですよね!」


「え、ええ。……あまり役には立ちませんでしたが」


 私のアホォォォォォォォッ!! なんでそんな危険球ドストライクな話題を振ったぁぁぁぁぁぁ!!

 ああ、自分の阿保さ加減に呆れ果てるよ……


「良ければやってみましょうか?」


 するとリザティア様は涙をぬぐいながらそんな事を提案してきた。


「え? 良いんですか!?」


 まさかの展開に私の方が驚いてしまう。


「はい、助けて頂いたお礼という訳ではありませんが、リコアリア様が望むならお見せ致しますよ。でも大した魔法ではないのでがっかりされてしまうかもしれませんね」


「い! いえそんな事はありません! 以前から転移魔法を見たいと思っていたんです!」


 よっしゃぁぁぁ! セーフ! まだセーフ!! まだフォローは可能ですよぉー!


「私はまだ魔法を習い始めたばかりなので、他の方の使う魔法が珍しくて仕方ないんです! それに転移魔法は観た事がなかったので、いつか見てみたいと思っていたんです」


「まぁ、そうだったのですね。私の魔法などでよければ、どうぞ好きなだけご覧くださいませ」


「ありがとうございます!」


 そんな訳で私はリザティア様の転移魔法を見せて貰えることになった。


「では、始めますね。『時と空の監視者よ。我が身我が願いを遥かな地へと運びたまえ! テレポーテーション』!!」


 すると、突然目の前に居たリザティア様の姿が消えた。

 って、え!? マジで消え!? 突然パッと居なくなったんだけど!?


「ここですよー」


 声のした方を見ると、離れた場所にリザティア様の姿が。


「ええっ!?」


 うそっ、いつの間に!?


「『時と空の監視者よ。我が身我が願いを遥かな地へと運びたまえ! テレポーテーション』!!」


 再びリザティア様が呪文を唱えると、今度は視界内から完全に姿が消えた。

 

「き、消えた!?」


「こっちですよ」


 今度は背後からリザティア様の声が聞えてきたので、慌てて振り返るとそこにはリザティア様の姿があった。


「いつの間に!?」


 本当にいつの間にだ。呪文を唱えて姿を消すまでの間、私はよそ見する事無くじっと見ていたんだから。


「これが転移魔法です。私はリコアリア様の真後ろに転移したのですよ」


「す、凄い! 本当に一瞬で居なくなってビックリしましたよ!!」


「ふふ、この程度の距離なら大したことではありませんよ」


 まるでバトル漫画の「どこを見ている」って言いながら背後に回り込む敵キャラみたいだ!

 ……あれ? でもそれだとちょっとおかしいような気が……

 と、そこで私は今の一連の出来事に言葉に出来ない違和感を感じた。


「リザティア様、今の魔法ってどういう風に使うんですか? コツはありますか? 気を付けている事ってありますか!?」


 気になった事はすぐに聞くに限る。

 時間を置くと忘れちゃうからね。


「コツですか? そうですね、私は自分の体が浮き上がるイメージで魔法を使っています」


 え? それって空中浮遊的な意味で?


「浮き上がる……ですか?」


 私が言葉の意図を再度確認すると、リザティア様はその通りと頷く。


「ええ。自分が浮いて地面から解放される。そうする事で歩く、つまり移動する必要なく目的地に向かうというイメージですね」


「成程、そうやって精度を高めるんですね」


 変わったやり方だなぁと思ったら、リザティア様が何とも言えない顔で言葉を濁す。


「それが、転移魔法の使い手は少ない為、師となってくださる方が少ないんです。ですので私も簡単な手ほどきを受けただけで、あとはほとんど自己流ですね」


「そうだったんですか」


 成程、使い手が少ないからどうしても魔法の検証が満足に出来ず、結果不完全な知識になっちゃうんだね。


「ありがとうございますリザティア様。勉強になりました」


「私でお役にたてたのなら何よりです」


 その後もリザティア様と色々なお喋りをしていたのだけれど、やはり心労が溜まっていたのだろう。

 何度もふらついた彼女はメイド達に促され、体を休める為に部屋へと戻っていった。


 そんな彼女を見送った私は、自室に戻ってある実験を行う事にした。 


「さて、それじゃあ私も検証するかな」


 私の検証。それは転移魔法の検証だ。

 リザティア様の使っていた呪文を思い出しながら、私は転移魔法を発動させる。

 まずは室内の端から端へ。


「『時と空の監視者よ。我が身我が願いを遥かな地へと運びたまえ! テレポーテーション』!!」


 ふわりとした浮遊感を感じたと思った瞬間、突然目の前に部屋の壁が現れる。


「おおっ!?」


 周囲を見回せばそこは自分が見ていた部屋の端だ。

 振り向けば反対側の壁は自分が立っていた場所が見える。


「出来た!」


 意外にもあっさりと転移出来た事に、少し肩透かしを食らう。


「成程、これが転移する感覚かぁ。でも魔力を無駄に使ってる気がするなぁ。もうちょっと練習してみよっと」


 私はその後も何度か室内で転移を試してみる。

 そして術の発動に慣れてくると、次のステップだ。


「さて、それじゃあ次の実験だね」


 私は窓の向こうに見える山の頂上、その更に上を見つめながら呪文を唱える。


「『時と空の監視者よ。我が身我が願いを遥かな地へと運びたまえ! テレポーテーション』!!」


 次の瞬間、私は空の上にいた。


「うわわわっ!?」


 よ、予想通りだったけど、それでもこれは怖い!

 私はすぐに山頂を見ながら転移をし直す。


「『時と空の監視者よ。我が身我が願いを遥かな地へと運びたまえ! テレポーテーション』!!」


 すると今度は地上スレスレの高さに再転移した。 


「ふぅ、危なかった」


 危うく墜落死する所だったので、ほっと一安心。


「でもこれで私の予測は正しかったみたいだね」


 そう、私はこの転移で自分の予測が正しかった事を確信する。


「転移魔法は行った事のない場所はムリでも、目に『見える』範囲なら自由に移動できる!」


 この仮説を思いついたのは、リザティア様が私の真後ろに転移した時だ。

 あの時リザティア様が転移した場所は、彼女がまだ行ったことのない場所だった。


 けれど転移魔法が一度来た事のある場所だけしか転移出来ないのなら、彼女が転移できるのは目を覚ました客間と中庭までの通路、そして彼女が歩いた中庭の一部のみの筈。


 にも拘わらず私の後ろに転移出来たと言う事は、一度移動した場所以外に目視できる範囲への移動も可能だと思ったのだ。

 一応ごく短距離なら例外なのかもと思ったが、今の長距離転移で数キロ単位での目視転移も可能な事が分かった。

 これを応用すれば、一旦上空高くに転移する事で遠くまでの視界を確保し、遠く離れた場所へ転移する事が可能になるだろう。


「うん、これなら伯爵領までいけるね!」


 そして私の無駄に多い魔力なら、騎士団を纏めて連れて長距離の転移も可能!

 これで伯爵領の救助が現実的になったよ!


 高い山の山頂から自分が暮らしていた町を見眺め、私は期待に胸を膨らませていた。


「くしゅん!」


 ううっ、さすがに山の上は肌寒いなぁ。

 さっさと帰ろっと。

カーリー「ガクガクブルブル」

リコ「一体どうしたの!?」

カーリー「お、お嬢さまが突然居なくなるフラグが!」

リコ「ギクリ」


おもしろい、続きが読みたいと思ってくださいましたら、感想、ブックマーク、評価をしていただけると嬉しいです。

凄く喜んでやる気が漲ります。

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