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第10話 魔物の脅威と走る馬車

「『アイスアロー!』」


 今日も今日とて私はゴブリン相手に実践訓練をしていた。

 魔物が現れると、散弾魔法で相手の回避を封じて一方的に攻撃する。

 時折命中精度を高める為に単発で相手の回避する位置を予測して魔法を放つ。


 初めての実戦の時には分からなかったけど、何度も戦って戦闘中も落ち着いて行動が出来るようになると、攻撃を置くという行為の意味が理解できてきた。

 これは相手の逃げる方向を予測するだけなく、相手を誘導してそこに誘い込むと言う意味もあったんだね。


 コツが分かればそれからは簡単だった。

 一度自転車に乗れるようになったらそれからはコケなくなる感覚と言えば通じるだろうか?

 そんな訳で私は反復練習として魔物を倒し続けていたんだけど、今日はなんだか魔物と戦う回数が多い様な気がしていた。


「あの、今日は妙に魔物が多くないですか?」


 私が聞くと、騎士達もそうですねと頷く。


「おそらくは侯爵閣下の討伐で減った魔物が外から流れてきたのでしょう」


「外から!? それは不味いのでは!?」


 あまりにもあっけらかんと言われたので、私の方が焦ってしまう。


「ご心配には及びません。これは毎回の事ですので」


「そうなんですか?」


「ええ。魔物が増え、町に近づいてきた者達を討伐し、減った所に外から魔物が流れてくる。それがこの世界の日常ですから」


「それは危険なのではないですか? 魔物は減らないんですか?」


「減りませんね。この世界はとにかく魔物の数が多いので、おそらく我々が討伐する数と新たに生まれる魔物の数は同じか増える方が早いのでしょう」


 何ソレ、超ヤバイじゃん!?

 もしかしてこの世界ってかなり危ないんじゃないの!?

 このままだと町に前回以上に大量の魔物が襲ってきて滅ぼされちゃうんじゃ!?


「ご安心くださいリコアリア様。魔物は人里を襲いますが、必要以上に多くの数で襲ってくることはありません。というのも、多くの魔物を従える事の出来る上位の魔物はあまり数が居ないのです」



 騎士達の話によると、上位の魔物だから、その分増え辛いのだとか。

 うん、それは安心できるニュースだね。


 ともあれそんな理由で魔物が増えているらしかった。


「でもそんなに魔物が多いと色々大変そうですよね」


「その通りです。おかげで町から町への移動も大変で、特に旅人や旅商人にとっては死活問題なのです。彼等は魔物から身を守る為になるべく一人でも多くの仲間達を集め、強い護衛を雇って旅をします。ただそれでも魔物に襲われる事は少なくありません。人員を揃えた騎士団ならば安心して旅を出来るのですが、それはそれで費用が掛かり過ぎますので」


 成程、安全を買うと今度は商売の利益が吹っ飛んじゃうんだね。

 だから旅人や商人が集まることで護衛の代金を少額ずつ捻出してもらって、自分一人だけじゃとても雇えない実力と人数の護衛を雇うのか。


「ですからリコアリア様も一人で町の外に出ようとは絶対に思わないでくださいね」


「分かりまし……え!?」


 その時だった。はるか先の街道から、一台の馬車がこっちに向かって爆走しているのが見えたのだ。


「何アレ!?」


 私が驚きの声をあげると、騎士達も振り向いて馬車の姿を確認する。


「『我が眼よ、彼方を見通す鷹の目となれ。ホークアイ!』むっ!? 護衛が居ないぞ! あの馬車一台だけだ!」


「馬鹿な! 馬車一台だと!? 自殺行為だ!」


 馬車はまだかなり遠くなのに、騎士の一人が正確に状況を把握する。


「凄いですね。目が良いんですか?」


「いえ、身体強化魔法で視力を強化しているのですよ」


 成程、身体強化魔法ってそんな事も出来るんだね。


「魔物が後ろから追ってきている! 大狼型の足の速い奴の群れだ! おそらく護衛はアイツ等にやられ、馬車だけが逃げてきたんだろう!」


「これはいけません。このままだと我々まで巻き込まれてしまいます。町まで避難しましょうリコアリア様」


「馬車の人達を助けないと!」


「なりません! リコアリア様の命の方が大切です!」


 騎士達は私の安全の方が大事だと強く主張し、強引に私を抱えて町へと避難を開始する。

 確かに彼等の職務を考えるとそうするのが正しいんだけど、それでもあの人達を見捨てるわけには!

 何かいい方法は……そうだ!


「『我が眼よ、彼方を見通す鷹の目となれ。ホークアイ!』」


 私はさっき騎士が使った身体強化魔法を使って馬車を見つめる。

 おおっ! こんなに離れているのに馬車についた傷まではっきり見える!

 よしよし、これなら狙えるぞ!


「『氷の矢よ! 我が敵を貫け! アイスアロー』!!」


 私は馬車を追う魔物めがけて氷の矢の魔法を放つ。

 魔力を込めた矢は途中で失速する事も消える事もなく、魔物に向かって飛んでいき、見事に命中した。


「よしっ!!」


「なんと!? この距離で!?」


 馬車の状況を確認していた身体強化魔法使いの騎士が驚きの声を上げる。

 うん、魔物達が馬車を襲うのに夢中だったのと、一般的な魔法の射程外からの遠距離狙撃だった事が幸いしたみたいだ。

 さすがに一撃で倒す事は出来なかったけれど、魔物達の足を止めるのには成功したみたい。


 馬車はその隙に魔物を引き離しそれに気づいた魔物が追いかけようとするも、私の第二射が再び彼等を足止めする。

 そうして完全に馬車が逃げ切った事で魔物達もこれ以上は無理だと判断したらしく、大人しく撤退していった。


「す、凄いですねリコアリア様!」


 仕事をやり終えた気持ちでいっぱいだった私だけど、騎士達の称賛の声に我に返る。


「あっ」


 見れば騎士達はキラキラとした眼差しで私を見つめていた。


「この距離であれ程の精度の魔法! さすがは侯爵閣下のご息女です!」


「あはは、ありがとう……」


 やっちゃったぁぁぁぁぁぁっー!!

 お、落ち着け私! まだ大丈夫! 大丈夫だよきっと!

 単に魔力でゴリ押しして普通の魔法以上の超射程で狙撃しただけだから! きっと大丈夫!


「そ、それよりもあの馬車の救助を。私は今ので魔力を使い切ってしまいましたので……」


 今更ではあるものの、無理をして魔力を使い切ったフリをする。


「お任せくださいリコアリア様。すぐに馬車の救助に向かいます!」


 騎士に抱えられた私は彼等と共に馬車へ向かってゆく。

 というか、馬車が全力で走っているので、馬車が近づいてきてる感じだ。


「む? これは……いかん!」


「え?」


 何かを察したらしい騎士達が、突然横に向かって走り出した。


「どうしたんですか急に!?」


「御者がいません! おそらくは魔物襲撃で振り落とされたのだと!」


「それってつまり……」


「あの馬車は暴走しております!!」


「ええーーーっ!?」


 ちょっ、それって不味いんじゃ!?

 案の定、回避した私達をすごい勢いで通り過ぎた馬車は道を外れても走り続けたんだけど、整地されていない地面のデコボコにバランスを崩し、横転してしまった。


「い、急いで救出に向かってください!」


「「「はっ!!」」」


 騎士達の数人が馬車に向かって駆け出してゆく。

 私は残った騎士達と少し離れた位置で待機だ。

 さすがに事故現場に連れて行く訳にはいかないということらしい。


 騎士達は横転した馬車のドアを開け中に入ると、少ししたら中から人を連れて出てきた。


「負傷していますが生きています! 治療を!」


「分かった!」


 回復魔法を使える騎士が馬車に向かって行き、負傷者の治療を始める。

 そして安全が確認されると、私が近づく許可が下りた。

 負傷者に近づくと、驚いた事にその人は女の子だった。それもドレスを着たお嬢様だ。

 町の外は危険だと聞いていたのに、こんな幼い女の子が外に出るなんて、何があったんだろう。


「うっ……」


 そんな事を考えていたら、少女が意識を取り戻す。


「大丈夫ですか? 痛い所は無いですか?」


 私が声をかけると、少女がこちらを向く。ただしその瞳は私を捕らえてはおらず、ぼんやりとしている。


「お願いします……領地を……助けて」


「領地?」


「私はリザティア=ソール=メルクール。メルクール……伯爵家の娘です」


「メルクール伯爵家!?」


「どうか、私達を……助けてください……っ」



 それだけ告げると、少女は再び意識を失ってしまった。


 これが、私の人生を大きく変えた第二の分岐となる出来事、リザティアとの出会いだった。

騎士「このお嬢さん良く生きてたなぁ(頑丈だ)」

リコ「この子よく生きてたなぁ(頑丈だ)」

馬車「僕ボロボロ(頑丈なご主人だ)」


おもしろい、続きが読みたいと思ってくださいましたら、感想、ブックマーク、評価をしていただけると嬉しいです。

凄く喜んでやる気が漲ります。

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