329. 幻想的な御神木様
俺は馬車を引き連れ御神木様の手前までやってきた。ブンナーの町中をあるいてきたわけなんだけど、どうやら町民たちもかなり混乱している様子だった。まあそりゃそうだよな…朝起きたら町が森に囲まれているなんて。
馬車に止まってもらい俺はそこから降りると、少し待ってもらうようにいい御神木の元へと走りよる。
「あ、りょーちゃん~」
「連れてきたぞ響子」
ぶんぶんと腕を振り響子が御神木の前で待っていた。
「えっとね~ ひとまず代表者? と御神木様が会うそうだよ。詳しいことはそれからだって」
「わかった、じゃあ呼んでこよう」
俺は再び馬車へと近づくと馬車の扉のことから中へと話しかけた。
「代表者と会うそうです」
「…会う? 町長か何かか??」
「ブンナーの今の状態と、ジルベスターのことについて教えてくれると思います」
「…わかった行こう。こちらは護衛はついて行っていいのか?」
「えーと…ついてくるのは構わないのですが、直接会えるのは代表者だけですよ。なのでついて来ても逆に混乱して騒ぎになってしまうかもしれないです」
よくわからないことを俺が言ったようにルシアさんは思ったんだろう。眉を寄せ首を傾げている。少し考えた後馬車の中の3人と馬車の外の護衛を2名だけ連れていくことに決めたようだ。俺はその5人を連れて響子が待つ御神木の前に向かった。
「りょ…りょーちゃんその人、第三王子だよ!!」
「…は?」
御神木の前にやってくると響子がいきなりそんなことを言い出した。俺は驚きゆっくりと首を動かしルシアさんの方を見る。ニヤニヤとした顔をしていた…わざとかっ 脅かすためにわざとちゃんとした素性を言わなかったのか? どうやらルシアさんは第三王子であり、ここの領主であり、こっそりと冒険者活動をしながら町々を視察していた…ということらしい。あ、ちがう。領主はまだこれからだった。
「聖女…だよな? 彼女が?」
「あ、失礼しました。私は聖女であり御神木様に巫女として選ばれた響子であります」
「…話に聞いたことがあるな。まさか本当に御神木様が存在しているとは…」
ここまでやってきた5人は誰しも驚いた顔をしていた。どうやら大陸のこっち側でもその名前くらいは知られていたようだね。
「はい、今から代表者の方に御神木様に会っていただきます。えーと…ルシア様が代表者ということでよろしいでしょうか?」
「ああそうだ」
「では私の手をお取りください。りょーちゃんはこっちの手ね」
「え、俺も話聞くの?」
「私じゃ会わせることは出来るけど、難しいことは無理だよ?」
いや、ちゃんと巫女らしく自分で動けよ…あんなジエルでさえがんばっていただろう? まあ、あれと一緒にしたらだめか。お供が何人もいたからな~ 俺はしぶしぶ響子の手を取った。
「では御神木の方をおむきください」
響子の声に従い視線を御神木の方へ向けるとゆっくりと上の方から御神木様がふわりと降りてきた。その様子は御神木がキラキラと光り始めたこともあり少し幻想的でもあった…が、普段の御神木様を知っている俺にとってはまあそういう演出なんだくらいにしか見えなかったけどな。
「これが文献で見た御神木様…」
だけどどうやらルシアさんにとってはそうじゃなかったようで、今にも膝をついて頭を下げそうな雰囲気だ。響子が手を繋いでいるので思うように出来なくて戸惑っている。見ている方としてはちょっと愉快だ。
「そなたがこの地を治める者、ということで相違ないか?」
「ぶふぉっ!」
いつもと違う喋り方につい俺は吹き出してしまった。すごい御神木様に睨まれている! 御神木様は咳ばらいをすると何事もなかったかのようにそのまま言葉を続けた。




