326. 外から見たブンナー
目を覚ますと目の前にはもうだいぶ見慣れた天井が見えていた。ここは俺が今部屋として使っている箱庭の中にあるベッドの上だ。だいぶ疲れが出ていたのか体を起こすと色んな所からパキパキと音がする。まあだからと言って目が覚めたのでもう一度寝ようとは思えなかった。
俺は身支度を整えてまず自分の部屋から外へと出る。廊下を歩き一つの部屋の前で足を止めた。コンコンと軽くノックをすると中から返事が返って来たので俺はその部屋の中へと入っていった。
「おはよう響子」
「りょーちゃんおはよ~」
響子はすでにおきていたのがベッドの横に置いてある椅子に座ってベッドのほうを眺めていた。そのベッドには雪乃が眠っている。
「まだ起きないんだな」
「うん…結構無理してたんじゃないかな」
雪乃の姿はかなり変わっていた。そうだな…60歳だと言われた方が納得できる状態だった。だけど雪乃の面影は残っていて俺たちはそれは間違いなく雪乃だということは理解している。
御神木が無事ブンナーに御神木として機能し始めて俺たちは今のんびりと自分たちの時間を過ごしている。これからはゆっくりと出来ることを順番にやっていこうかとおもう。
「そうだりょーちゃん。私お祈りいかないと」
「じゃあシズクにでも雪乃見ててもらおうか」
「あれ? じゃありょーちゃんは今からどうするの?」
「一晩立って明るくなったからちょっとブンナーの状態を見ておこうかなと」
「ふぅ~ん」
俺と響子は一緒に御神木様の所へと足を運んだ。まあ箱庭から直通なんだけどな。
御神木の足元についた響子は早速祈りを始めた。それを横目で見ながら俺は視線をあたりへと動かしていく。遠巻きにブンナーの住人がこっちを見ているな…まあ突然大きな木があったら驚くか。
視線を上に向けると日の光が葉っぱの間から…ないな。昨夜木漏れ日が差し込んでいた空は今では普通に青空をのぞかせている。そもそも夜に木漏れ日が見えるって普通に考えておかしい。俺もだけど他の人たちもそういうもんだと自然と受け入れていたようにも思えるな。
俺は御神木よりさらに北へと向かって歩き出した。この先は何もなくブンナーの外へと繋がっている。まあ俺にはそう見えている。ところがある一点を通過すると途端に真っ暗になった。なんとなくどっちへ歩けばいいのかわかるみたいなのでそのまままっすぐと進む。
「外だな」
真っ暗な中を歩いていくと普通に外に出た。今歩いてきたほうへと振り返るとそこには立派な森がある。なるほど…これが御神木様の守りか。同じ場所から中へと戻ろうとすると今度は木々が生い茂り、進む道をわからなくしてきた。一歩後ろへ戻ると俺は森の前に立っていた。
仕方がないついでだからぐるっと森の周りを歩いてみるか。でもどうせならネコルーも連れていくかな。俺はネコルーを呼び出しその背中にのってのんびりと森の周りを歩くことにした。
東回りにネコルーに乗って歩いていくとちらほらと人がいるのが見えてきた。あれは…ブンナーの出入り口があったあたりだろうか? 俺はその人たちに近づいて話を聞いてみることにした。
「どうかしましたか?」
「どうもこうもないよっ ブンナーが見当たらないし、知らない間にこんな森が出来ていたんだ」
「そうそう。俺も驚いたよ」
「でも困ったな~ これじゃあ仕事がおわりゃしない」
ここにいる人たちに聞いてみるとブンナーへ商売に来た人や、それについてきた護衛の冒険者たちだった。そういえばエルフの里はエルフの人と一緒じゃないと町へ行けなかったよな…もしかしなくてもここも同じなのかも?
『響子、ブンナーの外でエルフの里みたいに中に入れない人達がいるんだが、ちょっとどうすればいいのか御神木様に聞いてくれ』
『え、あーうん』
響子にイヤリングで連絡を取りこのことに詳しい御神木様に聞いてもらう。少しすると響子から返事が返ってきた。
『今結界の周りにいる人たちは町民の許可がないと入れられないって。ちなみにりょーちゃんははいっていいよ。それとその人たちが問題ないとりょーちゃんが判断したなら手を繋いで中へだって』
いつの間にか俺はブンナーの町民扱いになっていたことにちょっとだけ驚いたが、俺が判断するのはちょっと難しいんじゃないかな。




