324. 雪乃の記憶
いきなり景色が変わる。ついさきほどまでいたのはどこかの公園で、理由はわからないが母親に置いていかれた雪乃が泣いていてそこにたけが通りがかった所だった。それが急に森の中という景色に変化した。驚いているのはこれを見せられている俺だけじゃなく、それを実際に体験している2人も同じで…
「…ここどこ?」
「いや俺も知らないが…とりあえず立とうか」
たけが差しだした手を取り雪乃は立ち上がる。そしてキョロキョロとあたりを見まわしている間にたけが雪乃の服についた土を払い落とした。2人はお互い名前を名乗り今の状況を考えて見るが結論は出ない。だけど森の中にいるのはあまりよくはなさそうだと出口を探し始めた。
何度か雪乃の記憶が途切れその間も森をさまよう2人…食料も水もない状態ではその行動も長続きはしなかった。とうとう雪乃が歩けなくなり足が止まる。不安そうな顔をしてたけの方を見つめている。
「武兄ちゃんも私を置いていくの…?」
「おいおい、流石にそんなことしないぞ?」
「お母さんは私を置いて行っちゃったよ」
「…困ったな。俺は雪乃を守るつもりだが、誰が俺を守ってくれる?」
「武兄ちゃん…私がっ 私が守る!」
おどけたようなたけの顔に雪乃は涙を流しながら返事を返す。この場には2人しかいないので、お互いがお互いを守らなくてはいけないと思ったのだろうか。
「まあなんにしてもせめて水だけでも欲しいところだよな…」
森で彷徨いながらたまに見かける果物を手に取ってみるけど、それを手元に持ってくると消えてしまい食べることも水分を取ることも出来ないことに軽くいら立ちを感じているみたいだ。
「水よでろでろ~ なんてさ」
たけが両手を空へ向けふざけたことを言い出す。少しおかしくなり始めているのかもしれない。するといきなり空中に水の塊が現れた。そんな行動をとったたけもついつられて一緒に上を見上げた雪乃も口を開けて動きが止まる。ゆらりとその水が動くと一気に崩れ2人に降りそそいだ。
記憶が飛んだ。2人はエルフの里へ来ていた。どうやらあの後御神木様の記憶にあったように2人はエルフの里へと連れてこられていた。2人は御神木様と出会い今の2人の現状を伝えられる。世界が繋がってしまったせいでここへきてしまったという内容だ。2人は御神木様にお詫びとして力を貰い、このエルフの里での生活が始まった。
色んな記憶が流れていく…仲良く一緒に食事をしたり、エルフの里で周りの手伝いをする記憶。たまには喧嘩をしたりもした。魔法について雪乃は教えてもらい、色んな事を学んでいく。それはとてもワクワクする楽しい時間だった。
ある日たけとルリアーナが仲良さそうに笑っているのを見かける雪乃。胸を押さえ首を傾げていた。
魔法を教えてもらっているうちに自分たちが帰るための魔法を作れるんじゃないかと考えだす。それをたけに話すとたけもそれに協力すると嬉しそうに言うのを見て、雪乃も嬉しそうに笑う。
けど出来上がった魔法はこちらの世界へと呼び出す魔法だった。現在2人が迷い込んできた場所は強力な結界を張り迷い込んでこないようにされている。だけど完全にふさがれた訳じゃないのでその綻びからどうやら召喚する魔法らしい。
雪乃は気がついてしまった。その魔法で呼び出されたたけの状態を見て…魔方陣を奪い合う人たちの騒ぎにまぎれて一つの馬車に乗り込んで隠れた。その馬車がこの里を出ていくときに雪乃もエルフの里を飛び出した。
馬車からは最初の町に寄った時に離れ雪乃は魔法についてもっと研究をしながら旅を続ける。この研究は途中雪乃自身もどうしてそうなったのか理解できないまま続いていく。
若さを保つ魔法も完成した。そしてある日たけがまた雪乃の前に現れた。人族の住む王都で。その姿は初めてたけに会った時の若い姿のままだった。たけは雪乃のことを覚えていて、成長した雪乃に戸惑い問い詰める。私に勝ったら教えてあげると雪乃は言い、たけはその勝負を受けた。
そして…
泣き崩れる雪乃、倒れているたけ。雪乃の魔法が直撃した。召喚されたばかりのたけが魔法に対応できないことを理解していなかったのだ。
雪乃の研究内容が変わる。たけを助ける方法を探し始める。このころにジルベスターさんと出会ったみたいだ。魔術師団の下で一緒に魔法の研究が行われた。そして完成した魔法は…
「メモリア」
横たわっているたけに魔法を雪乃が使用した。その魔法によりたけになかったはずの記憶が埋め込まれていく。その記憶との繋がりは召喚魔法にも影響を及ぼした。
「初めましてこんにちは男の子はやっぱり元気だね」
「おねーさんは誰?」
今の雪乃と幼いたけが向き合っている。
「私は雪乃。武の友達かな? よろしくね」
高校に上って俺たちが初めて雪乃と出会う…そして召喚される。目の前に横になっていたたけが今のたけとなってやってくる。泣きそうになるのを雪乃はこらえ、そっと自分もその横に一緒に召喚されたかのように偽装していた。




