309. 契約書の真意
気分転換を兼ねて午後からフィレーネへと足を運んでみた。もちろんフードを目ぶかにかぶり出来るだけ顔を見られないようにして。ここは俺が残世界へやって来て初めて訪れた町であり、ある意味拠点ともなっていた町。だけど今では俺と敵対している人の納めている町でもある。
「あれ? そういえば…」
ふと俺は思い出したことがありインベントリを漁った。それは奥底に眠るかのようにあり忘れられていた存在。ジルベスターさんと結んだ契約書。はっきり言ってこれを使うようなことは一度も無かった。使わなくても何とかなってしまっていたからともいうが。
その契約書をおもむろにインベントリから取り出すとその瞬間空気に解けるように消えてしまった。
「……んん??」
あれ…ちょっと、保管しておくべきものが消えたら意味がないんじゃっ どういうことかわからず途方に暮れていると背後から声をかけられた。
「久々に見たなそれ」
「…? あ」
振り返るとそこには見知った人がいた。ここがフィレーネなんだから当たり前なんだが、また会うことになるとは思わなかった。
「お前…誰だ? …ってリョー」
「しっ」
俺の顔を横から覗き込んできたので終わてて男の口を両手で塞ぐ。そんな俺たちを通る人がちらちらと見るので、それが気になったのか男は親指をくいっと背後に向けた。ついて来いってことかな。
その場で騒がれるよりはいいだろうとその男についていった。案内されたのは俺が利用したことのない宿屋だった。2階に上がり一つの扉を開けると中に入るように促され大人しく入る。
「で、何をこそこそしてんだリョータ?」
ベッドに腰掛けた男…ガルシアさんが話し始めた。いや~今の状態だと見つからないように行動するのは当たり前なわけなんだが、どうもガルシアさんはそのことを知らないみたい? どういうことだろうか。
「どうもなにも…ガルシアさんは知らないのか?」
「なんだ? 何か追われるようなことでもしたのか??」
あれ…知らないみたいだ。ということはジルベスターさん達は表立って行動しているわけじゃないってことか。
「ちょっと会いたくない人がいるだけだよ。それよりもガルシアさんはお元気そうで」
「…そう見えるか~? こっちはあの後パーティ解散して一人で活動することになったんだぜ? だからろくに仕事もできやしねぇ…まあこの仕事はある意味趣味みたいなもんだからいいんだけどな」
へ~ってまあそれはいいや。それよりも久々に見たって言ってたことの方が話を聞いてみたい。
「ガルシアさんさっきの久々に見たってやつ、あれは何のことだ?」
「ほら手に持っていた紙が消えたやつ。あれな、それにかかわる契約者の半数以上が承認すると内容の変更も解除もできるんだわ。お前騙されていたんじゃないのか?」
「騙され…え? 確かにそんな説明はなかった…かも」
「説明がない時点でだめだな」
なんてこった。都合のいいように扱うつもりだったのか…それで俺が言うことを聞かないから契約書は破棄されたってことかな。
「契約を結ぶなら紙に書かれた内容だけじゃなく、目に見えない効果も確認しないとだめだな。さて、俺はもういくぞ、そろそろ本来の仕事に戻ったほうがよさそうだからな」
「本来の仕事?」
「そう、こう見えて俺は結構な権力持ちなんだぞっ どうだ~ 今のうちにゴマ擦っておかないか?」
「見えないですね」
ガルシアさんはニッと笑い俺の頭を小突いた。何が本当で冗談なんだかよくわからないな。




