267. 帰るのは無理
たけと雪乃の回復をした後、何があったのかを2人に聞いてみた。
「何があったか? いや、普通に魔物と戦っていただけだが」
「そうなのか? だけどギルドに緊急依頼がでてたんだぞ??」
「ずっと2人でいたのか?」
「響子がいなくなってからは2人だったが」
…おかしいな。誰もいなかったというならなんで緊急依頼が出たんだ?
「なあそれよりも回復も出来たし、こうやって人数もいる。地下50階のボスを倒すチャンスだと思うんだが」
いや確かに倒すチャンスなんだが、別に倒す必要もないと思うんだよな。むしろ相手の思惑に乗るのが気に入らない。
「なあたけ、本当にボスを倒して魔王退治の旅に出たいのか?」
「もちろんだ」
「もう一回聞くぞ」
そう言いつつ俺はたけの腕にはまっている腕輪を収納する。
「ボスを倒して旅に出るのか?」
「…あれ? いや、ここまで来たからどうせなら倒してみたいけど…痛い思いはもうこりごりだ。旅はここがどんな世界なのか見てみたいかなーって思ってるよ」
「魔王は?」
「ばっか、そんなもんと戦ってたらいくつ命があってもたりんわ」
やっぱり腕輪の力はいかんな。そして本人もさっきと違うことを言っているのに気がついていない。雪乃の腕輪も外し俺はその2つの腕輪を2人の目の前に突き出す。
「なんか見覚えのある腕輪だな…って俺のじゃないかっ」
「あ、私のもなくなってる!」
「これは従属の腕輪って言ってこれを付けた相手を命令で縛り付けるものだぞっ そのせいでお前たちはここのボスを倒し魔王退治の旅へと出るように行動させられていたんだ。たけは勇者だからって本当に魔王を倒すつもりなのか?」
「いや…さっきも言ったが痛いのは嫌だし、やっぱり怖いしな。もしかして俺魔王倒すようなこと言ってたのか?」
俺と響子が頷くのを見るとたけと雪乃は驚いた顔をした。そうだよな…ただの高校生だったんだ。勇者になったと言われたっていきなり強くなるわけじゃないし、痛いのは俺もいやだわ。
「俺たち操られていたのか…」
「ああだからボスは倒さないよ。相手の言う通りにしたら何があるかわかったもんじゃない」
そう言って俺はテントの外に出て腕輪をレストスペースの地面に置いた。響子の腕輪を外した時と同じようにその場に置いていく。こんなものはいつまでも手元にない方がいい。
「良太の言うことはわかったが…これから俺たちはどうすれば?」
「そうだよ! 元の世界にどうやって帰ればいいの?」
「多分帰るのは無理だよ」
そう俺は初めから帰ることは出来ないと聞かされていたからそんなことは考えたことなかった。
「りょーちゃん御神木様が2人にも話を聞いて欲しいって」
「そうか」
「たけ、雪乃そのことも含めてちょっと話をしようか。まずは2人とも響子と手を繋いでほしい」
「手を?」
首を傾げながらもたけと雪乃は響子と手を繋ぐ。俺も話に参加できるように響子の肩に手を置いた。
「あ…っ」
「誰っ」
たけと雪乃は見えるようになった御神木様を見て驚いた。そしてゆっくりと御神木様が話を始める。それは俺たちがこの世界に来てしまった原因について。