229. 従属の腕輪
のんびりとスコーンを食べる響子を眺めながらお茶を口に運ぶとニヤニヤとヨルさんがこっちを見ていた。
『なんだよ…』
『いや、やっぱり婚約者のことは心配だもんな』
『…うぜぇ』
『くっくっくっ リョータくらいなもんだぜ? 貴族に向かってその態度』
『申し訳ありませんお貴族様』
『おいおい怒ったのか? 俺は褒めてるつもりだったんだがな。貴族だからって平民だからってお互いに必要な存在だし感謝するところもあるだろう? それ以外は立場なんて関係なく話が出来るのはいいことだろう?』
『そう思ってるならルーがダルシア男爵に怒鳴られてた時に止めて欲しかったんだけどね』
『あー…それを言われると痛いな。俺の立場としてはあくまでも貴族の息子だからさ、男爵様に逆らったら後々めんどうなわけよ。だから穏便に済ませるためにリョータを止めたんだ』
響子が食べ終わるまで俺とヨルさんは目の前にいるのに耳に手を当てお互いの顔を見ていた。その様子を響子が見ていたとは知らずに…
「りょーちゃん…雪ちゃんフィールド?」
「なんでだよっ」
言葉の意味は分からないがヨルさんもあまりいい言葉とは思わなかったらしく少し顔をしかめている。
「そんなことより響子なんで一人で来たんだ危ないだろう?」
カップに残っていた最後のお茶を飲みほした響子が俺の顔をじっと見て口を開いた。
「一人で来るしかなかったんだよ…っ 出来たのならちゃんとみんなで来てた!」
ポロポロと涙を流しながら響子は自分の腕についている腕輪を見せるように俺に差し出した。大した装飾もない金属で出来た腕輪だ。これがなんだ?
「鑑定出来たよねりょーちゃん?」
「ああ…」
俺はその腕輪に鑑定をかけた。
従属の腕輪
主従関係を結んだ相手の命令に逆らえない。主人を傷つけることが出来ない。奴隷の位置を知らせる。
「な…っ」
「リョータその腕輪ってもしかして…」
「従属の腕輪だ」
「そうか…ってなんで彼女はその状態でここにいるんだ?」
ここに書いてある内容の通りだとすると命令に逆らえないはずだ。つまりダンジョンの攻略と言われているのならここにきているはずがないのだ。
「私にはこの効果は効かないの。たぶん職業のせいかな? 最初は2人とも普通だったんだけど…だんだんと行動がおかしくなってきて…平和な世界に生きてきた私達が怪我を負っても気にもせずに目の前の魔物に向っていくのはおかしいでしょう?」
「そうだなまずは痛みで動けなくなると思う」
「それでも職業のせいで痛みに耐性があるのかもって思ってた。だけどついに…腕がちぎれてもっ」
その光景を思い浮かべ背中がぞくりとした。血だらけになり腕を失ってなお戦意を喪失しないたけ…少しの怪我ならわからないでもないがそれはありえないだろう?
「命令に忠実ってことか…」
「もう少しでダンジョンの攻略も終わるところだった。でも私は怖くて逃げてきたの。この腕輪を何とかしないとだめだと思って!」
「攻略が終わるって50層あるんだろう?」
あれから1月くらいたつけど…単純に考えて1日3層…だけど下層にいくほど魔物が強くなるだろうし、どんな無茶な狩り方をしたんだっ
「たけちゃんは毎日死にかけてたよ…私は回復してあげることしか出来なくてっ でも私がいなければ無茶も出来ないと思って腕輪を外す方法を探しに来たの!」
俺はじっと腕輪を眺める。なんとなくだけど俺は出来そうな気がした。
「たぶん俺これ外せるけど…今外したらまずいよな?」
「外せるのかっ? リョータはほんと意味がわからないな!」
「これ奴隷の位置を知らせる機能がついてるからここで外しちゃうとヨルさんに迷惑かかるからさ」
「あっ そうなの! ここに長いこといたら迷惑かかっちゃうっ」
「というか逃げ出した時点で追手がもうきているかもしれないな…」
とヨルさん。追ってか…つまり早いことここから立ち去らないといけないわけだ。
「よし、じゃあとりあえず俺と響子はブンナーへいくよ」
「ブンナー?」
「ああ、元から治安が悪い場所だって聞くしそこで腕輪を外して戻ってくる。うまくいけば響子がそこで腕輪を外され売られたように見えるかもしれないしね」
「なるほどな…可能性はあるか」
「まあ最悪腕輪が外れなくても俺の箱庭に匿っておけば見つからないだろうから、消息を絶つのにもいい場所だと思うんだ」
「わかった何かあったらまた連絡してきてくれ」
そう、俺の箱庭は外から自由に入る事ができない場所だ。まあ何にもないのが少し寂しいが、贅沢は言えないだろう。
ヨルさんと別れ俺と響子はフィレーネからブンナーへの移動を決めた。