187. 認識の齟齬が激しい
ラージビットを仕留めたシズクがその後ろ脚を掴んで血を滴らせながら戻って来た。その光景にさらに眉を俺はひそめた。
「なあなあ今日はこいつを食おうぜ!」
「シズクさんっ あまり血をそこらに撒かないでください」
「ん? これくらい問題ないだろう?? ついでに血抜き出来るしさ」
いやそうかもしれないけどさ…ビジュアル的によろしくないと俺は思うんだ。見た目小さい獣人の女の子が嬉しそうにウサギの足を掴んで血を垂らしながら歩いてる。どうよこれ?
「さらに魔物が来たら面倒でしょう?」
そっち? ルー的には気になるのはそっちなんだね。見た目はどうでもいいってことなのか、これが普通なのか俺にはよくわからない。
「それならそれで食いもんが増えるだけだろ」
「そうなんですが、それが私たちを狙ってくるとは限らないのでは?」
「あー…言われてみればそうかも。他のやつのために呼ぶのは違うかもな」
…迷惑が掛かるって話じゃないのか?
「わかったのならしまってください」
「ほいよ」
……なんだろうさっきから認識の齟齬が激しい。もしかしなくてもこっちの常識とあっちの常識は結構違うのか?
「では出発しますね」
「ん、おおよろしく」
何事もなかったように馬車が走り出す。背後では食料が増えて機嫌がいいシズクが。右横には何もなかったと言わんばかりのルーが馭者をしている…深く考えるのはやめておこう。目の前に怒ったことはそれが事実だったということだけわかればいい。うん…
「あ、そうだルー次の町まではどのくらいかかるんだ?」
「そうですね大体4日くらいかと」
ぼちぼちかかるんだな~
「安心しろって食料はしっかり仕留めてやるからさっ」
「……」
そんなことは心配していない。複製と魔力がある限り困らないし。まあシズクには話してないから心配しても仕方ないか。実際さっきの町で食料の買い足しをしていないし。
「リョータさん昼は川の傍にしますので、そこで先ほどのラージビットを解体しましょうか」
「ウォッシュじゃダメなのか?」
「ダメじゃないですけど…その先で少しの間魔力が回復しない場所を通過するので、念のために魔力の温存をしておいて欲しいのです」
「え、ポーションでの回復は問題ない?」
「はい大丈夫です」
それなら問題ないと思うんだが…
「盗賊がよく出る場所ですので確実に戦闘があると思っておいてくださいね」
「え?」
よく出るってわかってるなら捕まえるなりなんなりすればいいんじゃ? なんで野放しなんだよ。
「誰も捕まえないのか?」
「町まで連れて行くのが面倒ですよ? だからと言って全員殺すのも片付けが大変ですし…ですからお互いにどちらかが数人やられたりすると撤退するんです。こちら側が負けたら交渉して命だけは助けていただかないと…まあリョータさんに結界を張ってもらって走り抜けるのが無難だと思いますが」
なんなんだそれはっ
「迂回出来ないのか?」
「出来ますけど…移動だけでさらに4日ほどかかりますが」
「ぐぬ…」
馬車での移動が長いのは嫌だな。結構尻がいたいんだよなこれ。実は気がつかれないように定期的に尻にヒールかけてるし。
「…突破にしようか」
「はいもちろんです」
「ところでなんでそこは魔力が回復しないんだ?」
「たしか…近くにあるダンジョンが周辺の魔力を吸い込んでいるとかなんとか」
「魔力を吸い込む?」
「はい、私はそう聞いていますけど入ったことがないのでなんとも」
「なんだなんだ? 魔吸ダンジョンへ行くのか??」
よくわからないがシズクが嬉しそうに話に入ってきた。
「そこはなーさっきも言ってたみたいだが魔力が回復出来ないから主に力技で挑むダンジョンなんだよ。俺たちの間では力試しをする場所って言われてるぜ! しかも結構いい肉が手に入るから、たまーに俺も行くんだっ」
肉が手に入るダンジョンか…なるほど肉が好きそうだもんな獣人たち。
「そろそろ街道から少し外れますね」
「ああ」
どうやら最初の休憩地に到着のようだ。