173. 追われる
ガタンゴトンと昼食後も馬車が走り出した。ネコルーが結構元気で助かっている。今のところ森や林などの木々に覆われた場所はなくほぼ平地。多少起伏の差はあるが気にならない程度。出発した馬車も間をあけすすんでいるので、そうそう追いつかない…はずだった。
「おいおいおい…なんか裏からやって来てる馬車がすっげ近いんだがっ」
「大体どのくらいの距離なんだ?」
「そうだな…この馬車3,4台分くらいしか空いてないと思うぞ」
「え…っ リョータさんそれはまずいですよ。相手が速度を上げてきたらあっという間に追いつかれる距離です。普通そんな近くまで寄ることはないんですけど…追い越すつもりなんですかね?」
うーん…言われてみれば今まで馬車で追い越しとかされたことないが。今走っている道は反対側を走り抜けるための幅がある。まあ前から向かってくる馬車がすれ違うためのスペースなんだろうが…
「ルー、少しづつ速度を上げて見てくれ」
「わかりました」
ただ単に近づきすぎてしまっただけならこれで距離が開いていくはず…
「シズクどうだ? 距離はどうなった」
「変わらねー! こっちが早くなると詰めてきやがるっ」
一定の距離を保っている? それって俺たちに用があるんじゃないのか??
「俺たちに用があるって可能性は?」
「0じゃないですけど…それだったら普通な距離を開けてついて来て、止まった時に声をかければいいんじゃないですか? 間に別の馬車が入り込む何てこと休憩の後くらいしかないものですし…」
ふむ…何かしら俺たちに用があるのは間違いなさそうだが、ちょっとやり方がおかしいってところか。あまりいい意味での用ではなさそうだな。
「ルー速度まだあげれるか?」
「後少しなら大丈夫だと思いますけど…荷馬車を引いている分の負担がありますから」
「ん-…じゃあこれならどうだ? 浮遊」
「うわっ?」
スキルを使って馬車を地面から少し浮かせた。
「なるほどこれなら重量がほとんどないですね。まだまだ速度はあげれそうです。ただ、前方に今はまだ見えないですけど、馬車がいたら厳しいです」
「そりゃそうか…」
ジャンプで馬車を飛び越せるとは思えないしな。
「だったらぎりぎりまで速度上げて、馬車にぶつかる前に箱庭を前に出すからそのまま突っ込め」
「わ、わかりました。ネコルーちゃんよろしくねっ」
「ルッ」
ネコルーもやる気十分のようだな。まあ元から走り回るのが好きだし当然か。馬車の速度が一気に上がった。
「うわっ」
「落ちないようにどっかにつかまっとけ」
「はぁ? 捕まるってどこに!!」
速度が上がってバランスをとるのが難しくなったシズクが床にへばりついている。文句を言いながらも馬車の出入り口の枠に手をかけた。まあそこくらいしか捕まる場所はないがな。
「リョータさん!」
「ああっ 箱庭っ」
裏から迫る馬車と距離を開け前方に馬車が見えたあたりで箱庭を出した。馬車を通すためにいつもより大き目な扉だ。潜り抜けすぐその扉を閉じる。勢いがついたまま箱庭に入ったので以前仕様していた民家にネコルーが飛び込んでしまった。
「ひぃぃぃぃ!?」
「きゃっ」
「……っ」
もちろん荷馬車が入れるわけがないので扉につっかえて止まった。
「な、な、な…なんでさっきまで街道走ってたのに家に突っ込んでんだよ!! 意味わかんねっ」
まあ知らなければそう思うよな。というか俺も扉の先の正面に民家があるのをすっかり忘れてたんだけど。
「おーい、ネコルー大丈夫か?」
「ル~?」
ちょっと中が薄暗いからよく見えないが声の感じは元気そうだ。とりあえず馬具を外してやるか。で、馬車の中を通り裏側から出て、浮遊で軽くなっている馬車を引っ張って動かすっと…
「ネコルー? あー…流石に扉に突っ込んだからちょっと怪我してるな」
「ルッ!」
「今治してやるからな~ ヒール」
こんな所か。
「あんた回復職だったのか」
「いや…後方支援職かな? 戦えないことはないけど…あまりやりたいとは思えないし、火力も期待しないでくれ」
そういえばこんなこともシズクと話していなかったな。まあいざとなればこうやって逃げ込めばいいから気にしてなかったし。
あ…ジエルが家から出てきた。当事者の俺たちはそれどころじゃなかったからよくわからなかったが、結構大きな音がしたのかもしれない。




