170. 2匹目の獣魔
順調に馬車で街道を進む。途中前方からすれ違う馬車などもあり、こちらの馬車が小さいのでほとんど見向きもされない。ただ一瞬だけ馬車を引いているネコルーに視線が向けられたくらいだ。やっぱりネコが馬車を引くというのは珍しいのかもしれない。今まで見かけたのは馬、ロバ、牛くらいだったからね。
「リョータさんもう少し進んだところで休憩にしましょう。ちょっと開けた場所があるので」
「わかった」
下手なところで馬車を休めると通行の邪魔になるから広めな場所があれば休憩にちょうどよい。ただ何台も止められる場所では無かったりするので、先に止まっている馬車がいる場合は見送るしかない。なのでルーは休める場所があるたびに同じことを言っていた。実はここに来るまで2ヶ所ばかり見送っている。今回は休むことが出来るかどうか…
「あ、休めそうですよ」
どうやら開いていたようだ。
馬車を端によせゆっくりと止まる。この動きも全部ルーが指示出しているんだと思うとちょっと尊敬する。ネコルーは結構やんちゃだからね~
「あーーーー休憩だ! やっと尻が休めるっ」
騒がしいシズクは放置しておこう。真っ先に馬車の外へ飛び出し尻をなでている。そのたびにちょろちょろと視界をうろつくしっぽが若干気になるが。
「ルーちょっとジエルの様子見てくるわ」
「お願いします」
ネコルー用に水を用意しそれをルーに渡してから箱庭の中へ。なかの様子は平和そのものだ。まあジエル一人いるだけで見てわかるレベルで変化があるほうが怖い。さて、ジエルはどこにいるのかな…おっと。山に入っているのか…新しく増えた場所だから興味を持ったか? それとも小動物を見かけて追いかけていったか…多分後者だろうな。
軽くため息を吐きだし俺は走って山を登るのだった。足を踏み入れるのは俺も初めてなので本当ならじっくりと見たいところだが、今回はジエルを回収するのが優先だ。
「ん-と…こっちか」
道を外れて木々の間を進んでいるみたいだ。あちらこちら草が倒れている。なんでこんなところを歩いているんだろう…やっぱり何かを追いかけて?
「ジエル?」
ジエルの姿をとらえた。地べたに座り込み体をゆらゆらを揺らしている。
「あ…っ」
そんなジエルの声とともに何かか飛び出してきた。勢いよくそれは俺の顔に張り付く。その瞬間少しだけひんやりとしてすぐに温かいことを認識する。
「なんだ~?」
顔に張り付いたものを引きはがし姿を見ると、俺は驚いて大きな声をあげそうになった。
「ジエル…これどうしたの?」
「家にいた」
「…いったん家にもどるぞ」
「バナナジュース」
「わかった」
山を下りて家に入るとすぐに俺の部屋へと向かった。扉が開けっぱなしだ…ちらりとジエルを見ると首を傾げた。
「部屋で音がしたから」
なるほど…物音がしたから部屋を開けたと。まあ特に何も置いていないからいいんだが、普通は人の部屋を勝手に開けたりはしない。そして問題の部屋の中は椅子が倒れているな。散らかるものもないから当たり前なんだが。あとはテーブルの上に置かれていたたまごの殻の残骸…やっぱりそうか。
「地竜…」
とうとうたまごから孵ってしまった。まだテイムできていないのに。俺の手に掴まれている地竜は気のせいかブルブルと震えている。
「ジエル」
「何?」
「お前追い回しただろう」
「…ついて歩いただけ」
それを一般的に追い回したというんじゃないのかな…まあ終わったことはどうしようもないか。
「うーん…だめもとでやってみるか。契約」
地竜の足元と俺の足元に光の輪っかが現れる。ネコルーと契約した時と同じだ。…っと名前を付けないとな。名前…名前…
「リュー」
無反応。安直すぎた。
「ドラゴ」
…だめですか。
茶色いからだでまだ小さい竜…うーん。名前つけるのって難しい。そもそも性別とかあるのか?
「…アス」
「きゅ~」
お…足元の光が収束して弾けて消えた。つまり成功したってことだ。俺の左腕に2本目の腕輪が装着されている。それを見届けたジエルは俺に向かって手を差し出した。
「バナナジュース」
まあいいけど…