世界
世界を渡り歩く男がいた。
その見た目は変幻自在、声もにおいも。
彼が渡る世界は、同じ世界の異なる姿。
それは過去であり、未来である。
私はある時、その男に接触し、幸運にも話を聞く機会を得た。
「あなたは、本当にほかの世界から?」
「確かにそうだ。しかし、本来的にそれらは同じもの」
「あなたは何の目的があって世界を旅するのです?」
「この世界が好きだから。この世界が壊れた時、この世界に似た世界を渡っているだけのこと」
「今のあなたは何者ですか?」
「何者でもない」
この答えに困った私は、どんな体験をしてきたか聞くことにした。
「ある時は画家だった。この世界を描いて、未来に挑んだ。が、未来の人間が出した答えは、みじめな、むごたらしいものであった」
「……」
「ある時は強欲な男だった。終わりへ向かう世界で、一人の男を試した。彼は賢かったが、それだけだった」
「……」
「ある時はこの姿で現れたこともある。精神異常者と話してみたが、何も得られなかった」
この世界の崩壊は決定的である。だから、この世界が壊れたら別の世界へ。
しかし、本当はこの世界にとどまっていたい。だから、人々と接触する。
「あなたは崩壊を止められないのですか?」
彼は一呼吸おいて言った。
「ある時は、女を殺した。崩壊する世界から救ったつもりであった。が、女は死んだ。崩壊すべきものは崩壊する。不可避なのだ」
「なぜあなたは世界を移動できるのですか?」
「そんなことは知らない。なぜおまえはそこに生きているのか、なぜ今すぐに死なないのか、そんな問いに答えられるやつはいない。それと同じ」
そう言うと彼は目の前から消え去った。
この世界も、きっと終わる。この暑さのせいに違いない。
人類のほとんどは富裕層のために塵と消えていく。
やがてだれも住めなくなる。太陽も何年か後にはおかしくなる。
もう計算によって結果が出ている。
男が言ったように、不可避なのか。
世界を移動する力をもってしても止められない未来。
私が変えることなどできまい。
なら、この先、生きて何があるというのか。
何もない世界が訪れて、静かに終わりを迎える。
私はもう必要ないのだ。
大量の睡眠薬。夢の世界は果たしてどんな世界か。死後の世界は。
女はまたしても冷たくなった。




