第一章 4.天啓
「それは細い細い天啓だった。髪の毛よりも細く、絹糸よりももっと細い、顔に触れても気づかぬほどに些細な天啓だった。
寝ていたなら気づかなかっただろう。歩いていても気に止めなかっただろう。だが独りで深夜に瞑想していた我の〈天〉のチャクラに確かに降りてきて、魂の琴線に触れて鳴ったのだ。弟子をとれと」
そう言って剥き出しの頭部をぺろりと右手で撫でた。髭もじゃの神官は禿げ頭だった。
「ワシが育てねばならないのはどんな弟子だろうか、男なのか女なのか、今年の七歳児の中にいるのだろうか、と考えて一月前から門前で、神殿参りの子供を来る日も来る日も眺めておったのじゃ。
そなたに間違いない。特別なものを感じる。ブッダの恩恵を受けた子に違いない」
えーっ、いきなり弟子とか怖いんですけど。頭以外はもじゃもじゃな熊みたいな人だし。僕はそっと父さんの陰に隠れようと後ずさった。
「ブッダに感謝を!」
父さんが吠えた! しまったブッダ大好き家族だった。母さんも隣で感激の涙を拭いている。
「「「アワワワー、ブッダは偉大なりー! ブッダの慈悲は無限なりーー!」」」
熊みたいな神官様が連れた従者たちも、手に持った鐘や太鼓を叩きながら突如アンサンブルを始めた。いやチンドン屋か?
もうやめて! 門内にいた神殿参りの親子連れたち全員に注目されているんですけど!
子供なんか訳もわからずに、鐘や太鼓の音に合わせて踊り出しちゃってるよ!
僕は必死に頼みこみ、取りあえず全員で神殿の応接間へと場を移すことになった。普通はうちのような庶民は入れない格式の高そうな部屋で、お貴族様の接待用の部屋かもしれない。
父さん母さんも落ち着いて頭が冷えてきたら部屋の豪華さに圧倒されたのか、心なしか小さくなっているように見えた。
応接室で大人たちが話し合い、僕は年明けから天気の良い日は毎日神殿に通うことになった。 十歳になったら神殿に住み込みになって本格的に修行を始めるが、それまでは通いの神官見習いとして、読み書きや基本的な祈り文句などを教わるらしい。
父さん母さんが持参したお供え物は、倍の量になってお土産として戻ってきた。持ちきれない分は家まで届けてくれるという。
「ああ、そうじゃ、そなたのギフトを確かめておこう」
そう言うと髭の神官様は数珠を取り出してナムナムナムナムと唱え始めた。しばらく続けた後に僕の顔をじっと見つめた後ぽつりと呟いた
「ふーむ、〈再生〉のギフトであるな」