第三章 21.ダルタ奮迅(後編)
どっしりとした鎧を着けた重騎兵を乗せた馬の全速力なんて、決して長くは続かない。だが、この魔導鎧はプラーナがある限り馬以上の速さで何時迄でも走り続けられるんだ!
聖音の恩寵によりて大兄ナージャよ我の側にて共にあれかし
一瞬、地を駆ける魔導鎧の足元が金色の光に包まれ、大地の底から金色の蛇が伸び上がってくる。そのまま魔導鎧の足から腰、そし て胸へと絡み付き、分厚い胸部装甲を抵抗もなく通り抜けて僕の体に巻き付き、左肩に角の生えてる三角形の頭を乗せた。
オナカ ヘッタノ?
「ああ、頼むナージャ。たくさんプラーナが必要なんだ」
金色の蛇が一際眩しく輝き、僕の体内に、はち切れそうな程の大量のプラーナが満ちる。急激に高まったプラーナ圧に反応して全身のチャクラがフル回転を初め、〈炉〉のチャクラがオドを量産し始めた。
ぐんぐんと増えるオドを、魔導鎧のオドイーターが貪欲に吸収し始めて、僕の体を覆うスライムの肉が、より一層赤みを帯びドクンドクンと脈動を打つ。
後方の騎馬兵団の速度が落ち始めたと見るやいなや、足を止め振り返って敵を誘う。
『さあ来い! ここで決着をつけてやる!』
もちろん嘘だ。此方がもう走れないと見た騎馬兵たちが、ここぞと鞭を入れ馬を叱咤し、槍を構えて駆け寄せてくる。
横並びになった十騎程の騎馬兵たちが、突進する馬体の衝力を生かして槍を突き込んでくる。これを全部魔導鎧の装甲で受けたらどうなるだろうか、と試してみたい欲求を押さえ込んで、大きく魔導鎧を跳び跳ねさせて街道から遠く逸れた。
突如目標を失った先陣の騎馬兵同士が馬体をぶつけ合い、衝突し、潰し合って、崩れ落ちる。必勝を疑わず突っ込んで来た第二陣、三陣の騎馬部隊も突然生じた障害物に次々に団子になって転がった。馬の脚は折れ、騎兵の鎧はひしゃげ、立ち上がれる者はいない。
急遽馬首を巡らし両脇をすり抜けて行った部隊だけが無事に通り過ぎて行った。
更にその後方の部隊は怯んだのか馬の脚を止めている。
まだだ、もっと多くの敵を引き付けないと。
そのまま大きく跳んだ衝撃で機体に不調が出た振りをして、その場に低く蹲った。
「今だ、奴はもう動けないぞ、魔導鎧を討ち取る名誉を得るのだ!」
「おおーっ!」
「やってしまえー!」
「一番槍をつけるのは俺だ!」
地面が比較的平らに打ち固められた街道を外れて、凸凹の土が剥き出し、所々に岩が転がる荒れ野に騎馬兵の群れが踏み行って来た。
そのまま蹲ったまま大剣を水平に振り抜き、先頭の騎馬兵を馬ごと両断する。血煙を噴いて飛び散った騎馬兵の影から次の騎馬が現れ槍を突き立ててくる。右手の大剣で受け止めて左手で殴り飛ばす。後方から現れた二体の騎馬兵の槍を転がって交わし、魔導鎧の足を後ろに伸ばして蹴り飛ばす。
背に大剣を納めると、更に弱って立てない振りをして、そのまま四つん這いで逃げ出した。
四本足で駆けるのも久しぶりだな。人の体だと四つん這いで走るのは難しいけれど、魔導鎧の可動部は特殊な変形する金属で出来てるせいか、とてもスムーズに動かせる。追い縋る騎馬兵を蹴散らして、そのまま思い切り荒れ野を走り回り、気分が乗ってきて思わず吼えてしまった。
『ウオオオオォォーーン!』
「な、なんだあれは!?」
「見ろ耳が尖っているぞ、まるで魔獣ではないか!」
「そもそも魔導鎧がこれ程に動き回れるものなのか? もう五、六公里は走り回っているぞ!」
「魔導鎧は決戦兵器だぞ! ちょこっと出てきて大暴れしたら直ぐに引っ込んでしまう筈なのだが……」
脅かし過ぎたかな?
百騎ほどの騎馬兵を荒れ野に引き込んだものの、四本足で獣のように走る魔導鎧に怯えたか、予想以上の悪路に馬が音を上げたのか、皆、馬の足が止まってしまっていた。まだ街道上には二百騎ほどが、荒野に踏み入るべきか思い倦ねたように様子見をしている。
もう、五十騎くらいは潰したはず。何人が死んでるだろうか? いや、何人殺したのか?
でもまだ大門には百騎以上が残ってるはずだ。もっとこいつらを足留めしなくっちゃ。
怯えて戦意を失ったか、荒れ地の凸凹に馬の脚を取られたのか、動きの鈍った連中は置いといて、街道上に月に照らされ、蛇のように細長く連なる騎馬兵団の横っ腹目掛けて、僕は四本足の魔獣のように襲い掛かって行った
いつもお読みいただきありがとうございますm(_ _)m
テンポが悪い、物語が動かない、と一部で評判の本作の第一章と第二章を、全体の1割くらい加筆し改題してカクヨムにて投稿中です。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054921302398
お優しい紳士淑女の皆様、「どうせまた前と変わらず世界観の説明ばかりなんだろ、仕方ないから騙されてやるよ」と寛大な気持ちでぜひ御一読をお願いします。
次回は金曜日の夜に投稿します。