表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/69

第三章 29.ダルタ奮迅(前編)

 もう日没の風の二刻が過ぎている。漆黒の闇が染み付いたような樫の古木の影の間を擦り抜けて、深い森からようやく荒野に出て来れた。

 最も、闇の中にいると理解しているのに、その一方で魔導鎧カヴァーチャの〈眼〉のおかげでか周囲の様子は手に取るように見えていて、一遍たりとも躓くことすら無かったのだけど。森から出た足でそのまま大きく東回りに街道に向かう。


 森の外は結構明るいんだな。

 今夜は満月の一日前だ。森の中の闇に慣れた目には月に照らされた荒野が昼間のように明るく見えた。


「街道に出たよ、ルマン様に送って」


(わかったわ、今、伝えるね)

 と、少女の声で返事がある。頭上にあるオドイーターの核に座り込んでる、猫くらいの大きさの金魚からだ。


 目には見えないけれど連絡のためにルマン様の犬のトゥルパが僕の近くにいる筈なんだ。僕は他人のトゥルパとは話が出来ないけれど、僕のトゥルパの金魚が仲立ちをしてくれている。


 僕が頼んだ事を金魚が犬に伝える。犬が見聞きしたことが、ちゃんとルマン様に伝わり、またルマン様からの返事が犬に伝わって来て、それを金魚が僕に教えてくれる。

 ルマン様はトゥルパの扱いに慣れているから、たとえ百公里(キロ)離れていたってちゃんとトゥルパの見たもの聞いたものを捉えることが出来るんだ。僕にはまだ無理なんじゃないかな? そんなに遠い距離でトゥルパを使ったことは無いけどね。


(あっちも大丈夫だって。始めてくれ、って)


「解った。これから吶喊します!」


 それにしても、なんか急に金魚が喋るの上手になってきたな? 気がついたら頭部に髪の毛のような物もぽわぽわ生えてきてるし、そのうち人面魚とかになるのかも。声もなんか聞き覚えのある声のような感じがするしね。


 おっと、こうしてはいられない。吶喊、吶喊!


「うおおおぉーっ!」

 大声を上げて走り出す。魔導鎧の四肢を大きく動かし、ドシンドシンと思い切り地面を踏みつけ、出来るだけ派手に、出来るだけ騒がしく!


「うおおおおぉーっ!」

 この明るい月明かりの下だ。門の両側にある側防塔からはそろそろ僕の魔導鎧カヴァーチャが見えているはずだ。


 篝火の焚かれた城壁の上や門の両側の塔の窓には、チラチラと人が動いていて、その表情まで見てとれる。魔導鎧カヴァーチャの〈眼〉の働きか? それとも無意識に身体強化を使って視覚も強化してしまったのだろうか?

 連中は慌てているようだ。こんなに早く町の外から援軍が来るとは思わなかったろう。一番近くて纏まった兵力をもつ辺境伯様の領都まで馬で一日掛かるのだ。なのにマチュラ王国では王都にしか無いと言われている、魔導鎧カヴァーチャが大きな地響きを立てて走って突撃して来たのだから。


 大門から四、五公路(パス)ほど離れた場所で足を停め、背に背負った大剣を抜き放つ。そのまま剣を振り回し、大声で叫んだ。


「うおおおおぉー! 出て来い、バールークの卑怯者どもめ!」


 城壁の上では何か腕を振り回して騒いでるようだが、まだ門扉はピクリともしない。


「ぼっ、――こ、このオレ様がぁ、恐ろしくて出て来れないのならぁ、体当たりで城門ごと吹き飛ばしてくれるぞ!」


 大門が開いた!


 大扉が左右に開き、大槍を構えた騎馬兵の群れが続々と押し寄せて来る。

 重鎧の騎兵を乗せた重い馬蹄の乱打が、白い月光に照らされた門前広場の石畳を打ち鳴らし、そして土の街道を砂埃を掻き立てて迫ってきた。


 ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、ハァー――――。

 呼吸の一回一回毎に、暴力の群れがだんだんと近づき眼前に迫って来る。


 もう、覚悟は決めたんだ。町を、皆を滅茶苦茶にしたあいつらを絶対に許さない!


 騎馬兵が指呼の間に近づいたと見るや、魔導鎧カヴァーチャを一歩踏み込ませ、両手で握った大剣の平を向けて大きく右から左に振り抜いた。


 ガツン ガツン ガツン ガツン ガツン


 先陣を切っていた五騎の騎馬兵が、巨大な鉄の固まりに槍を折られ、鎧を打ち砕かれて吹き飛んだ。


 ガキン ゴキン ゴキン ゴキン ゴキン


 すかさず、返す剣でまた左から右へと振り回して、二番手の騎馬兵たちも粉砕し吹き飛ばした。


 三番手以降の騎馬兵は左右に別れて魔導鎧カヴァーチャの両側を後ろへと流れて行く。そのまま円陣を組み包囲しようとするが、僕も振り向くと剣を振り回しながら街道を東へと走った。


 片手で剣を振り回し、空いた左腕で殴りつけて、騎馬兵の包囲を寸前で抜け出し、そのまま走る。

 後方から馬蹄の音が魔導鎧カヴァーチャを追いかけて来る。もちろん視界にも後方いっぱいに広がった騎馬兵団が見える。


いつもお読みいただきありがとうございますm(_ _)m


TUEEEEが無い、ザマァも無いと、一部で評判の本作の第一章と第二章に幾つかエピソードを付け足して加筆したものを、タイトルも変更してカクヨムにて投稿中です。

お時間に余裕のある紳士淑女の皆様、宜しかったらそちらもお読みになられて、なろう版との違いを読み比べてみるのもご一興かと。


………と言うか誰も読んでくれないの、お願い読んで(T_T)

[転輪王の卵は輪廻を翔る――お供に金魚も]

https://kakuyomu.jp/works/1177354054921302398


後編はこのあと木曜日の零時に投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ