第三章 20.反撃開始(後編)
「そこで妾が考えたのじゃが、まず妾とダルタで敵に気づかれないようこっそりと、五機のカヴァーチャのうち四機を順繰りに動かして、中央大広場付近の路地裏に隠しておくのじゃ。そして、東西の往来が絶える頃を見計らって広場の出入り口をラハンたちに封鎖して貰い、その間に四機のカヴァーチャを広場に展開するのじゃ」
「しかし、それでは結局、東西からの挟撃を受けることになるまいかのォ? 戦える魔導鎧は二体だけじゃが」
「いや、時を同じくしてカヴァーチャを一体、北の森を抜けて東門の前に進撃させるのじゃ。きっと奴らめは、王都からの援軍がもう来たかと慌てるのじゃ。それに、マチュラ軍の後続の気配がなく、たかが一機のカヴァーチャが先駆けして来ただけなら囲んで倒してしまえと、門の外に押し出して来ると思うのじゃが、どうであろう?」
「なるほど。東大門に詰める騎馬兵の大部分が門外に出たところを、隠れていた残りの衛士たちで急襲して大門を奪還し、大扉を閉ざして連中を締め出してしまえと言うことですな。門外に出ずに馬から降りて待機している重鎧兵など、動きの鈍い亀のようなものですから、軽装の衛士たちでも相手に出来るでしょう」
ルマン様が大きく頷いた。
「大広場の出口で待ち構えれば、西大門から来る騎馬兵どもも大きく展開する事は出来ぬのじゃ。〈大通り〉の幅は大型の馬車がすれ違える程度じゃし、広場にはまだ三機のカヴァーチャが控えているのを見れば、西大門から来る騎馬兵どももきっと肝が冷えるのじゃ」
「後ろの魔導鎧は立ちんぼの案山子だとバレはせぬじゃろォか?」
「ラハンたちはプラーナのオド変換が出来るのであろ? それに、ありったけの魔結晶を腹に巻いて乗り込ませておけば、歩くことは出来なくても、立ち上がって目を光らせたり、腕を動かしたりする程度は出来るはずなのじゃ」
サーラ先生が皆を見廻して続けた。
「あとは妾とダルタのどっちがどっちを受け持つかなのじゃ。どちらもそれぞれに難しいと思うのじゃ。
大広場を担当する方は、カヴァーチャを乗り継いで素早く大広場に展開させ、敵の騎馬兵を大広場に入れぬよう、出来れば敵の騎馬兵を大門の外まで押し返すよう働かねばならぬ。百騎かそこらを打ちのめしてやれば、バールークの騎兵どもも敵わぬと見て門外に退くやもしれんのじゃ。退かぬ場合は王都からマチュラ軍の救援が来るまで、ずっと敵を押し留めておかねばならないかもしれんがの」
サーラ先生が僕を見つめる。
「東門の担当は北の森から東の街道に出て東門の前まで進撃し、敵兵を誘って門外に大勢を連れ出し、時間を稼がねばならぬのじゃ。
ダルタはこちらの方が良いかもなのじゃ。相手を無理に殺さずとも良い。カヴァーチャの剛力で敵兵を薙ぎ倒しては少し遠くに離れ、誘き出しては薙ぎ倒して、また逃げる役目なのじゃ。ある程度の時間を稼いで、東大門の奪回が成功すれば、あとは逃げてしまって構わぬのじゃ」
「でも、それじゃ、サーラ先生に、敵をたくさん殺させる事になってしまいます。そんなのは……」
「なあに、妾の方がダルタよりカヴァーチャの操縦は上手い故、殺さずに手傷を負わせるよう手加減も出来るのじゃ。それにカヴァーチャの装甲とオドイーターの肉は魔力の伝導に優れておるから、カヴァーチャを纏ったまま魔法攻撃も出来るのじゃ。奴らを雷撃で痺れさせてやるのじゃ」と言ってニマッと笑った。
「よし、ではその方針で事を進めましょう。それに付け足しですが、カーシナラの冒険者ギルドに緊急依頼を出しましょう。国家間の争いには、通常なら冒険者は関わろうとしないでしょうが、このカーシナラがバールークのものになってしまえば、冒険者も獲物の多い黒森や影森に近い拠点を失ってしまう。
バールークは閉鎖的な国で、外部からの冒険者を易々と受け入れるとは思えません。稼げる拠点を失うのを嫌う冒険者を、ある程度は集められると思います」
ルマン様が皆を見回しながら話し続けた。
「たとえダルタの働きで東大門のバールーク兵を誘き出して大門を奪回しても、外に締め出された連中が城壁の外を回り込んで、また南大門から入って来るかもしれん。サーラさんの奮闘でバールーク兵どもを西大門から追い出すことが出来ても、同様に南大門に回り込んで来るかもしれない。だから冒険者たちには南大門の奪回に向かって貰います」
「よし、では今から皆に準備に取り掛かって貰い、作戦決行は今夜になるかのォ。よろしくお願いしますぞ」
と、神殿長様が深々と薄い白髪頭を下げた。
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次回は水曜日の夜に投稿します。