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第三章 20.反撃開始(前編)

 次元庫の奥の壁の前で、壁の大曼荼羅図に魔結晶を押し当てて神殿長が耳慣れない不思議な祭詞マントラを唱えると、先程と同様に曼荼羅図が光を発し、次元庫の奥の壁に大きな穴が開いた。


 外に出てみると、そこは丘を囲む古い石壁のすぐ前で、丘の北面には大きな一枚岩が露出しており、魔導鎧カヴァーチャが余裕で出入り出来る大きな入口が開いていた。

 左右を見渡せば丘を囲む一公尋(ターカシ)程の高さの石壁に合わせて、カーシナラの高い城壁は途切れている。周囲は鬱蒼とした樫の古木に囲まれて、外からの視線は全く通らぬ、部外者が訪れることのない禁域の森だった。


「ほお、神殿を囲む古代の石壁の丘の部分だけがカーシナラの城壁の外に出ているのを、前から不思議に思っておりましたが、こうして次元庫の裏口から魔導鎧カヴァーチャを出入りさせるためでしたか、神殿長?」


「この石壁の高さなら魔導鎧カヴァーチャで跨いで超えられるが、周りの木の古さを見ると、何百年とこちらから出入りはしておらんかったようじゃのォ」

 神殿長とダーバ様が周りの森を見廻して話をしている。


 このあと僕は鐘一つ分の間ずっと、魔導鎧カヴァーチャの操縦の修練のために、この丘の周囲の森の中を木々にぶつからないよう避けながら、サーラ先生と魔導鎧カヴァーチャに乗って走り回ることになったのだった。




 昨夜遅くに侵攻して来たバールークの騎馬兵団は、当初こそ西大門周辺の制圧を主目的にしていたが、西大門から東大門に通じる〈大通り〉を略奪を兼ねた威力偵察のために散発的に騎馬小隊を走らせること十数度、ついに翌日の昼には部隊の半数を〈大通り〉を通って東大門へと移動させ、そこも制圧下に置いた。


 マチュラ王国軍によるカーシナラ奪回作戦に備えた東大門防衛と、バールークの後続部隊受け入れのための西大門確保を優先し、南門には十騎程の見張りを置いただけで、時折り、三つの大門の間に連絡の小隊を走らせているのを、町びとに変装させた衛士を使って確認している。


 襲撃の夜こそ、中央広場に集っていた避難民に対する殺戮劇が繰り広げられたが、その後は占領後の統治を考慮したのか、兵による民間人への暴虐は控えられていた。


 南大門に対する羅刹蜘蛛ラクシャルタ襲撃に慄き、家や家財道具を捨てて早々に北部への避難を始めた、町の南部に居住する下層の庶民たちとは違い、〈大通り〉周辺及び、それより北側の富裕層の住民は、侵攻直後に接収された西大門付近の数十軒の建物を除いて特に被害はなく、扉を固く閉ざして家の奥で息を殺して潜んでいる者が多い。


 バールーク軍の騎馬兵も、東西の大門を繋ぐ〈大通り〉と中央大広場よりも南側の〈参道〉にのみ姿を現し、路地の奥まで滅多に入っては来なかったため、町びとの一部は路地の奥でこっそりと行き来をし、バールーク兵の挙動を伺っていた。


「バールーク兵に東西の大門を押さえられることは予想の内じゃったが、やはり一箇所に留めておけなかったのは痛いのォ」

 神殿長が長い眉毛の下から地図を睨んで零した。この作戦会議には、神殿長とサーラ先生と僕の他にルマン様が参加している。


「一方を相手にすれば反対側から挟撃されてしまいますからな。かと言って、唯でさえ少ないこちらの手勢を分けてしまっても……」とルマン様が頷く。


 カーシナラの町には約二百名の衛士がいた。各大門に六十名前後が配備され、三交代で警備に当たっていたが、羅刹蜘蛛ラクシャルタによる奇襲により、当初より南大門に詰めていた夜番ニ十名と、警鐘を聞いて順次駆けつけた公休中の四十名、その後に応援で東西の大門から送り込まれたうちの三十名程と、神殿から派遣されていたラハンの三名が犠牲になっていた。


 西大門を奪われた際にも少なくない人数が犠牲になり、もはや残るは百名足らずになってしまったのだ。


いつもお読みいただきありがとうございますm(_ _)m


後編はこのあと月曜日の零時に投稿します。

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