第三章19.カヴァーチャ (後編)
「まずは乗り込んでハッチを閉めてみるのじゃ!」
言われるままに内部の空洞に身体を滑り込ませると、周囲の薄桃色の半透明の肉が膨らみ身体にピッタリと貼り付いてくる。
うわあ! なんか感触が柔らかくて温かくてむずむずするよ! でも宙に浮いてるようなフワフワした乗り心地でちょっと気持ちいいかも。
顔にもピッタリ貼り付いて来るが、鼻と口のところだけちょっと空間があって、新鮮な空気が送り込まれてくるので、息苦しくはない。
「先生! 中に乗り込みましたよ!」
外では僕の声がスピーカーを通したみたいに加工されて聞こえてるのかな?
『よし、それではハッチを閉じて立て、と命じてみよ』
わあ、オドイーターの肉で耳が塞がれているのに、外にいるサーラ先生の声もちゃんと聞こえるよ。凄いなあ!
カパン! と軽い音を立てて胸部装甲のハッチが閉まる。外部からの光が遮断されて、魔導鎧の内部は漆黒の闇に包まれた。
えっ? えっ? 真っ暗で何にも見えないよ! 外はどうやって見るの?
と、思考した途端に周囲が明るくなった。慌ててオドイーターの肉の下で首を左右に動かし、目をパチパチしてみるが、瞼を閉じても視界は全く消えもせず、ぶれることもない。否、眼球以外から視覚情報の入力がされて、脳内に周囲の場景が構成されているみたいだ。
五識の一つの眼識を、魔導鎧を纏ったオドイーターの〈眼〉が代行して、僕の第六識にて像が結ばれているのだと自然に理解できた。オドイーターの〈眼〉は魔導鎧の顔の部分以外に後方にもあるようで、周囲の景色が後ろまでぐるりと一遍に見えるが、僕の第六識は当然のようにそれを受け入れ視界を形成していた。
うわあ、これは便利だけど、慣れないうちは戸惑いそうだな。
『どうじゃ、ダルタ、思ったよりも簡単じゃろ?』
足元でサーラ先生が手を振っている。僕も魔導鎧の手を振り返してみた。
「はい、ちょっとびっくりしましたけど、なんとかなりそうです」
『カヴァーチャの強化外骨格の一部には、魔力に反応して変形する特殊な金属が使われておってな、可動部位の強度を落とすことなく、四肢を自在に動かせるようになっておるのじゃ。
それにな、長く乗って慣れる程に、オドイーターの核との思念の連結に誤差が無くなり、カヴァーチャの操縦は上手くなってくるものなのじゃ。じゃから一度乗機を決めたら、あれこれ変更せずに、同じ機体に乗り続けた方が良いのじゃ』
「はい、僕、この魔導鎧が気に入ったのでそうします」
そう答えてから、ふと、視線を上に向けると、頭上の薄桃色の半透明のオドイーターの肉の中を猫くらいの大きさの黄色い金魚が泳いでいて、オドイーターの紅い核を口先で突付いていた。
お前はこんなとこにも着いて来れるんだね。
「さて、ダルタよ。魔導鎧の操作の修練はまた後で続けてもらうが、取り敢えず今後の方針というかのォ、やるべき事を話し合っておこうかの」
僕は一旦、魔導鎧から降りて来て次元庫の中で、また神殿長様やダーバ様、サーラ先生と顔を合わせていた。
「辺境伯の救援が来るのは早くて三日後と言ったが、バールーク国の後続部隊が先に来てカーシナラ内部に籠もられてしまっては、もはや打つ手はなくなってしまうのじャ。ここは門さえ守り抜けば鉄壁の城郭都市じゃからのォ」
神殿長様が低い声で説明を続けた。
「敵の増援部隊が来る前に西大門をなんとかして取り返しておきたいのじャ」
「しかし、神殿長、それは言うのは簡単ですが、サーラ殿やダルタの負担が大きすぎますぞ」
「それについては妾に少し考えがあるのじゃ。もちろん衛士やラハンたちにも協力してもらわねばならぬのじゃがな」
「あ、あの、この魔導鎧はどうやって次元庫から外に出すのですか? 入口からはこんなに大きな物は出せませんよね?」
「ああ、それはの、あっちからじゃ。奥の壁にも大きな曼荼羅模様が描いてあるじゃろ?」
「こういう次元庫には、大型の荷物を搬出するための大きな入口が付いてるものなのじゃ」
あっちって、丘の裏手に出られるのかな?
魔導鎧の構造は中心部に魔力に反応して可動部を変形させる特殊な金属で作られた人型の強化外骨格[モノコック構造]があり、その内部には搭乗者の意識とリンクして機体を動かすオドイーターが詰め込まれている。
軍用のカヴァーチャの強化外骨格には倍力機構や補助モーターが組み込まれているが、民生品からはオミットされておりオドイーターの筋力=魔導鎧の出力です。
強化外骨格の外側には神将像の鎧を模したデザインの装甲が貼り付けられてます。
あらゆる衝撃を吸収し身体に無理をかけないスライム肉で包まれたリクライニングシートに、快適な温度湿度酸素供給機能と視界明瞭な360度ビューを誇り最上級サルーンカーに劣らぬ乗り心地です(テキトー)
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次回は日曜日の夜に投稿します。