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第三章 19.カヴァーチャ (前編)

作品ジャンルをハイファンタジーからSF[宇宙]に変更しました。

Sukoshi Fushigi ブッダ宇宙ファンタジーです。

 魔導鎧に乗り込んだサーラ先生の声が高いところから聞こえてくる。


『このカヴァーチャが四、五体もあれば、騎馬兵の千騎くらい軽く追い払うことが出来るが、妾とダルタの二人ではとても手が足らん。本気で奴等を殺しに掛からねばならんのじゃ。三割も殺せば撤退を考えるじゃろうが、そなた、妾とダルタに三百もの敵兵を殺させるつもりなのかや?

 妾はまだ良い。ダルタよりもずっと年上で、それなりに経験も積んでおるからの。じゃがまだ成人も迎えていない子供のダルタに敵兵とは言え、何百人もの人間を殺させて大丈夫なのかや? 死穢に塗れて大人でも病むぞ?』


「サーラ殿の仰られる通りなのじャ。殺生戒を人に説き、己も戒律を守らねばならぬはずのブッダの弟子であるワシが、ダルタのような子供に人を殺せと命ずるのは、地獄道に墜ちるも確実な恐ろしいことであり、また恥ずべきことでもあるのじャ」


 神殿長様が下を向き、申し訳無さそうに顔を歪めた。


「ですが、ワシはこのカーシナラの町の町政を与る責任者でもあるのじャ。町びとを殺めたバールークの兵を許すことは出来ぬし、これ以上被害が出るのを黙って見ておる訳にもいかぬのじゃよ」


 神殿長様が強い眼差しで、サーラ様の乗っているカヴァーチャの顔を見て、それから僕の目を見つめて、深く頭を下げた。


「今朝方、王都と辺境伯の領都にラハンのトゥルパを使って救援の申請を送ったところなのじャ。カーシナラに近い辺境伯の領都より救援が来るのが、おそらく早くて三日後ですのじャ。それまで、これ以上の被害が出ぬよう、敵兵を押し留めては貰えぬじゃろうか。伏してお頼み申す」

 そう言って、神殿長様が床に膝を突いて一層低く頭を下げた。ダーバ様もその後ろで跪いている。


「やめて下さい。神殿長様! 僕は町を守るために戦うつもりでした。昨夜ももう何人も剣で殺してしまったんです。父さんを、母さんを、アマリを守るために僕は戦います。誰かを守るために戦うのは悪業にならないって教わりましたし。

 ……サーラ先生、お願いします。僕に魔導鎧カヴァーチャの乗り方を教えてください!」


「……覚悟は出来ておるのかや、ダルタ? ……ふむ、本当に仕方のない奴なのじゃ。では妾も手伝ってあげるとするのじゃ。ダルタ、お前が命を預けるカヴァーチャを選んで来るが良い」


「はい!」

 覚悟はとっくに出来ているさ。僕は二度と父さん母さん、アマリを失う訳にはいかないんだ!


 部屋のように大きなアルコーブは全部であと五か所あり、その一つ一つを覗いて回った。

 赤いのは無いかな? 赤いのは早くて強いはずなんだ。金色でもいいな。あれも凄く強そうだった。

 アニメのヒーローを思い出しながら順繰りにアルコーブを回る。

 ……全部黒色だった。


 大きなアルコーブのうち、魔導鎧カヴァーチャが安置してあったのは四か所で、残りの一つには、魔導鎧カヴァーチャと同じくらい大きな輪っかみたいな物があった。投擲用の戦輪チャクラムに似ているね、なんだろこれ?


「ダルタ、決まったかや?」

 サーラ先生が魔導鎧カヴァーチャから降りてこっちに来たよ。


「あ、サーラ先生、これは何だと思いますか?」


「ん? これは妾も初めて見るのじゃ。なんじゃろな? おそらくこれも兵器じゃと思うが、ちと解らんのじゃ。それより、もうどれに乗るか決めたのかや?」


「あっちのアルコーブにあるやつにします。角が付いてて強そうだったし」


「どれどれ、……ああ、これは角ではないぞ。頭部の左右に長い突起がそれぞれ付いておるであろ? これはエルフの笹穂耳を模したデザインじゃな。うん、なかなか優美な造形であるのじゃ」


「あの、それじゃ、これはサーラ先生に譲りましょうか? せっかくのエルフの笹穂耳タイプなんだし」


「なあに、構わぬ。妾は最初に乗ったやつが気に入ったから、ダルタがこれに乗ると良い。

 では、乗り方を教えるのじゃ。まず、搭乗する時は膝の付近に触ってオドを流し込みながら、座れと念じるのじゃ。ダルタは、身体からオドを遠くへ放射するのは苦手じゃったが、これは触ったままオドを通せば良いので、〈再生〉のやり方と同じじゃろ?」


 鍋や壁を〈再生〉する時と同様にしてオドを流し込みながら、座れと念じてみた。

 カパーンと胸のハッチが上に開き、重なった装甲が擦れてカシャカシャと音を立て、黒い巨人が片膝を床に着けて屈んだ。


「よし、そしたら搭乗口から乗り込むのじゃ」


 曲げた膝に乗り、開いた搭乗口から内部を覗き込んだ。

「うわあ、なんですかこれ!? なんか薄桃色で半透明で、ぬらぬらヤワヤワしてますよ!?」


「薄桃色の半透明のそれはな、人工的に培養した特殊なスライムの肉じゃ。オドイーターと呼んでおる」


「スライムって下水をうろうろしてゴミを食べたりしてるやつですよね。僕、食べられちゃったりしませんか?」


「大丈夫じゃ。そいつは肉は食わん。代わりにオドが大好物で搭乗者の持つオドを吸い取るだけなのじゃ。カヴァーチャの装甲を纏った強化外骨格の中身にはこのオドイーターを詰め込んであるのじゃ。オドを吸って登場者の思念通りにカヴァーチャの四肢を動かしてくれるから、操縦はそれほど難しくはないのじゃ!」


 オドを持つ操縦者が魔導鎧カヴァーチャに乗り込むと、オドイーターが身体全体にピッタリと貼り付いてオドを吸い取り、操縦者の頭部付近にあるオドイーターの紅い色の核が思念を感知して、魔導鎧カヴァーチャの内部に詰め込まれたスライム状の人工筋肉を動かして、外骨格を操ってくれるらしい。

 操縦者を生かすためにきちんと酸素を供給してくれるし、温度管理も万全で、全身を覆った分厚いオドイーターの肉の層が外部からの衝撃も吸収してくれるのだそうだ。



みんな大好きスライム登場回です(笑)


スライムも古代より伝わる魔獣の一種ですが、人間社会が生み出す大量のゴミや排泄物などを処理してくれる為、恐い魔獣とは思われておらず神代語の名前も伝わってません。そのまま古帝国共通語でスライム(ネトネトしたもの)と呼ばれています。

なお魔力を吸着する特殊なスライムであるオドイーターは通常は魔力を外部に漏らさない為、次元庫のアルコーブに仕掛けられた停滞フィールドの魔力感知スイッチには反応せず、オドイーターの詰まってる魔導鎧もアルコーブ内ではきっちり停滞固定されます。


以上、SF風テキトー設定でした。


後編はこのあと土曜日の零時に投稿します。


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