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第三章17.反攻の機 (後編)

「おお、ダルタよ、無事だったのじゃな。突然飛び出して行って心配したぞ。ん? ……そうか、いろいろあったようじゃな。本当に惨い夜じゃった。ワシには皆の冥福と来世が穏やかであるよう祈ることしか出来ぬのじゃが……」


「ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした」


「よい、よい。ダルタが無事に戻って来ただけでホッとしたわい」


「南大門には羅刹蜘蛛ラクシャルタを〈使役〉する怪しい男がいました」


「なんと? やはり蜘蛛共は操られておったのか。そうすると、先日のノジーハ村や、今回の南大門への羅刹蜘蛛ラクシャルタの襲撃は、街道を東進してきた軍勢から目を逸らさせるための陽動であったようじゃな」


「御師匠様、襲ってきた騎馬兵は――」


「バールーク王国のケモノ族だったのじゃろ?」


「もう知っていたのですか?」


「衛士たちが打ち倒した敵兵の鎧を剥いで調べたからの。しかし、奴等は本気で、このカーシナラの町を落としに来たようじゃ。西大門の生き残りの衛士たちの報告によると、一千騎程の騎馬兵がおったそうじゃ。奴等は急襲のための先兵で、おそらくは歩兵などの後続が一万はおるじゃろうな」


「一万もですか?」


「この広いカーシナラを制圧するには、そのくらいの人数は必要じゃろう。だが西大門の守りがああもあっさりと破られるとはのぉ」


 もともとが神殿町でお貴族様の庇護下にないカーシナラには、大門を守る衛士以外の常備兵がいない。だが、初代マチュラ王によって築かれた強固な城壁と堅牢な大門こそが防衛の要だったのだ。大門を破られさえしなければ、城壁の中に畑や牧場があり、食糧の備蓄もあるカーシナラの町は半年やそこらは篭城が出来たのだそうだ。


「内通者がおったのか、南大門のように蜘蛛が壁を乗り越えて来たのか、詳細はわからぬが、いつの間にか大門の閂が外されてしまったのじゃよ。衛士の半分を南大門へ送ってしまったこともあり、何の抵抗も出来なかったそうじゃ」


「あいつら、中央大広場で、逃げ遅れた人を殺してました……」


「酷いことを。だが、奴等は西大門と周囲の家を制圧したきり、本隊は動いておらぬそうじゃ。時折り、騎馬兵を〈大通り〉沿いに十数騎ずつ走らせて、略奪を働いておるが、本格的な侵攻は後続が到着してからになるじゃろうのぉ」


「どこぞより、援軍は来ぬのかや? 篭城がこの町の基本戦略ならば、当然、援軍の手当は出来ておるのじゃろ?」


「この町に襲撃があれば、マチュラ王国西部を領する辺境伯様が兵を送ってくださる事になっておる。それでも足らなければ王都からも来るじゃろう。じゃがな、もう二百年以上も、この国境地帯は平穏じゃったのじゃ。急な変事に果たしてどれほどの対応が出来るであろうか」


 トントントン

 ノックの音がしてトンボさんが入ってくる。

「ダーバ様、神殿長が御召しです。客人のサーラさんとダルタも一緒にと、使いが来ました」


「ふむ、なんじゃろのぉ。とりあえず行ってみるかの」

 ダーバ様に連れられて僕とサーラ先生も一緒に神殿長様の房に移動した。


「神殿長、客人をお連れしましたぞ」


「おお、よう来た。よう来たのォ」


 神殿長はお年を召した人族で、腰が曲って背も低く、長い眉毛に隠れた目を見開いてサーラ先生をじっと見つめた。


「お呼び立てしてすまぬのォ。エルフ族が来ていると聞いて、お会いしてみたかったのじャ。ふむ、その褐色の肌に笹穂耳。間違いない、地のエルフ族の御方じャな。ワシは神殿長を務めておるヴィハーンと申す」


「……森のエルフ族のサーラなのじゃ」


「おお、森のエルフ族じゃったな。歳のせいか、ちと記憶が曖昧でのォ」


「まあ、構わぬ。それでなんの用なのじゃ? ただ、顔を見たかった訳でもあるまい?」


「それなのじゃがな、現在、このカーシナラの町が稀有の危難に瀕しておることは御存知じゃの? それでこんな折りじゃからの、滅多にせぬことではあるが、丘を開いてみようかと思うのじゃが、サーラ殿は丘の中身には興味は御座いますまいかのォ?」


「それは是非とも見てみたいのじゃ!」


 丘って、御神体の丘のことだよね? 中身って……えっ? もしかしてブッダ様!?




ようやく丘の話になりました。最初の構想だと5話くらいで丘を開くことになるはずだったんですけどね……。


いつもお読みいただいてありがとうございます。

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