表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/69

第三章 14.羅刹蜘蛛来襲 (前編)

【注意】このあたりから、だんだんグロ描写が増えてきます。

一昨日、森の奥で遭遇した魔獣が、城壁の上で衛士たちを相手に十数匹も蠢いていた。白と黄色の神官服を着て剣を構えた、三人のラハンの姿も見える。

 門の両側にある側防塔の上からは、城壁の外に向かって矢を射ている衛士もいる。なんとか蜘蛛の侵入を押し留めているようだが、城壁の外にはまだ何匹もいるのかもしれない。


「どうして羅刹蜘蛛ラクシャルタの幼体の群れが町に……」


「あの時の群れは誰かに〈使役〉されていたのかも、と冒険者たちに聞いたのじゃ」


 町の端までずっと離れずに、僕に付いてきてくれていたサーラ先生が答えた。


「まだ成虫に育ちきってもいない羅刹蜘蛛ラクシャルタが、こんな大きな町を襲うなど聞いたこともないのじゃ。だが雌蜘蛛の混じってる群れがいたのが、そもそも異常事態であったし、村が襲われた事件の裏に、悪意のある使役者を想定すべきだったのじゃ!」


「……誰かが態とこの町を襲わせた?」


「シャキッとするのじゃ、ダルタよ」


 呆然とする僕に近づこうとしたサーラ先生が、不意に路地の暗がりに目を向け、僕を身体ごと押し退けながら、一声叫んだ。

「蜘蛛じゃ!」


 一緒に倒れ込んだ僕達が寸前まで立っていた場所には、蜘蛛の粘性の糸が吐き出され、地面にへばりついていた。


「奴ら、すでに町の中に入り込んでいたようなのじゃ」


「サーラ先生、下がって!」

 僕は手に持っていた剣を抜いてサーラ先生の前に出た。急いでいて剣帯も着けてないので、鞘は腰の裏でベルトに差し込んだ。小丸盾バックラーも持ってきてない。吐き出す糸と長い前脚の爪に気をつけなければ!


 キン、キン、カキン!

 繰り出される羅刹蜘蛛ラクシャルタの前脚を剣で受け止める。尖った爪は金属のように硬い。


 オーン マハー インドラーヤ スヴァーハー!


 僕の背後からサーラ先生の詠唱と共に雷光が走り、蜘蛛を痺れさせる。


 グギャギャッ!


 一瞬、身体を包んだ雷光に悲鳴を上げ、動きの鈍くなった羅刹蜘蛛ラクシャルタの頭上に跳んで、頭と胴の連結部に剣を差し込み貫いた。


「もう町の中に入り込んでるなんて……、僕、急いで家に帰らなくちゃ!」


 南大門に続く広い〈参道〉から外れて西の路地に入り、家への道をひた走りに走った。サーラ先生も後から着いて来てる。


 物心ついた頃から暮らしている、愛着のある小さな家が見えてきた。鍵の掛かっていない扉を押し開け中に入る。


「父さん! 母さん!」

 叫びながら暗がりの中を見回すが、誰の気配もない。部屋の扉を順々に開けて覗き込む。


「アマリー! 誰かー! 誰もいないのー!?」


「もう既に避難した後ではないのかや?」


 落ち着いて両親の衣装箱を見てみれば、見慣れた衣服の何点かが無かった。妹のお気に入りの人形もなくなっている。


「〈参道〉を北に避難する人達の中には居なかった。路地裏を抜けて西寄りに北へと向かったのかも?」


「おそらく、ダルタと合流しようと神殿へ向かったのじゃろ。まだ、町中には蜘蛛がおるかもしれん。急ぐのじゃ!」


 サーラ先生と二人で家を出て、そのまま狭く薄暗い路地を辿って北に向かった。


 カーシナラの町を東西に走る〈大通り〉と南北に通る〈参道〉で区切られた四つの街区画は、更に縦横に走る細い路地で碁盤の目のように区切られている。

 家を出た父さんたちは、おそらくは〈参道〉に集中する避難民の人混みを避けるために、家の側にある路地から北上して〈大通り〉に向かったのだと思う。


 僕たちは〈参道〉の西側の、職人たちが多く住まう小さな家々に挟まれた狭くて暗い路地を、羅刹蜘蛛ラクシャルタの気配を探りながら強化された速度で進んだ。


 何度目かの辻を越えようとした時に、奥の路地の暗がりに黒い闇に包まれた大きな女の顔のようなものが見えた。それはこちらに赤と黄色の斑紋がある背を向けて、一心不乱に倒した獲物に喰らいついている羅刹蜘蛛ラクシャルタの姿だった。


 心臓がドクンドクンと早鐘を打ち始めて止まらない。体内を巡る血流は激増してるはずなのに、逆にサーッと血の気が引いて頭が冷たく感じた。


 こいつ、人間を食べてやがる!


町外れの神殿からダルタ君の家までだいたい歩いて鐘一つ分と最初の方で書いてしまいました。季節に依りますが鐘一つ分(一刻)≒2時間ですのでほぼ8〜9kmはある訳で……そんな大きな城郭都市が果たして存在したろうか? タスケテー、グーグルえもん!


ちょっと調べてみると、中世ヨーロッパの城郭都市って城壁に囲まれてない中世日本の都市と比べてもずっと狭小なとこばかりなんですよね。でも日本の平安京だって南北で5kmほどしか無い訳で……。

あっ、そうだ、平安京のお手本になった唐の長安とかどうなんだろう? あそこは確か城郭都市のはず。でまたお手軽にググってみると、長安は南北8·6km、東西9·7キロもあった。もちろん立派な城郭都市です。

良かった、カーシナラよりも大きな城郭都市があったんだ! でもこんな大きな都市を支える食料供給とかどうなのよ? 周辺の農村部だけで足りるのか? とまた疑問も浮かんだため、城壁の内部の北寄りの部分は緑化農業地帯にしておきました。


細かい設定が気になる性癖フェチなので悪しからず。


分割投稿です。続きはこのあと水曜日の零時に投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ