第一章 弐.
「お客さんは本当に運がいい。ブッダ様の思し召しに感謝しないとね!」
感謝って……オレ、死んでんですけど?
「この頃は急激に亡者が増えましてね、ワタシらも寝ないで亡者の回収に当たってるが、もうとっくにキャパオーバーしちゃってて、拾っても拾っても追いつかなくて溜まるばかりでしてね」
謎の疫病のせいで、この世だけでなくあの世も大変になってたんですね。
「普通は古い順に拾っていくんで、今死んでも四、五年はその場に放置されたままで、もう地縛霊にでもなって待っててもらうしかないなあ、なんて話を先月から同僚ともしてるんですけど、お客さんは死後三十分ほどで拾い上げられたんだから、とっても運が良いんですよ」
地縛霊って……ちょっと嫌な響きですね。そんなのにならなくて良かったです。
「お客さんが死んでた場所はワタシの巡回コースからはちょっと外れてたんですけど、なんか海の方でピカピカ光ってるなあ、って気になって見に行ったらお客さんが死んでたんですよ。出発したばかりでまだ席が空いてたから拾っちゃえ、と思いまして。いやあ本当、お客さんはなんか持ってますね」
オレはとても幸運だったんですね。でも父さんや母さんが川を渡れるようになるのはだいぶ先になるかも知れないのか。二人ともとても良い人だったから早く拾ってもらえるといいなあ。あの町を優先して巡回してもらえませんか?
「何事もブッダ様の思し召し次第ですからねえ。でも、今生で強い縁を結んだ魂同士は来世でも引かれ合うものですから、もしかしたらまた生まれ変わっても出会えるかもしれません。
あっ、そろそろ到着しますよ。ほらあのずっと先に船着き場が見えて来たでしょ? あそこにある大きな門があの世の入り口なんです」
あっ、本当だ見えてきた。カローンさんには、すごくお世話になりましてありがとうございました。オレ六文銭も持ってないのに、ロハで渡し船に乗せてもらっちゃって助かりました。
「あの門の向こうにガラポン抽選会場がありますから、ちゃんと行列に並んでくださいね」
大丈夫ですよ、オレ、日本人ですから。行列に行儀よく並んだりとか、信号とかでじっと待つのは得意なんです。でも、ガラポンで天国行けるかどうか決めるんですか?
「いやいや、自力で成仏できる魂はワタシらが拾いに行かなくても、ちゃんと解脱して涅槃にたどり着きますからね。ワタシらは迷ってる亡者を拾い集めて、ここに連れてくるのが専門なんです」
そう言うとカローンさんは帽子を脱いで顔を扇いだ。帽子を脱いだ頭髪の隙間からは幾つもの花が覗いていた。
へー、なら迷ってる亡者はガラポンで何をするんですか?
「そら、もちろん転生ですよ!」
すいません。
前世と今生との描写が投稿毎に行ったり来たりして読みにくいかも知れませんが、第一章はこのスタイルで行きます。