第三章 11. 神聖バールーク王国 (後編)
投稿作業を始めてから、あれまだ一日早いじゃん、と気付いたという……(汗)
「す、すみません、サーラ先生。ちょっと、ダーバ様、この人は森のエルフのサーラ先生です。ほら、耳が長いでしょ?」
「う、うむ。確かにエルフの笹穂耳じゃが、黒髪に白い肌のエルフとはまるで違う様相だの。これはもしや噂に聞くダークエルフでは……」
「だーかーらー、妾たちこそが正統なるエルフで、自称〈貴族〉のヘタレ出戻り青瓢箪どもが、勝手に妾たちを堕悪エルフだの土矮夫だの呼んでおるのじゃ。人族が無知なのは知っておるゆえ此度は見逃してやるが、それらは蔑称じゃから二度と口に出すのは許さんのじゃ」
「ご、ごほん、これは失礼をいたした。ワシはダルタの師匠でダーバと申す。神殿では遠来の客人は歓迎いたすゆえ、ゆるりと滞在なされるがよい。部屋も用意させよう」
「ん? オヌシは、よく見たらケモノ族との混血ではないかや? 熊系統が入っておるであろう?」
「おお、これはご慧眼恐れ入る。ワシが神殿に入って早六十年は経つが、ケモノ族の血を引いてると言われたのは片手で数える程での。母方の曾祖父がバールーク国の出身ですのじゃ。彼の国がマチュラ王国より分離独立する際に、新体制を嫌ってこちらに移住して来たとか聞いており申す」
御師匠様ってケモノ族だったんだ! ちっともわからなかったよ。髭がもじゃもじゃで神官服の袖から出てる腕も毛深いけど、ケモノ耳が付いてないからね。
「バールーク王国はもともとケモノ族の国であったが、西方より侵攻してきた好戦的な人族に国を乗っ取られ、先住のケモノ族は奴隷扱いされていたのじゃ。総人口の七割が奴隷という歪な国じゃったが、その後勢力を伸ばしてきた隣国のマチュラ王国に丸ごと併合されて奴隷制度がなくなり、大マチュラ王国の一員として繁栄しておったものの、不満を抱えていた旧バールークの支配階級の者たちが独立運動を始めて、それに煽動された一部のケモノ族も騒乱を起こし、結果、独立を果たしたものの排他的な宗教国家となったと聞いておるのじゃ」
「さすがはド――エルフ族ですな。博識であられる」
「ダーバ様、宗教国家って熊神バハルーク様を信仰しているのですよね?」
「創世神バハルーク様じゃ」
「バハルーク様って熊頭の神様ですよね? うちの神殿にも神像がありますよ?」
「ダルタよ、神々と言うものはだな、似たような名前、似たような権能をお持ちだと、元は別々の神であっても習合されて一つのものとされるのは珍しくないのじゃ。西から来たアジール人の信仰していた光明神ルークと、ケモノ族の祖である熊神バハルークが習合され、創世神バハルーク様となったのよ」
ダーバ様が顎髭を扱きながら語った。
「かつてのケモノ族は同じ神を崇める輩としてアジール人を受け入れ、やがて国を乗っ取られ奴隷とされてしまった」
その後、バールーク国はマチュラ国に併合されてケモノ族は奴隷身分より解放されたものの、最初からのマチュラ人とは様々な格差もあり不満を抱える者も少なくはなかった。特に既得権益を失った旧支配階級のアジール人は、殊更にマチュラ国への恨みが深かったという。
マチュラ国に併合され奴隷より解放されて数百年が経ち、奴隷時代の悲惨な境遇を知らぬケモノ族も多い。
そこに煽動家たちが、ケモノ族とアジール人は創世神バハルーク様により選ばれた神聖な民であり、侵略者マチュラ人を打倒して国土を回復すべきだと、ことある毎に焚き付けて各地で騒乱を起こさせ、ついには独立を果たし神聖バールーク王国となったらしい。
「ワシの曽祖父様のように、アジール人の言うことを信用出来ずに、家族揃ってマチュラ王国に移り住んだ者も多いがの」
「政治は難しいのじゃ。ところでダルタよ、妾はお腹が空いてるのじゃが、お昼ご飯はあるかのう?」
「もう火の二刻鐘も過ぎてますよ。まだお昼ご飯を食べてなかったんですか?」
「ノジーハ村で一緒になった冒険者たちに連れられて町まで来たのじゃが、先に冒険者ギルドに報告に行くから神殿に素材を届けるのはまた明日、とかのんびりしてることを言っておったので、妾は先に一人で来たのじゃ。町の広場の屋台で美味しそうな物を色々と売っておったが、ノジーハ村の村長に、世話になった礼にと財布ごと渡して来たので、生憎とお金が無かったのじゃ」
「それは大変でしたな。ダルタや、昼時を過ぎてるが厨房に声を掛けて、何か無いか見て来て上げなさい」
「はい、たぶん野菜ゴロゴロスープならあると思います」
「出来れば、妾は肉が食べたいのじゃあー!」
うん、でもダーバ様の房でお世話になるなら野菜食だけなんだよね。
ケモノ族の祖神である熊頭のバハルーク様とアジール人の崇める光明神ルーク様は、ケモノ族とアジール人が接触したことによって創世神バハルーク様へと習合されました。
虐げられし民であるアジール人とケモノ族を救うためにバハルーク様が深い森の中から現れ、上から被っていた熊の頭を脱ぐと光輝く美しい神になったとの神話が出来上がっています。
熊の頭を抱えた光の神を彫刻したトーテムポールを崇めているらしいです。
いつも、読んでいただきありがとうございます。もしよろしかったら画面の下の方にある☆をポチポチっと評価などしていただけると励みになります。
次回は金曜日に投稿します。