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第三章 10.戦い終えて日が暮れて (後編)

 帰る前に村に寄り、ルマン様が村長に挨拶をして、冒険者たちが泊まれるように頼んでおく。

  その間に僕はサーラ先生と話をしていた。


「僕たちはこれから大急ぎでカーシナラの町に帰りますけど、サーラ先生はどうしますか?」


「もちろん一緒に行くのじゃ。妾はダルタの先生じゃからな。今夜はダルタのところに泊めて貰えるのじゃろ?」


「うちに来れば、父さんも母さんも歓迎してくれると思うけど、僕らは身体強化を掛けて走って帰るんだと思います。先生も身体強化術は使えるんですか?」


「うええっ、これから走って行くんじゃと? 妾は長く走るのは、あまり得意ではないのじゃ。町までは遠いのかや?」


「普通に歩いて鐘一つ半から鐘二つくらいですね。もう日没まで間がないので大急ぎで走って帰るんです」


「慌ただしいのは嫌なのじゃ。妾はもう一晩ここの村で世話になって、明日ゆっくり歩いて行くことにするのじゃ。町で神殿を訪ねれば良いのじゃろ?」


「冒険者さんたちも今夜はここに泊めて貰うそうですから、明日一緒に町に来るといいですよ。僕は明日の午後からなら、町の北にある神殿にいますから来てくださいね」


「わかった。ではな、明日まで息災でな」


 見送ってくれる村人やサーラ先生に手を振って別れを告げると、ルマン様とジーク兄さんと僕は、身体強化を掛けてカーシナラの町に向かって走り出した。


「日没の風の二刻鐘までもう半刻もないからな、頑張って付いて来いよ、ダルタ!」


「はい、ルマン様」


 さあ、長距離走だよ! と気合いを入れてプラーナを〈地〉のチャクラから吸い上げる。火の蛇(クンダリーニ)を覚醒させ、気脈沿いに全身に周回させて体内のプラーナ圧を上げ、その一部を〈炉〉のチャクラでオドに変換し、全身の筋肉に沁み渡らせる。胸の〈水〉のチャクラもドクンドクンと回りだし、手足の運びが軽くなる。呼吸もリズミカルに弾み、喉の〈空〉のチャクラがクルクル回って新鮮な大気を取り込み、そして余分な熱を排出した。


 全身が走る機械になったかのようにイメージすることで、疲れも痛みも感じずに、足がぴょんぴょん大地を蹴って体を前へと運ぶ。


 オドを全身に浸透させる全身強化術とは、本来は戦闘中に筋力と瞬発力を上げることで瞬間的な剛力を発揮したり、短距離の移動や手足の動きを俊敏に行うためのものだが、イメージしだいで、長時間の高速走行も可能になる。


 夕暮れに赤く染まる木立の中の細い道を走り抜け、やがて開けた麦畑沿いの道に出る。川の流れの音を聞きながら足を跳ね上げ土を蹴り、西の空を振り返り見れば、もう真っ赤な太陽が遠くの森の向こうに沈んでいくところだった。


 十字路を左に折れ、前を行くルマン様とジーク兄さんの背を追いかけて、さらに踏み出す足に力を込め、歩幅を伸ばし回転を速くする。

 びっくりして目を丸くしてる橋守りのケモ耳お爺さんを横目に見ながら、一陣の風のように橋を駆け抜けたところで、遠くから風の二刻鐘がゴーンゴーンと響いてきた。


 あれ? もう閉門に間に合わないよね?


 ルマン様とジーク兄さんの足は止まらず、そのまま後を追って麦畑の中の道を通り抜け、真っ暗な道程みちのりを瞳に力を込めて視界を明瞭に保ちつつ、荒れ地を踏みつけ走り抜ける。そして町の南大門が見えてきた。


 翳に沈んだ門前広場に足を止めると、ルマン様が大門の脇の通用口に声を掛けて、小さく扉を開けてもらったところだった。衛士に挨拶をして三人で通用口を潜った。


「今日は初めての魔獣狩りがとんでもないことになって疲れただろう。神殿長への報告は私たちがする。帰りが遅れて親御さんも心配してるだろうし、早く帰ってあげなさい」


「お疲れ様、ダルタ。私たちは神殿に帰るから、また明日な」


「はい、ルマン様、ジーク兄さんもお疲れ様でした」


 手を振って二人と別れ、身体強化を解いて重くなった足で自宅への路地を辿る。

 ふーーっ、……明日は全身筋肉痛かもね。




橋守りのケモ耳お爺さんの勤務時間は、日の出(水の一刻鐘)から日没(風の二刻鐘)までです。橋守りの職は近在の村の暇なお年寄りが交代で勤めており、日没後は家に帰ってしまうので、通行料金を払いたくない人はこっそり夜中に渡ってください。


次回は水曜日の夜に投稿します。


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