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第三章 8.森のエルフ (後編)

 結局救い出せた村人は三十三人だった。村人は大人から子供まで全員含めて五十一人いたそうだ。犠牲者の大半は子供たちだった。


 生き残った大人たちは口数も少なく、とぼとぼと村への道を辿って行く。

 村の代表だという初老の男が僕たちに話しかけてきた。


「ラハン様、この度は私を含め村の者たちを救って頂き、たいそう有り難うございました。ラハン様たちが来て下さらなかったなら、村の者は誰一人として生きては戻れなかったでしょう」


「いえ、村の人たちが大勢亡くなってしまい、大変に気の毒でした」

 ジーク兄さんが言葉少なに答えた。


「はい、子供たちを失くした親たちは皆悲嘆に暮れていますが、子供がブッダ様の御元へと召されるのは珍しいことではありません。村人たちの多くが助かったのです。いずれまた新たな子供たちが授かることでしょう」


 諦念。そんな悲しい言葉が胸に浮かんだ。僕の日常で使われるような言葉ではない。どこで聞いたのだったろうか。


「すみません、僕たちがもっと早く助けに行くことが出来ていれば……」


「いいえ、私たちの村が羅刹蜘蛛ラクシャルタに襲われたのは、三日も前のことなのです。村人全員が喰われていてもおかしくは御座いませんでした。

 それに、お若いラハン様にはまだ理解出来ないでしょうが、町から離れた村の暮らしは厳しく、魔獣に襲われたり、日照りや冷夏で作物が採れずに餓えたりなど、度々のことなのです。そんな時に真っ先に失われるのは子供たちの命です。でも村は滅びません。どれだけの不幸に見舞われようとも、いずれまた子供は生まれ、村は続いて行くのです」


「…………」


 返す言葉がなかった。村人や子供たちの死も村の日常のようだった。


 とぼとぼ、とぼとぼと薄暗い森の中を歩き続けて、ようやく森の切れ目に出た。

 もう外はとっくに夕暮れなのではと思っていたが、まだ外は充分に明るく、日の入りまではまだだいぶ時間がありそうだった。


「そういえば森のド、――エルフさんは子供なのに蜘蛛に食べられなくて良かったですね」


「妾は子供ではないぞ。これでも、もうすぐ四十歳になるのじゃ」


「えぇっ? とてもそんな歳には見えませんよ!?」


「ふふふん、妾たちエルフは長生きなのじゃ! だいたい四、五百歳くらいまでは生きるぞ」


 寿命の十分の一くらいの年齢ってことは、このドエルフさんは人族の年齢に直せばまだ八歳くらいなんじゃないの?


「それに子供や年寄りが先に喰われてしまったのは、体力が無くて、麻痺毒でも直ぐに死にかけてしまうから、保存食には向かないと蜘蛛どもが考えたからなのじゃ。妾たち森のエルフは、青瓢箪の出戻りエルフとは違って体が丈夫じゃし、魔法も使えて強いから、いざとなったら大暴れしてやったのじゃ」


「えっ? でも魔法が使えるのはエルフだけだ、って僕の師匠が言ってましたよ?」


「だーかーらー、妾はエルフなのじゃ! と言うとるであろうが!」


 そういうと怒った顔で僕に手を伸ばして短く唱えた。


 オーン ヴァルナーヤー スヴァーハー


 たちまち手のひらに水の球が出現し、ビュンと飛んできて僕の顔に当たってビチャッと弾け、汗と埃と魔獣の血で汚れていた僕の顔を洗い流した。

 そして彼女は、突然の魔法現象に驚く僕の顔を眺めて、ニマッと笑った。


 本物だよこの人!




次回は水曜日の夜に投稿します。

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