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第三章 7.ラクシャルタ (前編)

「しかし奇妙だな。こいつはまだ四、五歳くらいの雌蜘蛛で、まだこれから何倍にも大きくなるんだが、普通、雌は群れないんだ」


 ジーク兄さんが言うには、蜘蛛は同族同士でも腹が減ると共食いを始めるから、卵から孵るとすぐにバラバラに別れて生きていくらしい。親が自分の産んだ子を食べることもあるし、兄弟姉妹でも喰い合うそうだ。

 だが一部の雄蜘蛛は、繁殖の為に母蜘蛛のそばを離れず、一緒に群れを作ることもあるんだとか。それでもうっかり油断すると、体の大きな母蜘蛛に食べられてしまうらしいけどね。


「蜘蛛の群れに雌は母親だけのはずなんだ。雌の子蜘蛛が群れに残ってるなんて、今まで聞いたことがないなぁ」


「なにか、普通じゃないことが起こっているんでしょうか?」


「うーん、私にもわからないよ。それで、巣には母蜘蛛は居なかったのかい? 大きさが何倍も違うから、子蜘蛛と見間違えることはないはずなんだが」


「トゥルパで見えたのはこのくらいの大きさの蜘蛛ばかりでした。ぐるぐる巻きの繭が幾つあるのか数えようとして、蜘蛛糸が張り巡らされた巣の中を何度も飛び回りましたから、間違いないです。あ、繭玉は三十四個ありました」


「母蜘蛛が居ないんだったら、拐われた村人を救いだすチャンスかも知れないな。あれだけ餌になる繭玉があるのに、狩りに出てるとは思えない。今倒した奴のように周囲の警戒のために巣から出てるのが、もしかしたらあと数匹いるかも知れないが、群れの主の母蜘蛛が見回りに出てるなんてことはないと思う。とすると、最初から母蜘蛛の居ない群れなのかも」


 森に捜索に入ってから既に半刻は経っている。早ければ救援はもうカーシナラの町を出た頃かも知れない。それでもノジーハ村まで来るのに鐘一つ半は掛かるし、村からこの森の奥まで半刻だ。救援が来るのに鐘二つ分か、それ以上の時間がかかるだろう。


 ジーク兄さんのトゥルパはラハンの皆を案内して来ると思う。トゥルパは人の目には見えないから、トゥルパ同士で「おーい、こっち、こっち」とかやってるのだろうか。


「あまり時間を掛けると、村人が食べられてしまうかもしれませんね」


「ルマン様たちは町の衛士と冒険者たちを引き連れて南門を出るところだ。村に到着するのが火の三刻頃になるだろう」


 ジーク兄さんはトゥルパを通して、向こうの状況を見たようだ。


「村人も心配だし、救援を待ってる間に万が一にも母蜘蛛が帰ってきたりしたら、こちらの被害も多くなってしまう。まず、母蜘蛛のいない群れで間違いないと思うが、成長した羅刹蜘蛛ラクシャルタは存在自体が災厄級だからね。

 二人だけではちょっと心許ないが、成虫になりきってない羅刹蜘蛛ラクシャルタは剣で倒せる相手だ。ダルタと二人で奴らを倒そう!」


 大急ぎで松明を用意して火を灯す。蜘蛛が吐き出す粘着性の糸を焼き切るためだ。

 羅刹蜘蛛ラクシャルタは狩人蜘蛛だから、巣を張って獲物を待ち受けるのではなく、足音を立てずに忍び寄り、毒牙や粘糸で獲物を絡め捕ろうとするそうだ。

 寝るためや食糧備蓄のための巣も作るが、何重にも糸を張り巡らせて立体的な迷路のようになっている。村人を救い出す為にも、火で巣を焼き切る必要がある。


 巣に向かう途中で二匹の羅刹蜘蛛ラクシャルタに遭遇するが、左手に持った松明をバックラーのように使って牽制しながら、身体強化で迅速に動き回り、隙を見て剣で刺し殺した。


 背の高い樫の木々の間を通り抜けて、ジーク兄さんと二人で、白い糸を重ねて編み上げられた大テントのような巣が見えるところまでやって来る。周りに見張りをしている羅刹蜘蛛ラクシャルタはいない。先程偵察した時のまま、連中は巣の中にいるようだ。


「思った通りだ、ダルタ。この巣の大きさなら母蜘蛛は居ないだろうね。成虫の母蜘蛛が作る巣は、この何倍もの規模になるはずだからね」


 ジーク兄さんと手分けして、松明で巣の端から火を点けていった。蜘蛛の糸は熱に弱く、火に触れた部分だけが縮れて溶けるように崩れていく。燃え広がる心配はないので、村人たちが焼け死んでしまう怖れは無さそうだね。


分割投稿です。続きはこの後、日曜日の零時にアップします。

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