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第三章 6.魔獣狩り (後編)

 森の中の下草に残る足跡や、引きずった痕を追跡し、森の中を進んでいく。途中で、角が生えた人喰い兎(ヤクーシャシャ)や、何本も牙を生やした大きな鼻面の目無し猪(モハヴァラーハ)に幾度も遭遇して、襲い掛かって来るものは、なるべく大きな音を立てないように気を付けながらジーク兄さんが仕留めた。


 僕も一匹だけ猪型の魔獣に止めを差した。ジーク兄さんが何度か切りつけて動きの鈍くなった目無し猪(モハヴァラーハ)に、身体強化のかかった腕で切りつけると、さくっと剣が首筋に吸い込まれ、頚が皮一枚を残してポロリと落ちた。思ったより呆気なかった。


 こいつらは人を喰う魔獣だけど、ただ人間がのろまで襲いやすいから人を食べてるだけなんだ。

 そして、村や町を襲う魔獣だから人間に嫌われ怖れられて、こうして狩られてしまう。どちらも自分達が生き残る為に、家族や仲間が死なない為にやってることで、決して責められるようなことじゃない。……僕は町を、家族を守ると決めたんだ。こうして魔獣を殺しても悪業にはならないんだ。


 剣から滴る魔獣の青い血を見つめながら、僕はそっと心の中で呟いていた。


「ダルタ、魔獣は魔結晶が採れるけど、今は解体している暇がないから、このまま残して行こう。帰りに余裕があれば解体の仕方も教えてやれるんだがな」


「はい、仕方ないですよね。拐われた村の人たちを急いで探さないと」


 倒した魔獣は放置してそのまま森の奥へと進んだ。森の奥へと入る程に、大きくて太い古い木が増えてきて、緑の枝葉を大きく空に伸ばす。繁った葉が空を塞いでいるせいで、森の縁よりずっと薄暗くなってきている。

 まだ昼間だというのに既に明るい空は見えず、辺り一帯に誰彼時のような薄闇を落としていた。冬でも葉の落ちない樫の森は、名前の通り「影の森」だった。


「ジーク兄さん、見つけたよ!」


 足元が暗くて魔獣の足取りが追えなくなった為、僕は金魚を先行させて周囲を探っていた。


「よし、よくやったダルタ!」


「こちらの方向です。蜘蛛の糸が張り巡らされてる場所があります。糸がぐるぐる巻きにされた大きな繭が幾つもぶら下がって、――ええっ!?」


 僕の報告を聞いていたジーク兄さんが、突然剣を抜いて、僕の顔のすぐ横を凄まじい剣風で切りつけた。


  ギギギギギィィィィー!


 驚いて振り返って見てみると、鋭い爪の付いた長い脚がたくさんある、人間の大人より一回り大きい体格の黒い魔獣が、僕の背後で青い血を噴き出して悶えていた。

 ジーク兄さんが剣を構えて駆け寄り、デカい口から鎌のように長くて曲がった牙が生えた頭部を、一息に剣で刺し貫いて止めを差す。八本の長い脚が弱々しく動いて地面を引っ掻くと、やがて動かなくなった。

 頭の周囲には光を失った黒い目が八個も並び、黒い大きな胴体の背面には赤や黄色の筋や斑点が入り、遠目には女の顔のようにも見える気味の悪い模様になっていた。


羅刹蜘蛛ラクシャルタだ」


「こいつです! 巣の中にはこんなのが全部で六匹いました!」


「この辺りはもう羅刹蜘蛛ラクシャルタの縄張りに入ってる。油断すると気付かぬうちに影から襲って来るぞ。身体強化を長い時間使い続けて疲れてるかも知れんが、常に目を凝らし耳を澄まして、見えないところにも気を置くんだ」


「こんなのがすぐ近くに来てたなんてちっとも気が付かなかった……。トゥルパの見てきた光景を早く報告しなければと気が逸って、集中力が欠けてたみたいです。……ジーク兄さんが居なかったら僕も喰われてましたね」


 背後の木々の陰の暗がりを見回しながらそう答えると、思わず背筋に冷気が走った。

 ヒャアーー、ブルブルブル! 今になって寒気がしてきたよ。ほら、鳥肌も立ってるし。




次回は土曜日の夜に投稿します。

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