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第3話 兄上

「そろそろあきらめたらどうなんだ?」

「うっさい。兄上はいいよなー学年首位で誰も追いついてない」


剣を振るいながらジュダンは毒づく。

一方、ジュダンに兄上と呼ばれた男は彼の剣を捌きながら溜め息をつく。


「正直、お前を圧倒してる侯爵嬢の方が信じられないんだがな…」


王族として産まれ、才覚がないと判断された時点で葬られるか辺境地に幽閉されるこの国で士官学校に入学させられる時点でジュダンは優秀な部類だ。


「バルト殿下、お言葉ですが、ジュダン様は特に弱くはないですよね」

傍らに控えているクルトが声をかける。

バルトはそれに振り返ってにこりとしていた。


「むしろ、こんなに優秀な弟だがね」

振り向いているはずなのにジュダンの剣を軽く捌いていく。


「兄上…かなり余裕ありそうだけど…」

「そりゃそうだろ?これから成長していくお前に成人の域の俺が余裕なければおかしい話だ」


その後、数合打ち合って二人は剣を納める。

ジュダンはすでに肩で息をしていて苦しそうだが、バルトに至っては軽く汗を拭う仕草をしているだけだった。

傍らに控えていたクルトが二人にタオルを渡している。


「サンキュ。で、ジュダンを圧倒してる侯爵嬢って美人なのか?」

「は?ま、まぁ。生意気だけど…」

「ジュダン様、はっきりと手を付けるなと言わないと」

「うるせぇ!!」


ジュダンはいつも通り茶々をいれてきたクルトを叩いていた。

それをみてバルトは笑っていた。

ただ、彼の中での興味はより一層深まっていったのだった。




「さて、フルート侯爵嬢は君かな?」

「ヒトチガイデース」


ジュダンが絡んできていつものように撃退していた昼過ぎの食堂で昼食をとっているとさり気なく隣に座ってきた男がいた。

整った顔立ちと珍しくはないが透き通った金色の髪はジュダンを想像させられ、飯が不味くなったので断っておく。


「この学校で人魔族は君だけだよ」

「ちっ…何か御用なんですか…」

「おお、これはこれは、ジュダンのお気に入りなわけだ」


ジュダンの名前がでてきた上に呼び捨ての時点で親族なんだろうなとは思ってより怪訝な顔になる。


「あいつが?いつも突っかかってきて迷惑なんですけどね」

「ははは、許してやってくれよ。好きな女の子にいじわるする年頃なので…」

「何言ってるんだよぉ!?」


男の背後でジュダンが叫んでいた。

いつもいつも煩い奴だ。


「おお、ジュダンか。なかなか美人な侯爵嬢じゃねぇか」

「生意気なだけだ…いて」


ムカついたので殴っておいた。

顔が歪んだだけだったので手加減しすぎたな。

次に勝負挑んできたらボコボコにしてやろう。


「令嬢に対して失礼なやつだな、フルート嬢、弟が毎度すまない」

「すまないと思うなら黙らせてくれないか」

「ははは、それは無理だ」


清々しいくらい否定してきやがった。


「それで、貴方はどなたです?ジュダンの言葉から兄なのはわかりますけど」

「バルトと言います。フルート侯爵嬢」

「ふーん」


周りがざわついたりしているが、王族だろうとここでは実力主義なので気にしたりはしない。

むしろ裏工作や暗躍をしっかり見極めてないといけないくらいだ。


「で、実は君に興味があってね」

「へぇ…人魔族というところですか?」

「いや、君の剣技がね。ジュダンはこう見えても優秀なんだよ?それを子供扱いする君の実力を見たくてさ」

「お断りします。次の授業があるので」

「致し方ないね」


意外と聞き分けがいいな、こいつの兄にしては。


「放課後に迎えに行くから、そのときに見せてくれよ」


前言撤回、はなから聞く気がないやつだった。

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