生きていくには苦労が多い
電子タバコの電源を入れつつ、私は外を見る。
隠れ家的なレストランと言えば聞こえが良いが、ただペンションを改装しただけの場所ではないかと思うものの、平日の夜にそこそこ客がいることを考えると、それなりに成功しているように思う。まぁそもそも私自身もここにいるという時点であまり人のことはいえないのだが。
「聞いてる?友達も小平さんのことを不気味とか言ってくるんだけど、本当に嫉妬って醜いよね。キリストも良いことを言うよね。」
「ああ、そうだね。」
嫉妬は後から追加されたもので、キリストもそこにはタッチしていないのではないかと思いつつ、私はおざなりに返事を返す。
「なぜ、友達は僕のことを不気味だと言っていたのかな?」
「わかんない。笑っているようで目が笑ってないとか月並みなやつ。逆に目が笑ってるってどういう感じなんだよと思う」
「ははは、違いないね」
その友達の洞察は実に正しいと思いつつ、私は今日の持ち物に思いを巡らせる。
いつもの仕事帰りなので、たいしたものは持っていない。
「今日はInstagramにアップする用の写真は撮らないの?」
「あー忘れちゃってたな。ここは味がおいしいけど、見た目は普通のイタリアンと変わらないから敢えて撮らなくても良いかな。」
「あくまで見た目が大事ってことなんだね。」
「夜景みたいなものが映り込むなら良いんだけどね。似たような写真だと義理のいいねしかつけてくれないからあんまり意味が無いんだよね。」
今日は早めに家に帰る必要がある。どうしてもみたい映画があるし、明日のためにやらないといけないこともたくさんある。
「今日は21時には家に帰りたいんだ。やらないといけないことがあるんだよね。」
「えー今日は泊まりに行きたいと思ってたんだよ。まだ一回も家に入れてもらったことないよね。小平君って立川あたりに住んでるんでしょ?この前、偶然車に乗っているのを見たんだよね。」
「その時、僕は何をしてた?」
「私も車に乗ってたから一瞬しか見てなかったよ」
「友達にも話した?」
「敢えて言うようなことでもないし、今確認しただけだよ」
私は今日のレストランを偽名で予約したことを確認し、帰り道で彼女を崖に突き落とした。
念のため、Instagramのアカウントを削除してから、丁寧にハンカチで拭き取って近くに投げておいた。大事なものだろうから近くにあった方がいい。
しばらくこのレストランには来られないことを悲しく思いつつ、家に帰った。




