ちょっとした事件
ロキシス達が異世界人だとバレて三日後の事。相変わらずロキシス達は家で暇を持て余していた。
「ねぇ、ロキシス。」
「どうしたんだ、エリナ?」
「何処かに出掛けない?」
「目的が無いからなぁ。何かあるのか?」
「うーん、良い景色を見に行くのは?」
「ここより綺麗な景色は無かっただろう?」
今ロキシスとエリナは縁側に座ってお茶を飲んでいた。山の上にあるので、縁側から見える景色はとても綺麗だったが、ビルが建ち並んでいるので、元の世界より馴染みが無かった。
「じゃあ買い物に行こうよ?」
「また変な男達に絡まれても嫌だからなぁ。」
ロキシスもエリナも見た目がいいので、ことあるごとに声をかけられていた。しかも全員男。どうやらロキシスを男だと思わず声をかけてきているようだった。
「何か認識を阻害する魔法があったらなぁ…」
エリナがそう愚痴った。
「あるにはあるが、余り使いたくないんだよ。」
「あるの!?」
「他にも姿を変える魔法もあるんだが…」
「そんなのがあるんだ?」
(昔、ロキシスに教えたんだけど、欠点があるのよね~。)
「えっ、欠点?」
「…あぁ。」
ロキシスは変身魔法を使うと、小さな狼に変身した。
「こんな風に、何故か小さくなるんだ。」
「きゃ~!可愛い!」
そう言うとエリナは小さな狼に変身したロキシスを抱きしめた。
(魔法って不思議なのよねぇ。完璧主義なロキシスでも、使い方がなっていない魔法もあるんだから。)
「やれやれ…」
ロキシスは元の姿に戻った。
「え~、もう終わり?」
「仕方ない…」
そうしてロキシスは今度は召喚魔法を使うと、フェンリルを喚びだした。
「ロキシス様、御用ですか?」
「久しぶり、フェンリル!」
そう言うとエリナはフェンリルに抱きついて、もふもふし始めた。
「ちょっ!?エリナ様!?」
「わーい、久しぶりの感触、もふもふだぁ…」
「ロキシス様、助けて下さい!」
「色々ストレスが溜まっているらしいんでな。悪いが暫くはそうしてやっててくれ。」
「そ、そんなぁ…」
そう告げてロキシスは立ち上がった。
「…どうしたの、ロキシス?」
「ハルカ達に、何か無いか聞いてくるよ。」
そうしてロキシスは客間に向かった。すると客間から声が聞こえてきた。
「そう言われましても…」
「お願いします、もうここしか望みは無いんです。」
「確かに相談事にはのりますが…」
「ハルカ、どうかしたのか?」
「あっ、ロキシス様。」
「実は仕事のことでちょっと…」
「ちょっと…」
「何があったのか教えてくれるか?」
「お願いします、娘を探して下さい!」
客人の女がそう言った。
「…娘?」
「はい。実は4日ほど前から、こちらの方の娘さんが行方不明だそうで…」
「警察には行ったのか?」
「はい、勿論です。毎日帰ってきていたのに、急に帰ってこなくなって…」
「ふむ…それは心配だな。」
「でも私達にもどうしたらいいか解らず…」
「その子の特徴が解る物と、地図はあるか?」
「え?」
「無いのか?」
「いえ、あります!」
女は写真を取り出し、リナがアマテラス神社の近くの地図を用意した。
「でもロキシス様、どうやって…」
「まあ見ていろ。しかしこれは自画像か?」
「写真という技術です。」
「ふぅん、便利な物だな。」
そういってロキシスは写真の女の子をよく見てから目を瞑り、地図に手をかざして、
「サーチ。」
と言った。
「ロキシス様、これは?」
「これは?」
「ミカ、リナ、静かに。」
「ここだな。」
そういって、ロキシスは地図の一角を指差す。
「…え?」
「信じるかは任せるが、間違いなくここにいるはずだ。」
「ここは…」
地図の場所は倉庫街だった。
「そんなところに娘が…?」
「ロキシス様、一緒に行って貰えますか?」
「あぁ。」
エリナ、ミカ、リナを残して3人で倉庫街へと向かった。
昼間なのに、倉庫街には人がいなかった。
「…寂れているな?」
「以前、経営者が不正を行ったそうで、今は使われていないんですよ。」
「それで、娘は何処ですか!?」
「ちょっと待て。…この2つ先の倉庫の中だな。しかし…」
「どうされました、ロキシス様?」
「…娘さん以外に反応がある。それも…10人位の。」
「…え?」
「とりあえず行こう。」
そういって3人で倉庫の中に入ると、そこには13人の女の子がいた。
「香織!」
女が娘の名前を呼ぶと、奥の方から、
「むー!」
と、声がした。女の子達は猿轡をされていて、後ろ手で縛られていた。女は娘を見つけて走って近付き、猿轡を解いた。
「…ぷはっ。お母さん!」
「香織、無事で良かったわ!」
その間に、ロキシスとハルカも女の子達を開放していった。
「大丈夫か?」
「はっ…はい!有難う御座います。」
「どうしてこんな場所に?」
「それが…解らないんです。道を歩いていたら、後ろからハンカチを押し付けられて…気が付けばここに…」
他の女の子達も同じ様で、首を縦に振るだけだった。
「取り敢えず、無事で良かったな。とっととここを出るぞ。」
ロキシスがそう言った時、後ろから、
「何だ、てめえらは!?」
と、声がした。ロキシス達が振り返ると、そこには20人の男達が立っていた。
「おい、人様の商売道具をどうするつもりだ?」
男の1人が言った。
「なるほどな、人身売買か。」
「…え?」
「不特定多数の人間を攫って、何処かに売り飛ばそうとしていたのか。」
「犯罪ですよ!?」
「ごちゃごちゃうるせぇ。てめえらも売り飛ばしてやる!」
そういって、7人の男達が襲い掛かってきた。しかしロキシスは立ち上がって、一瞬で男達の首筋に手刀を叩き込んで気絶させてしまった。
「なっ!?」
「ちっ、お前等も行け!」
男達の後ろから声がして、残りの12人の男達もロキシスに襲い掛かってきた。が、
「面倒くさい、バインド!」
ロキシスが足止めの魔法をかけて、その上でそれぞれの鳩尾に拳を叩き込んで黙らせてしまった。
「なっ!?」
「お前はかかってこないのか?」
「うるせぇ!」
男はロキシスに向かって銃を構えた。
「ん、何だあれは?」
「ロキシス様、危ない!」
ハルカがそう言った次の瞬間、男はロキシスに目掛けて発砲した。が、ロキシスはその撃ち出された弾丸を手で掴んだ。
「なんだこれ?」
「…え?ロ、ロキシス様!?」
「風の魔法より遅い。」
「なっ、何なんだお前は!?」
「取り敢えず、お前も黙ってろ。」
ロキシスは男に向かってサンダーボルトを放ち、感電させた。
「ロキシス様、大丈夫ですか!?」
「特になにも無かったが、警察に来て貰った方が良いな。」
と、ロキシスが女の子達の方を見ると、母親が携帯電話で電話をしていた。
「あれは?」
「携帯電話と言いまして、遠くの人と話をする機械です。」
「そうか。まだまだ知らない事が多いな。」
15分後、倉庫に警察が沢山やって来た。その中には拓也達もいた。
「…つまり、ここにあの香織って子を探しに来て女の子達を発見、そしたら男達に襲われたと…」
「そうだ。」
「うーん…しかしどうしてここに女の子がいると?」
「魔法で調べた。」
「また魔法ですか…やはり貴方は不思議な人ですね。」
「で、彼女たちはどうするんだ?」
「勿論、家に帰します。ですが、2、3つ、聞かなくてはならないこともありますし、家族に迎えに来て貰う必要もありますからね。」
「そうか。じゃあ後は任せた。ハルカ、帰ろう。」
「ちょっと待ってくれないか、ロキシスさん。」
「何だ?」
「犯人の1人が貴方が弾丸を素手で止めたとわめき散らしているんだが?」
「これのことか?」
ロキシスは受け止めた弾丸を見せた。
「一瞬で飛んでくる弾丸を止めたというのか…!?」
「あんなの、風の魔法に比べれば遅いもんだ。昔、至近距離で魔法を避ける訓練をしたからな。その応用みたいなもんだ。」
「…ますますよくわからない。」
「まぁ、理解されないとは思っているさ。」
それだけ告げて、ロキシスはハルカを連れて神社へと帰っていった。
「お帰りなさいませ。」
「なさいませ!」
「あぁ。」
「ミカ、リナ、なにも無かった?」
「それが…」
「そのぅ…」
「…?」
「エリナ様が…」
「何かあったのか?」
「いえ…その…大きな狼と一緒に…」
「一緒に!」
「あっ…お前達に言っていなかったな。」
「怖くて近寄れなくて…」
「なくて…」
縁側へと4人で向かうと、エリナはフェンリルを抱きしめながら、スゥスゥ眠っていた。
「フェンリル、お疲れ。」
「ロキシス様…」
「あのぅ、この方は?」
「俺が召喚した、フェンリルだ。」
「お初にお目にかかる。フェンリルです。」
「あっ…どうも。」
「ハルカにミカにリナだ。さてフェンリル、どうしようか?」
「エリナ様を放置して帰れません。エリナ様が眠ってしまわれてからは、ロキ様と話をしていましたが…」
「そうか。」
ロキシスは異空間から毛布を取り出して、エリナに掛けると、自身も縁側に座った。
(まあエリナが寝るまで、フェンリルは凄い勢いでもふもふされていて、可笑しかったわよ。)
「ロキ様!?」
「そうだったか。フェンリル、済まなかったな。」
「いえ…」
「ロキシス様、食事の準備をしてまいります。暫くお休み下さい。」
「あぁ、有難う。そうだな、いつもより4人分多く作ってくれるか?」
「…?」
「久しぶりに喚びだしたい奴等がいるんでな。」
「そう言うことでしたら、頑張ります。」
そう告げてハルカ達は台所へと向かった。
「さてと…」
ロキシスは目を閉じて意識を集中し、召喚魔法を使って、庭にケルベロス、フェニックス、トリマーを喚びだした。勿論、人の姿でだが。
「お久しぶりです、ロキシス様。」
「何かありましたか!?」
「フェニックス、落ち着け。おや、フェンリルは先に喚ばれていたのですな?して、ここは?」
「あぁ。今異世界に来ていてな。昼間に試しにフェンリルを喚んでみたんだ。上手くいったし、お前達も喚ぼうと思ってな。」
「なるほど。それは有り難いですね。」
「食事も用意してくれるから、ゆっくりと話そう。」
そうしてその日の夜はいつもより賑やかになった。
読んでくださっている方々、有難う御座います。