異世界人だとバレる
それからも暫くはなにも無かったのだが、やることも無く暇を持て余していた。
「全く、買い物に行けば変なやつに絡まれるし、屋敷にいればやることも無いし、どうしたものかな。」
事実、ロキシスとエリナは一日家で、ミカとリナに風習や文化等を学んでいたのだが、街を歩けば容姿の良さからか変な男共に話しかけられ、そのたびにロキシスがそれを排除する事になってしまい、警察のお世話になっていた。そのせいでロキシスもエリナも外出を控えるようになってしまった。
「せめて何かエミルの村に持って帰れるような技術を学べるかと思ったが…」
「うーん、どれもややこしいし、今のままの生活の方が皆には合っているよね。」
「我々も一昔前は薪などを使ったりしていましたが、科学の発展で生活環境は一転しましたから。その代わり、魔法などは衰退してしまい、我々の霊力…魔力は無くなってしまったのです。」
「でもミカやリナ、ハルカもそうだが、少しは魔法を使えるのだろう?」
「はい。我々はアマテラス様に従事しておりますから。完全に霊力が無くなってしまったら神との交信は不可能になってしまいますから。」
「ますから!」
「うーむ、難しい話だな。」
「そうね。私達は普通に接しているけれど、本当なら魔力や霊力が無ければアマテラス様やアテナ様とも話が出来ないなんて…」
(まあ、だからこそ私も黙っているんだけどね。)
「ロキ…」
(街中で誰も話していないように思われたら変に思われるでしょう?)
「そうね。でも、普通に話して欲しいな。」
(有難う、エリナ。)
そんな話をしていると、ハルカがやって来た。
「ロキシス様、あの…」
「どうした、ハルカ。」
「以前来られた事のある警官の方々が…」
「やれやれ、またか。」
「それが…お2人だけで無く、もう1人来られているのです。」
「そうか…解った。エリナ、ここに居てくれ。」
「解ったわ。」
そう話してロキシスは玄関へと向かった。
「どうも、バーンシュタインさん。お久しぶりです。」
「確か進藤拓也と中山敬介だったか?」
「えぇ、覚えていて貰えて良かった。」
「で、そっちは?」
「初めましてバーンシュタインさん、私は衣笠保奈美。この2人の同僚よ。」
「そうか。俺はロキシス・バーンシュタインだ。で、今日は何のようだ?」
「少し貴方と話がしたくて来たのですよ。でも、その必要もありませんでしたね。」
「ん?」
拓也と敬介の方をロキシスが見ると、2人とも驚愕な顔をしていた。
「やはり…おかしいとは思っていたが…」
「え…えぇ。先輩の言うとおりでしたね。」
「なんだ、2人とも。」
「バーンシュタインさん…いや、ロキシスさん。貴方は一体何者なんだ?」
「…何のことだ?」
「惚けないで欲しいですね。貴方は今、おかしな事を行ったんですよ。」
「おかしな事?」
「今、我々は日本語を話しているはず。しかし、保奈美はさっき英語で話しかけたんだ。英語に対して返答しているはずなのに、我々には日本語で聞こえていた。全く違う言語なのに、普通の人間にはそんなことは出来ない。」
「…」
「どういう事か説明して貰いますよ。貴方達の事をね。」
「…やれやれ、変なところで疑いを持たれることになったな。」
「説明は…して頂けますね?」
「まあ良いだろう。説明はしてやるが、信じるかは拓也、敬介、それから保奈美だったか?そちらに任せるさ。」
そう言うと、ロキシスは後ろを振り返り、
「ハルカ、3人を客間に通す。お茶の準備を頼む。」
「ロキシスさん、我々は…」
「前は警官の服装だったが、今日のそれは私服だろう?お茶でも飲みながらじゃ無いとまともに聞けない話だ。」
「解りました、お邪魔させて貰います。」
3人共靴を脱いで中へ入っていき、客間に入って座った。客間は畳敷きで椅子など無かったが、3人は正座した。唯一ロキシスのみ胡座を搔いていた。
「どうもその座り方は俺には出来ないんでね。この姿勢で話させて貰う。」
「えぇ、構いませんよ。」
「失礼します。」
ハルカがお茶を持って入ってきて、それぞれの前にお茶とお茶菓子を置き、去って行った。
「で、何を話せば良いんだっけ?」
一口お茶を飲んでロキシスが切り出した。
「単刀直入に聞きましょう。貴方は何者ですか?」
「…ロキシス・バーンシュタイン。まあ、人間では…もう無いな。」
「…巫山戯ている訳では無いようですね。」
「元人間。今は神だ。」
「この世界にも神を名乗る者は多くいますが、何か証拠になる物は?」
「そうだな…人間では無い証拠、見せてやりたいが、どうすれば信用できる?」
「何か神がかったこと…言語以外で証明して下さい。」
そう言われ、ロキシスはアクセスの魔法を使い、異空間からドラゴンの頭骨を取り出し、テーブルの上に置いた。
「この星の人間には出来ない芸当、それが魔法だと聞いている。その分科学とやらが進化してきたとな。これは魔法の中でもそれなりに難しい収納魔法だ。他にも魔法が使えるが、見せた方が良いか?」
「…この星と言いましたね?」
「あぁ。」
「貴方は他の星から来たのですか?」
「そう。この星、地球だったか?ここより文明は発達していないが、魔法が発達した星からな。我々は元々異世界だと思っていたから、異世界として話す。異世界から来た理由は1つ。お前達人間の生みの親、アマテラス様からこの星に侵略する者達がいると聞いて、それを食い止めるために来た。」
「そんな話を、信じろと?」
「ん?」
「実は貴方が侵略者じゃないんですか?」
「敬介!」
「…侵略するつもりなら、既に実行しているさ。それに、絡まれても命まで取っていない。」
「あっ…確かに…」
敬介も納得した様子になった。
「それより、不思議なのは言語の方じゃ無い?ロキシスさん、どうして様々な言語が使えるの?」
「魔法の1つに言語理解というのがある。どんな複雑な言語でも、瞬時に解読、変換してくれる魔法だ。唯一の欠点は、読み書きには対応していない。だからお前達がさっき言っていた日本語やら英語やらは理解していない。ただ単に自分の言語で話しているだけさ。」
「そんなことが出来るなんて…」
「異世界から来た事は説明されたが、神である証拠はなにも無いな。」
不意に拓也が言った。
「魔法が使えるのは解ったが、貴方が神だという事にはならないんじゃないか?」
「先輩?」
「聞かれた事に答えているだけだからな。どうすれば証明になるんだ?」
「アマテラス様に会わせてくれないか?」
「残念だがそれは出来ない。今忙しいらしいし、お前達には極力干渉しないと仰っていたからな。」
「神がかったことをしてもらうにも…証拠にはならなさそうね…」
保奈美がそう言った。
「でもこの骨を取り出したり、多言語も理解できている事も含めて、私はロキシスさんが嘘をついているとは思えない。信用して良いと思うわ。」
「それは自分も思います。この骨、化石じゃ無いですもん。間違いなく骨ですから。」
「そんなことは解っているし、ロキシスさんが悪い奴じゃ無いのも解る。勿論、エリナさんもな。」
「何かあるのか?」
「侵略者が現れるって言われて、それから守るためにここに来た神がいるなんて、誰にどう報告すりゃ良いんだって話だ。」
「この世界の人間は好戦的だとアマテラス様からは聞いているが?」
「そりゃあ、戦争も多くやったからな、我々の先祖は。でもこの星での話だ。他の星の侵略なんて…」
「まあ、信じられないよな?」
「それに守るって…具体的にはどうするんだ、ロキシスさん?」
「とりあえず攻めてきた相手と話し合って、交渉からかな。」
「話が通じなかったら?」
「全力で叩き潰せば良い。」
「…貴方も充分好戦的じゃ無いか?」
「悠長に話しても、伝わらないものは伝わらない。それとも侵略されて滅ぼされても良いのか?」
「それは…困るが…」
「まあ実際にそいつらが来るまで何も出来ないんだ。」
「その攻めてくる星の神と会話できないのか?」
「それも考えていたんだがな、長い間相手の神、アポロンと交信も対話も出来ていないらしいんだ。」
「そうですか…」
「もしお前達の方で、対抗できる手段があるなら、準備をしておいた方が良い。と言っても、一警官の言葉なんか、誰も聞かないかもしれないが…」
「「「…」」」
3人とも黙ってしまった。と、そこへ…
「ロキシス、まだ話は終わらないの?」
エリナがやって来た。
「もうすぐ終わるよ。」
(一体なんの話をしていたの?)
「俺達が異世界から来た事がバレた。」
「え…それって…」
「まあ、信じるかは3人次第だ。それより、何かあったのか?」
「うん…大丈夫かなって思って…」
「…?」
(この世界の人達、直ぐに馴れ馴れしく話しかけてくるから、不安になっているのよ、エリナは。)
「ロキ!」
「ん?何かあったのですか?」
拓也が考えるのを止めて、エリナの方を見た。
「い…いえ。何も。」
「そうですか。…ロキシスさん、すみませんね、考え込んでしまいました。」
「いや、いいさ。」
「とりあえず、今日は帰ってもう少し考えてみますよ。」
「解った。気をつけて帰れよ。ハルカ、帰るそうだ。」
「はい、ロキシス様。」
間髪おかずにハルカ、ミカ、リナがやって来た。そして拓也達は帰っていった。帰ると同時に、エリナがロキシスに抱きついた。
「どうした、エリナ?」
(エリナは寂しかったのよ。ロキシスに相手して貰えなくて。)
「ロキ…」
(私も寂しかったわ。)
「そうか…済まなかったな。」
少し照れながら、ロキシスはエリナを抱きしめて、頭を撫でた。
読んで下さっている方々、有難う御座います。