俺に何があったのかの話
宰相。国王様が最終決定権を持つのに対して、政治と言う事柄に対してのプロフェッショナルで実質的に国の政を担当している役職、と言ったところか。
詳しいことは俺もちゃんとはよく分かっていないのだけど、元居た世界の元居た国的な観点で法務大臣、ってところかな。
王女様と言い、こんなところに来る立場の人では無い。そんな偉い立場の人が、どうしてこんなところに。
『さ、宰相殿……?!』
『そんなにここに来るのが意外かね?大きな騒ぎになっている上に王女様が向かったと聞いてね。王女様を引き取るついでに私が法的視点で判断しよう。それで問題は無いでしょう、王女殿下』
『ふん、好きにすればいいわ』
普段、城を守る兵士言えどもこんな至近距離で言葉を交わすような機会はそうそうない。
普段から問題を起こしている王女様に比べると更にここにわざわざ来るのかもわからない人だ。
普段は仕事に忙殺されて、執務室から出て来ないとまで言われてる人なのを、俺ですら知っている。
『して、彼女が侵入者かな?』
『いえ、まだ確定ではなく……』
『ふむ、だが見覚えの無い子だ。調書を見せてくれたまえ』
『か、構いませんが……』
先程まで、男性兵士が書き留めていた書類を手渡し、宰相さんが内容を読む。
顎に手を当てて熟考する姿は流石の貫禄で、如何にも頭の良い感じの人だな、と感じる。
やがて調書を読み終えたのだろう。姿勢を解き、顔を上げると宰相は口を開く。
『率直に言えば、とてもじゃないが信じられん。と言う感想になるな。仮に彼女の言う事が本当だとしても、それを証明出来る手立てがあまりにも薄い』
『ですので、これから更に詳しい調査を……』
『どうやって?彼女の語った情報は確かに最新だが、既に勇者殿にやって伝えられたモノばかりだ。元より優れた諜報員であるならば、出来ぬ事も無かろう。まぁ、それを認めれば我が国の情報管理能力が低いと言う事になるが、それとこれとは話が別だ』
『ですが、それならば逃げるか自害をするかするでしょう。彼女はここに来るまで抵抗らしい抵抗すらしていません』
『ふむふむ……。勇者を騙るにはあまりにも荒唐無稽。だが、諜報員とも考えづらい、か』
確かに悩ましい話だ。宰相はそう言ってまた顎に手を当てて考え込む。
彼にとって、俺は勇者とは到底信じられないが、諜報員や工作員と言った可能性も確かに低い。という認識らしい。
……確かに、俺も今の姿の俺を見ても未だに実感がわいていない。
間違いなく俺の肉体は女性のそれに変わってしまっているのは疑いようも無いけど、納得と言うか、理解が追いついていないんだ。
他人からすれば、嘘を付いているようにしか思えないんだと思う。
『では、こう手を打とうでは無いか。彼女を城下に追放と』
『えっ』
『さ、宰相殿、それは早計では……!!』
そんな宰相さんの決定に、途方に暮れていた俺も思わず声が漏れる。
焦る男性兵士の声も聞こえるが、頭の中に吹き上がった不安に押し流されていった。
え?城下?追放?なんで?俺、勇者なのに……?
混乱する俺を他所に話はドンドンと進んで行く。
『しかし、もし彼女の言う事が事実だとしたら……』
『たらればの話で話を進めるのは好かないね。そのもしもはあまりにも可能性が低くはないかい?まだ、こう言った方が理解が出来る。王城に部外者を連れ込んでいた勇者が罰則を恐れて、彼女を置いて逃げ出したと』
『勇者殿はそのような方ではありません!!』
『だが姿が見当たらない。いるのは勇者を名乗る不審な少女。それを城下への追放で手打ちにすると言うのだ。随分と温情を与えてると思うが?』
『……っ!!』
政に慣れ、舌戦など日常的な宰相と、ただの城勤の兵士では口先の強さは天と地ほど。
あっという間に言い負かされてしまった彼は次の句を告げなくなり、黙り込んでしまった。
『では、その手はずで』
こうして、俺は勇者では無くなり、着の身着のまま、城を追放された。