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俺に何があったのかの話

意識を失っていたのはそれほど長い時間ではなかったと思う。


『っ!!』


『もう起きたのか。まぁ、でも、もう遅いよ!!』


ハッと目を覚ました時には怪しげな魔法使いが俺を殺すためにわざわざ意識を失っていたと思われる魔法を完成させたところだった。


思い返せば、余裕だと油断していたのか何なのか。ナイフででも気を失っている俺の首をサックリやれば良かったのに、詠唱や準備が必要な魔法を使って俺を殺そうとして来ていた。


あの時、冷静にナイフなどで刺されていたら、間違いなく助からなかったと思うとゾッとする。


『――らぁっ!!』


そうでなければ、懐に隠し持っていた盾の魔法を込めた魔道具を発動させることは難しかっただろう。


2日に一度だけ、詠唱も魔力も消費することなく使えるいざという時に便利な魔道具。訓練で指導してくれた誰かが譲ってくれた物だけど、これは冒険の道中でも幾度となく俺を助けてくれた頼もしいペンダント型の魔道具だ。


頼り切るのは勿論良くないけど、こう言った奇襲とか、土壇場のタイミングで切れる手札と言うのは、とても便利なものだった。実際、この時もこの魔道具が無かったら、無傷では済まなかったはず。


『なにっ!?』


『隙だらけだ、ぜっ!!』


飛んで来た魔法を盾の魔法で受けきると、その影から躊躇いなく飛び出す。魔法使い相手の鉄則は詠唱をさせない事。方法は何でもいい、それなりに多くある選択肢の中で俺が選んだのは最もシンプルなもの。


『接近戦に持ち込む』


ゼロ距離での攻防に、口を開く余裕なんて殆どない。ましてや魔法は強力になれば成る程魔力操作も繊細になるし、詠唱も長くなる。一言で発現出来る魔法なんで、懐中電灯代わりの灯りを灯すことくらいだ。


そして、漫画やアニメでよくある無詠唱や詠唱短縮なんて方法もこの世界には存在しない。


あんなの、頭で考えただけでパソコンのプログラムを組んでいるのと同じだ。後100年たてば、元の世界でも出来るようになっているかも知れない。この世界の魔法だって同じ。

出来たら凄いけど、今はどんなに頑張っても出来っこないもの。


故に魔法使いは総じて近接戦に弱いのが常だ。今回も、その例には漏れなかった。


『ぐっ?!この、くたばり損ないのクセに……!!』


文句を垂れる魔法使いが危なげに俺が振るった短剣の一撃を杖で受け止める。

俺はその杖ごと折るつもりで振るったのだけど、短剣は切っ先を杖にぶつけるだけで終わってしまった。


『あれ……?』


『ははは、バカが!!僕の秘術で身体が変化しているのも分からないなんて、やっぱり勇者だなんて言っても愚図じゃないか……!!死ねよ、勇者!!』


いつもの感覚で振るったのに、距離も威力も全然足りないことに首を傾げていると、とうとう魔法使いもこの距離での魔法の行使を諦めて、俺と同じように短剣を取り出して飛び掛かって来た。


だが、俺からすればお粗末だ。全体的に遅いし、雑だし、何より身体の動かし方を分かっていない。子供が棒を振り回しているのと同じだ。


『よっ、おっと、んん~?』


『このっ、避けるなっ!!死ねよっ!!死ねって言ってるだろ!!』


相変わらず喚く魔法使いの短剣を避け、いなし、受け止めながら、俺は自身の身体の違和感に疑問を深めていく。


何と言うか、全体的に縮んだ?手足がいつもより少しだけ短い。あと細い。専用に作った短剣の握りがあっていない。

そこまで認識をしていながら、この時の俺は、まだ自分の身に何が起こっているのかを把握していなかった。


『何かございましたか、勇者様』


『敵襲だ!!衛兵を呼べ!!』


『ちっ!!近衛のドンガメ共も気づきやがった!!クソッタレが!!』


部屋の中で騒いでいるのを恐らく近くを通った近衛兵が気付いたのだろう。扉越しから呼び掛けてくる声に、俺は咄嗟に指示を飛ばし、逆に魔法使いは舌打ちをしながら窓へと駆け寄っていく。


『待て!!』


『あばよ腐れ勇者!!能無しの分際で僕より有名になった罰だ!!』


捨て台詞と共に窓を突き破って城外へと躍り出た奴は、飛行魔法か何かを使って、あっという間に城の外まで逃げ出してしまった。


『何事ですか勇者様!!……勇者様?』


『ゴメン、逃げられた。寝込みを襲われた。特徴は覚えてるから警邏隊に連絡して――』

ただ事ではないと悟った近衛兵が扉を破って中に入って来る。勇敢な彼に感謝を感じつつ、一応勇者として、敵に逃げられてしまったことを謝り、王城にまで忍び込んだあの魔法使いを警邏隊に捜査してもらおうと思ったのだけど。


『……貴女はどなたですか?』


『……は?』


思ってもみなかった言葉を投げかけられ、思わず固まった。その拍子に、もうその身体に合わなくなったシャツの首元がずり落ちて、細くなった肩がむき出しになった感触を俺は嫌に成る程覚えている。


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