夏だからって何か進展するのは間違いだと思います(切実
ようやく気をつけの姿勢を取った俺を、再びアデューラさんがじろじろと見る。品定めをするような視線は正直こわい。と言うか何か言ってほしい、猛烈に不安になる。
「……まず一言。下着も地味」
「ふぐぅ」
訂正、出来れば言わないでほしかった。
仕方ないじゃん、こんなことになると思ってなかったから唯一持ってる可愛らしいタイプの下着なんて着てなかったんだから……!!
普段から女子が可愛い下着付けてると思うなよ。すみません出しゃばりました、許してください。
「サニタリーショーツじゃん。普段使いするもんじゃないでしょ」
「か、可愛い物を着てもしょうがないかなって……」
「はぁ?女子は着飾ってなんぼでしょ?化粧とオシャレは女の武器。元が良いのにそんなの宝の持ち腐れも良いとこじゃない。それで男を落すって正気?」
「おっしゃる通りで……」
もうこのやり取りだけで俺の心はズタズタである。
彼女の言うことは分かる。どんなに優れた素材でも、それを活かせなければ意味がない。
例えば剣で言えば、今の俺は素材だけが良い鉄だ。鉄だけでは剣としての役割を得られない。
沢山の手を加えて、ようやく剣として立派な武器になるのだ。
化粧とオシャレは女の武器とは、確かにその通りなのかも知れない。
セーロと言う想い人(敵)を落したければ(斬りたければ)、己(素材)をちゃんと加工しろ、と言うことなのだ。
素材だけで勝てるのはそれこそ傾国の美女。いや、傾国の美女こそ、この理屈を分かっている人たちなのかも知れない。
「で、次。下着のサイズ合ってない」
「こ、これじゃダメですか……」
次に彼女に指摘されたのは下着のサイズ。主にブラジャーの事だろう。
下と合わせて地味な、所謂スポーツブラと呼ばれるものに押し込むようにして詰められた胸は、やはり端から見てもサイズが合ってないらしい。
だ、だって下着のサイズとか分からんし……!!一人で下着ショップはいるとか勇気要るから無理だし……!!しょうがないじゃん。ハイ、しょうがなくないです。すみませんでした。
「ダメに決まってんでしょうが。何よそれ、スポブラにぎゅうぎゅうに詰め込んでんじゃないわよ。胸の形は悪くなるし、明らかに窮屈でしょ。揺れるのが嫌ならちゃんと高いやつ買いなさいよ。ココリネおばさんのところで厄介になってるなら、それなりにお給料もらってるんでしょ?」
「そ、それなりには……」
グレンツェンでのお給金が相場とどの程度違うのかは分からないけど、お金自体は結構溜まっている。
セーロと何回かいったデートでは、大体セーロが出してくれるし、昼間から夜まで基本働いているので、あまり遊びに行くことも無い。
「化粧もしてないし、髪は特に手入れして無さそうだし、あぁもう良いわ。私のとこに来た以上は徹底的にオシャレを叩きこんであげる。私の仲間も呼ぶから容赦しないわよ」
「ひえっ」
意気込むアデューラさんを見て、俺は思わず小さな悲鳴を上げる。これはあれだ、今日は帰れないかも知れない。
仲間を呼ぶと言うことはここからきっと数人増えて揉みくちゃにされるんだろう。一体、俺はどうなってしまうんだろうか。
「ちょっと声かけて来るからここで待ってなさい。30分くらいで戻って来るから。あ、一旦服は着てて良いわよ」
「あ、はい」
お仲間さんを呼ぶため、部屋の外に出て行ってしまったアデューラさんを見送りながら、俺は茫然と部屋の真ん中で佇むことしか出来なかった。
ここで逃げても、お店まで来るもんなぁ……。
俺は諦めて、いそいそと脱いだ服を着始めた。真面目に帰れるの何時になるだろう。せめてセーロが来る頃までには帰れますように……。




