俺に何があったのかの話
そこからはひたすらに忙しい日々だった。
戦う訓練とこの世界で生き抜くための勉強をひたすらに繰り返す、今思えば地獄のような日々だったと思う。
当時は付いていくのに必死でがむしゃらに熟していたんだけど、今思うとあのモチベーションがどこから来ていたのかはよく分からない。
とにかく、必死だった。覚えないと死ぬから、必死になって覚える俺と、早く覚えてもらわないと困るから、必死になって教える俺の教育担当になった人たち。
正直ほぼ日替わりくらいのペースで教師役が変わってたから、名前も顔も一致しないんだけど、皆が皆良い人ばかりだった。訓練や勉強が終わった後にはご飯を奢ってくれたり、他に役立つ本や教材、武器や防具のおさがりをくれたり、至れりつくせりな状態だった。
最初は勇者だからかと思ったんだけど、たまたまそれに関して気兼ねなく聞ける機会があって、その時に『お前が良いやつだから、皆良くしてくれるんだよ』と言ってくれた。
素直に嬉しかった。
そんな順風満帆そうな駆け出し勇者生活も、なんでもかんでも上手く行っている訳じゃなかった。
まず些細なことと言えば些細なことなんだけど、俺の得意な武器が勇者には少々似つかわしくない、短剣という武器に収まってしまったことだ。
勇者、とくれば真っ先に思い当たる武器はやっぱり剣だと思う。短剣じゃない、腰からぶら下げる立派な直剣だ。
次に大剣や双剣と言った武器が上がって来ると思う。
そんな中で、俺の好みに合致したのがまさかの短剣。これでは格好がつかないと、大々的にお披露目するつもりだったらしい外務大臣?さんが頭を抱えていたのを覚えている。
と言っても、俺はあまり目立つつもりはなかったし、勇者なんて言ったってやるのは魔物の発生源の調査。
被害は相応に大きいけれど、だからと言って大々的に発表する内容かと言われれば首を捻ってしまう。結果として、俺が勇者とは公表されず、世間には勇者が現れ今の状況を打開してくれるだろう、と言うお触れだけが発表された。
あの時のプレッシャーはインターハイを賭けたレースよりも重く感じたよ。何せ人の命が掛かっているからね。
もう一つは、王女様だ。これがとてつもなく厄介で大変だった。
なにせ王女様は大の男嫌い。彼女の視界に入ろうものなら問答無用で牢屋に入れられるなんて噂されるくらいのとんでもない人だった。
俺も勇者として誓約を交わす際に衣食住の確保を条件の一つにしていたので、安全面の都合上から王城の一室に住まわせてもらっていた。
広い王城と言えど、何日もいればすれ違わない人も少なくなる。俺と彼女も例に漏れず、たまたま訓練場に向かう途中の俺と、なんかの用事があって王城の廊下を移動していた彼女がバッタリ出会ってしまったのだ。
その瞬間、彼女はこう言った。
『不潔な男が私の視界に入るだなんて無礼極まりないわ。不潔っ、不潔よ!!』
無礼なのはどちらだろうか。一目見て王族関係者だと悟った俺は、廊下の端に寄り、失礼の無いよう道を空けていたのだが、そんなことはお構いなしと罵声を浴びせると、隣にいた侍女に身振りで指示をした。
『あっぶな?!』
『動かないでくださいまし。殺せないではないですか』
途端に支持を受けた侍女が隠し持っていたナイフを俺の首に突き立てようと飛び掛かって来た。
大慌てで避けた俺に淡々と言う侍女だけど、冗談じゃない。何もしていないどころか、完全な言いがかりだ。そんなしょうもないことで殺されて誰がたまるか。
向こうが武器を抜いている以上。こちらも半端な対応では真面目に殺される。俺は既に受けていた戦闘訓練の内容を反芻しながら、躊躇いなく持っていた訓練用の剣を抜いた。
反逆罪で首が飛ぶかも分からないけど、何にせよ理不尽で殺されるのはごめんだった。
まさかの日間総合ランキング入りです。ありがとうございます。
まだ3Pなんですけどね。期待していただいていると言う事だと思うので、頑張って行きたいと思います。
まだ少し、主人公の身の上話が続くので、ラブコメは待っていただけると
あと、作者の代表作。『魔法少女アリウムフルール』も出来ればよろしくお願いします。