夏だからって何か進展するのは間違いだと思います(切実
ズルズルと引きずられるように外に連れ出された俺は、何とか体勢を立て直しながらおばさんに必死に付いて行く。
相変わらずアクティブな人だ。もう60はとっくに超えている筈なのにこのパワーは一体どこからあふれ出て来るのだろうかと思う。
そのくらいの人でないと、あのグレンツェンを今までたった二人で切り盛りなんて出来ないんだろうけど。
「お、おばさん!!買いに行くのはこの際良いんだけど、どこ行くつもりなの?!」
「知り合いの仕立て屋さ!!腕は良いから安心しな!!」
「そ、それは分かったからもうちょっとゆっくり――」
「そうら、シャキシャキ歩きな!!のんびりしてる暇は無いんだからね!!」
俺の言葉を無視してズンズンと城下町の人通りの多い道を進んでいくおばさんに、まだお昼なんだから。急がなくても良いと思ったのは、俺だけじゃない筈だ。
やって来たお店は、ハッキリ言うとかなりオシャレなお店だった。どちらかと言うと狙っているターゲットは若者。
城下で流行っているデザインや色を中心に、この夏をオシャレに過ごしたい若者向けのファッションブランドショップ、と言うのがそのお店の外観を見た時の第一印象だった。
この世界の人は、魔法があるため道具の便利にはほとんど興味は示さないけど、単純な文化に関しては元居た世界とそう大差ない。
便利と娯楽はまた別の話なのだろう。強力な魔法を使えるのはごく一部だけれど、日常で使う魔法くらいなら、一般人でも扱える。
服を作るのも魔法だ。道具を使ってチクチク縫って行くのではなく、必要な材料を揃え、デザインを明確にして、魔法を唱えれば服が出来上がる。
相変わらず、物を使う、創るという過程をすっ飛ばしたトンデモ手法なのだが、これが魔法なのだからしょうがない。
作る過程なんて考えずとも、結果だけを導くのが、この世界の魔法なのだとは勇者をやっている最中に気付いたことだ。
そんな文明(道具)の発達はしていないのに、文化の発達はしっかりしている何とも不思議なこの世界のオシャレな衣服店に、俺は初めて入ったのだった。
「いらっしゃいませー。あれ?ココリネおばさん、どうしたんですか?こっちに来るなんて珍しいですね?おばあちゃんなら家にいますよ?」
「今日はアルラじゃなくて、アデューラ、アンタの方に用があるからね」
キラキラと若者受けしそうな明るい色合いの店内に引きずり込まれると、ココリネおばさんは店員さんの一人と思われる女性。小柄ながら豊満な体格からドワーフと思われる女性がおばさんといくつかやり取りをしていると、おばさんにまたズイっと腕を引かれて女性の前に引っ張りだされる。
「この子の水着を一つ拵えて欲しくてね。年頃なのに色気の無い服ばかりなもんだから惚れた男に靡いてもらえないんだよ」
「んなっ!!!!!」
色気が無いとは失礼な、と一瞬ムッとしたが自分の今の服装を見てその感情もスッと消えて行く。
濃紺無地の半袖シャツにひざを隠す程度ののこちらも地味なベージュで無地の動きやすさ重視のスカート。
髪は肩口にようやく届いたくらいで、朝梳いたきりだ。仕事中に邪魔な時は雑に結んだり前髪をピンで留めたりする程度で、何かをしている訳では無い。
脚はこの国ではこの時期オーソドックスな革製の編みサンダル。
色気は壊滅的に無かった。
「あー、確かに色気は無いね。私はここの店長のアデューラって言うんだ」
「うぐっ……。アユムって言います。その、お手柔らかに?」
アデューラと名乗った俺よりも頭一つ分小さい彼女に、ズバリ色気が無いと初対面でバッチリ指摘されながら、俺はガックリと項垂れるしかなかった。
何故かアデューラの瞳の奥が煌々と燃えているようにしか見えなかったのは、多分ウソでは無いと思う。
複数連載を円滑に進めるため、更新スケジュールを『可能な限り毎日18時』から『可能な限り1日おきの18時』に変更します
例
○月/2日に投稿→4日→6日……
と言った具合です。更新ペースは遅くなりますが、3作品同時進行の方法を考慮した結果なので、何卒よろしくお願いします